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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第131話 一刻も早く

「クラウスレイさん!」(隼人)


「どうした?」(イーゴ)


「イーゴさん、クラウスレイさんの体温が下がっている気がして…。」(隼人)


「(……脈が弱い。体温も落ちてる……このままじゃ、持って10分くらいか)」(イーゴ)


イーゴさんは、クラウスレイさんに触れると、無言でその場を離れた。


「急ごう……。一刻も早くだ」(イーゴ)


イーゴさんの低く、押し殺したような声が地下通路に響く。イーゴさんはクラウスレイさんの顔を見ようとしなかった。いや、見れば今の冷静さを失うと分かっていたのかもしれない。


「(……そんな。まだ、死なせるわけにはいかない!)」(隼人)


僕は奥歯を噛み締め、さらに足に力を込めた。背中に感じるクラウスレイさんの重みが、今は命の灯火の重さそのものに感じられた。


数10分後、今度は敵のドローン4機が僕達を襲う。


「こんな時に…。」(日下部)


「こんなところで足止めを食えば終わりだ……!」(橋本)


「邪魔をするなぁ!」(イーゴ)


イーゴさんは、憤怒を爆発させるように銃身を跳ね上げた。


「(速い……っ!)」(隼人)


僕の視界が敵ドローンの紅い光を捉えるより早く、イーゴさんの銃口が火を噴く。狭い通路内に凄まじい発砲音が反響し、先頭の1機が空中で火花を散らして沈黙した。


「ペッシ、左だ! 負傷者は下がれ!」(イーゴ)


「言われなくても分かってるわよ!」(ペッシ)


ペッシさんが残りの3機を牽制するように、腰のポーチから小型のEMP(電磁手榴弾)を投げつけた。通路の壁を跳ね、水面で炸裂した瞬間、青白い火花が空間を埋め尽くす。ドローンの動きが一瞬だけ不自然に硬直した。


「今だ!」(ペッシ)


ペッシさんの合図で、杏南と諏訪陸士長、橋本中隊長が一斉に89式小銃で応射する。網目のような弾幕が、機能不全を起こしたドローンを次々と撃ち抜いていく。


僕はクラウスレイさんを背負ったまま、必死に足場を固めていた。負傷者を守りながら、仲間が道を切り拓く。その連携の澱みのなさに圧倒される。最後の1機が水しぶきを上げて沈むのとほぼ同時に、前方の暗闇から、今までとは違う乾いた風が吹き抜けてきた。


「……光だ。出口が見えるぞ!」(善最)


善最二曹の叫びに、一行の足取りがさらに加速する。数分後、僕たちはコンクリートの急な階段を駆け上がり、重い鉄扉を抉じ開けて地上へと躍り出た。


「はぁ、はぁ……。ここは……」(隼人)


そこは、八王子近郊の古い雑居ビルの地下駐車場だった。地上に出た瞬間、僕たちを待っていたのは清涼な空気ではなく、鼻を突く猛烈な硝煙の臭いと、空を揺らすような地響きだった。


「……空が、燃えている…」(杏南)


杏南の声に顔を上げると、東の空が、赤黒い不気味な光に染まっていた。絶え間なく上がる火柱と、高出力レーザーが夜空を切り裂く軌跡。そこにはただ、巨大な怪物が暴れ回っているような破壊の光景が広がっていた。


「クラウスレイの様態は?」(イーゴ)


「呼吸も弱くなっています。」(隼人)


「イーゴ、電波が回復してる!」(ペッシ)


「よし、助かった。」(イーゴ)


「こちらGASTイーゴ、プレヤディッチと遭遇し戦闘するも、ラビット班、バイパー班ともに全滅。生き残りは私とペッシ、クラウスレイの3人だが、クラウスレイは瀕死。我々の現在地は、八王子の…」(イーゴ)


外気を吸った瞬間、肺が焼けるように痛んだ。――助かった…のか?


そう思った次の瞬間。地面が揺れた。


「イーゴ、危ない!」(ペッシ)


「――っ! 伏せろ!」(橋本)


橋本中隊長の指示を待つまでもなく、僕たちは建物の陰へと飛び込んだ。駐車場のスロープから姿を現したのは、立川の戦地へ向けて進軍中であろう帝国軍の増援部隊――機械科歩兵大隊だった。


装甲車の主砲が、ゆっくりとこちらへ旋回する。その動きは、まるで「逃げ場はない」と宣告しているようだった。


「チッ、よりによってこのタイミングで……!」(イーゴ)


「1個大隊かよ、くそったれ。」(小城)


イーゴは通信機を握りしめたまま歯噛みする。まだ本隊への報告は終わっていない。


「イーゴ、あれを見て! 輸送用のホバー車両がいるわ。あれを奪えば、クラウスレイを乗せて立川まで一気に駆け抜けられる!」(ペッシ)


ペッシが指差した先、小隊の中ほどに、負傷兵や物資を運ぶための帝国製ホバーキャリアが数台並んでいた。今の僕たちにとって、それはクラウスレイさんの命を繋ぐための唯一の「希望」に見えた。


「無茶を言う……だが、やるしかないな。橋本三佐!」(イーゴ)


「承知している。我々が正面から火力を引きつける。2人はその隙にあの車両を奪取しろ!」(橋本)


「天津種二佐は、三宝寺を守ってて下さい。それくらいなら出来るでしょ?」(橋本)


「やればいいんでしょ! やれば…」(天津種)


橋本中隊長は、残された数少ない弾倉を89式小銃に叩き込んだ。


「(……やるしかないんだ。ここで立ち止まれば、全員死ぬ……!)」(隼人)


僕は肩にかかるクラウスレイさんの重みを確かめる。彼の体温は、先ほどよりも確実に冷たくなっている。……まるで、“間に合わない”と告げられているみたいに。


「総員、撃ち始め! ターゲット、敵先頭の歩兵群!」(橋本)


橋本中隊長の号令とともに、雑居ビルの駐車場は一瞬にして火の海と化した。自衛隊の放つ5.56mm弾と、帝国軍装甲車の砲弾が交錯し、コンクリートの柱を削り取っていく。


「行くよ、段場! 私から離れないで!」(ペッシ)


「了解!」(隼人)


僕はペッシさんの背中を追って、弾丸の雨の中を駆け出した。クラウスレイさんを背負ったまま、必死に泥を蹴り、死の淵にある「命」を明日へと運ぶために。しかし、帝国軍の指揮官が僕たちの狙いに気づかないはずもなかった。


「逃がすな! 下等生物どもを一匹残らず殲滅せよ!」(スベン・ドトリマン陸軍少佐)


「段場、そのまま走れ!」(ペッシ)


「でも――!」(隼人)


「止まれば、全員死ぬ!」(ペッシ)


装甲車の砲口が火を吹いた。


登場人物紹介

スベン・ドトリマン

種族・性別:リザードマンの男性

所属・階級:陸軍少佐、三宿駐屯地に駐在する機械科歩兵大隊の大隊長

備考:立川へ援軍に向かう途中、隼人達と遭遇した


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人

小城こじょう 聖太せいた……隼人と杏南の同期

日下部くさかべ いつき……隼人と同じ養護施設で育った

橋本はしもと 紋次もんじ……35普連1中隊の中隊長

天津種あまつたね うらら……35普連2中隊の中隊長

イーゴ……GAST「ラビット班」の生き残り

ペッシ……GAST「バイパー班」の生き残り

クラウスレイ……GAST「バイパー班」の生き残り、瀕死

善最よしも 大河たいが……35普連2中隊のレンジャー隊員

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