第132話 浅川へ急げ
「(来る……っ!)」(隼人)
視界の端で、敵軍装甲車の機関砲が火を噴くのが見えた。アスファルトが爆ぜ、巻き上がった礫が頬を掠める。
「止まるな! 走り抜けろ!」(ペッシ)
前を走るペッシさんが、走りながら腰のホルスターから信号弾を抜き出し、後方の装甲車に向けて放った。直撃こそしないものの、強烈な発光が砲手の照準をわずかに狂わせる。その隙に、僕はクラウスレイさんを背負い直し、コンクリートの残骸を飛び越えた。心臓が破裂しそうなほど脈打ち、肺が灼けるように熱い。でも、背中の重みが“ここで止まるな”と命じていた。
「(まだだ……まだ死なせちゃいけないんだ!)」(隼人)
前方100m。目標のホバーキャリアが、敵兵の怒号の中に鎮座している。
「あと少し!」(イーゴ)
ペッシが振り返る。
「(段場…よし、着いて来れてる!)」(ペッシ)
だが、その進路を阻むように、2体の歩兵がを構えて立ち塞がった。
「撃てぇ!」
「!!」(イーゴ)
「ちくしょう、ここまで来たのに…」(イーゴ)
擲弾が直撃した。
「――あ」(イーゴ)
それが、イーゴさんの最期の声だった。
その爆風でペッシさんも吹き飛ばされ、背中を強く打って起き上がれないようだった。
「う、うう…」(ペッシ)
その隙をグーリエ星人が見逃すはずもなく、ペッシさんを取り囲んだ敵歩兵が、軍刀を突き刺す。何度も、何度も…。
「うぐあああああああああああああああ」(ペッシ)
声にならない声が、水と血に沈んだ。
ペッシさんの断末魔の悲鳴を聞きながら、僕は先程の歩兵と対峙している。当然、僕にも自動投擲銃が向けられている。
「くそ、最後まで諦めないぞ…。」(隼人)
僕は89式小銃を構え、引き金を引いた。
「隼人、下がれ!」(小城)
その時、小城が僕の前に現れた。小城は、素早い動きで目の前の2体を仕留めた後、こちらに砲口を向けた装甲車両に発砲した。小城の弾が、開きかけた砲口の内部に吸い込まれる。次の瞬間――内部から爆ぜた。
ドオオオオン!
敵装甲車両は砲口の中で暴発し、僕達は無事ホバーキャリアを鹵獲することに成功した。
「隼人、三宝寺を拾ってお前は立川へ向かえ! さっき、救護用のヘリが出ると連絡が来た! まずは浅川まで向かえ!」(小城)
「分かった! 死ぬなよ、小城!」(隼人)
「お前は怪我人を死なすなよ!」(小城)
僕は急ぎ、三宝寺の下へ向かい、彼を乗せた。
「私も行くわ。私がいれば、通信が通る可能性があるわ…!」」(天津種)
天津種中隊長もホバーキャリアに同乗した。腐っても中隊長。確かに本部との通信はスムーズになるかも。
「(残っても役に立ちそうにないし…)」(隼人)
「羽虫が逃げるぞ!」(フランシスコ・ファストゥーロ少尉)
「小隊長、追いますか?」
「当然だ! 一匹たりとも逃がさん!」(ファストゥ―ロ)
「追手よ、追手が来るわ!」(天津種)
天津種中隊長が怯えて叫ぶ。一機の敵装甲車が、僕らの方へ向かっている。当然、僕だって分かっている。しかし、それよりも今は一刻も早く、1mでも先に進むことが優先だ。あの装甲車は仲間に託すしかない。
「三宝寺、クラウスレイさんの状況を見守っていてくれ。」(隼人)
「りょ!」(三宝寺)
三宝寺の意識ははっきりしている。片腕を怪我して不憫だと思うが、僕はこのホバーキャリアを操縦しなければならない。幸い、車と同じ要領で操縦出来た。変にパスワードもかかっていなかったので、僕らは浅川へ向かうことが出来た。
「(……まだ、呼吸はある……!)」(三宝寺)
「段場を守れ! 何がなんでもクラウスレイを搬送するんだ!」(橋本)
「止まりやがれ!」(諏訪)
「周りの歩兵は俺が!」(小城)
小城が周辺の歩兵を仕留めている間、諏訪はファストゥーロが乗る装甲列車のハッチを開け、乗組員を1人ずつ仕留めていく。その横では、杏南が同じように高校車両のハッチを開けて敵を仕留めていた。
「(小城の奴、あいつも俺と同じように力に目覚めたな。さっきよりも動きが全然違う。…ありがたい。こういう奴は1人でも多い方がいい。)」(諏訪)
「苫米地、小城! 俺達は装甲車両を破壊するぞ!」(諏訪)
「了解!」(杏南、小城)
「段場、行け!」(橋本)
振り返るな、と言われている気がした。それでも――振り返りそうになる足を、無理やり前に出す。背後で、装甲車の砲が火を噴いた。
登場人物紹介
フランシスコ・ファストトゥーロ
種族・性別:ヒト族の男性
所属・階級:陸軍少尉で、三宿に駐在している機械科歩兵大隊
備考:諏訪によって討たれる
イーゴ:本名:出来谷 碧生
生年月日:1995年3月31日 / 出身:鳥取県
階級:三等陸曹 / 所属:GAST「ラビット班」
享年:26歳
ペッシ:本名:河西 茜
生年月日:1996年10月17日 / 出身:千葉県
階級:三等陸曹 / 所属:GAST「バイパー班」
享年:25歳
段場 隼人……本編の主人公
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人
小城 聖太……隼人や杏南の同期。謎の力が覚醒する
橋本 紋次……35普連1中隊の中隊長
天津種 麗……35普連2中隊のポンコツ中隊長
三宝寺 海斗……35普連1中隊の新人
※隼人が鹵獲したホバーキャリアは水陸両用です。イーゴは、帝国兵のホバーキャリアが水陸両用なのを把握していました。




