第133話 救いの翼、絶望の地
僕は不慣れなホバーキャリアを操縦し、浅川へ急いだ。敵の装甲車が1台追いかけてきているが、ホバーキャリアの方が小回りは効いて、何とか砲弾を凌いでいる。
「(川だ、あそこに入れば…)」(隼人)
視界の先に、浅川の堤防が見えた。僕は迷わずガードレールを突き破り、増水して濁流が渦巻く水面へとホバーキャリアを突っ込ませた。
「な、なにするのよ! 溺れ死ぬ気!?」(天津種)
「こいつは水の上も走れるんです!」(隼人)
キャリアが着水した瞬間、底部のスカートから高圧の空気が噴き出し、車体は激流の上を滑るように加速した。追撃してきていた装甲車は、岸辺で急ブレーキをかけ、悔しげに砲弾を放つが、水面を蛇行する僕たちを捉えることはできない。
「クソが、逃げられた…。」(ミック・ネンゲビ上等兵)
「軍曹殿、俺が泳いで後を追います!」(ルディ・レゴビッチ一等兵)
「待て! 向こうに何か見える。」(センプウ・テトアン軍曹)
「あれは、敵の偵察隊ですね。」(ネック・ジトゥーラ一等兵)
「蹴散らすぞ!」(テトアン)
「あれは、1偵!」(隼人)
「敵装甲車、河岸沿いに展開中! 数、3!」
「慌てるな。側面を取る」(砂月斗玄二等陸尉)
RCVが水際のぬかるみを切り裂くように旋回する。敵の装甲車が砲塔を回す――だが遅い。
「撃ち方始め」(砂月)
乾いた号令。次の瞬間、25mm機関砲が咆哮した。
ドドドドドッ!!
側面装甲に叩き込まれた弾丸が、火花とともに装甲を剥ぎ取る。
「くっ……下等生物が!」(テトアン)
テトアン等は水中から避難し、RCVへ接近を図る。水面から顔を出した瞬間――
ドオオオオン!
25mm機関砲が襲う。
「次弾装填!」
ドオオオオン!
「おのれ……」(テトアン)
テトアンとその部下の膝が砕け、水面に沈んだ。
「制圧完了。」(砂月)
戦闘は、30秒で終わっていた。
「(助かった!)」(隼人)
背後で激しい爆発音が響く。1偵の介入により、僕たちを追っていた装甲車は釘付けになった。
「104が来るぞ! 離脱ポイントへ急げ!」(砂月)
砂月小隊長の怒号に近い無線が、僕にも飛び込んできた。前方、河川敷の開けた場所に、救難用の大型ヘリCH-47Jが巨大なローター音を響かせながら降下してくるのが見えた。
「段場、あそこよ! 急げ!」(天津種)
天津種中隊長が、僕の肩を激しく叩く。僕は祈るような気持ちで、死の淵にいるクラウスレイさんと負傷した三宝寺を乗せたまま、救いの中地へとキャリアを滑り込ませた。
「負傷者2名、1人は意識不明、もう1人は腕を負傷も意識あり!」(隼人)
「了解した。急ぎ搬送する!」(伊真利貴人三等陸曹)
怪我人を伊真利三曹に託し、僕は急ぎ戦場へ戻った。
「全員乗ったわ、急ぎ出発しなさい!」(天津種)
「ん?(何でいるんだ?)」(伊真利)
「(ま、まあ怪我人もいるし行くか…。)」(伊真利)
搭乗した天津種に違和感を覚えつつも、チヌークは飛び立った。
僕は、天津種中隊長がチヌークに乗ったのは把握していた。しかし、クラウスレイさんの状態は一刻を争うので、その場を後にした。チヌークもすぐに飛び立ったが、操縦士さんも同じ気持ちかもしれない。まったく……。
敵から鹵獲したホバーキャリアは思っていたよりも丈夫で、ガードレールを突き破った後も、表面に傷がついただけだった。
「(急げ、皆無事でいてくれ…。)」(隼人)
僕が八王子の激戦地へと戻った時、そこにあったのは、もはや戦場という名の「屠殺場」だった。
「……あ、ああ……」(隼人)
視界が歪む。敵の機械科歩兵大隊の圧倒的な火力の前に、防衛線は文字通り粉砕されていた。さっきまで僕たちを送り出してくれた仲間たちが、敵の放つレーザーに焼かれ、巨大な装甲車両に文字通り踏み潰されていく。
「杏南! 小城! どこだ!!」(隼人)
叫びながらキャリアを爆走させる。瓦礫の陰で、右脚を血に染めて倒れ込んでいる善最二曹が見えた。その横では、空になった弾倉を投げ捨て、銃剣を抜いて立ち上がろうとする橋本中隊長が、怪物のような装甲車を睨みつけている。
「……段場、か。なぜ……戻ってきた……!」(橋本)
「連れて行くために決まってるでしょう! 早く乗って……!」(隼人)
僕が叫んだその瞬間、前方の建物が爆発した。崩落するコンクリートの雨の中、ボロボロになりながらも立ち上がる影――小城だった。
「隼人……クラウスレイさんは……?」(小城)
「届けた! あとは、皆を連れて行くだけだ!」(隼人)
「……無理だ。あいつら……もう、そこまで来てる……!」(小城)
小城の指さす先、噴煙を割ってドトリマンの駆ける装甲車両が、処刑を宣告するようにその巨体を現した。小城も、橋本中隊長も、そして反対側の瓦礫から這い出してきた杏南も、もう限界だった。僕のホバーキャリア1台で、この包囲網を突破できる確率は――ゼロだ。
ドトリマンが笑いながら、装甲車の20mm砲を、僕たちの中心へと向けた。
「終わりだ、下等生物。キャリアごと、肉片に変えてやろう!」(ドトリマン)
死のカウントダウン。僕は思わず目を閉じ――、
――その時、大気を震わせる「音」が、僕たちの絶望を塗りつぶした。
「撃て!」(ドトリマン)
ドトリマンの声が響く。砲口が、こちらを向く。時間が、止まる。
「(ここまでか――)」(隼人)
そう思った瞬間――空が裂けた。
ドオオオオオン!
視界が白く弾ける。次の瞬間、敵の装甲車が存在ごと“消えていた”
「……は?」
誰かの声。遅れて空から落ちてくる破片。そして――まだ鳴り止まない、あの音。
「……なんだ、今のは」(隼人)
絶望の中に、別の“何か”が割り込んできた。
登場人物紹介
砂月 斗玄
生年月日:1985年1月10日 / 出身:東京都
階級:二等陸尉 / 所属:第1偵察隊第1偵察小隊小隊長
伊真利 貴人
生年月日:1996年12月3日 / 出身:群馬県
階級:三等陸曹 / 所属:第1ヘリコプター団104飛行隊
センプウ・テトアン
種族・性別:リザードマンの男性
所属:階級:陸軍軍曹で、ドトリマン率いる機械科歩兵大隊の1人
ミック・ネンゲビ
種族・性別:ドワーフの男性
所属・階級:陸軍上等兵、ドトリマン率いる機械科歩兵大隊の1人
ルディ・レコビッチ
種族・性別:リザードマンの男性
所属・階級:陸軍一等兵、ドトリマン率いる機械科歩兵大隊の1人
ネック・ジトゥーラ
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:陸軍一等兵、ドトリマン率いる機械科歩兵大隊の1人
段場 隼人……本編の主人公
小城 聖太……隼人の同期
橋本 紋次……35普連1中隊の中隊長
天津種 麗……35普連2中隊の中隊長、何故か怪我人と一緒に搬送された
スベン・ドトリマン……三宿に駐在している機械科歩兵大隊の大隊長




