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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第128話 多摩川撤退戦

「早くこの場から離れろ!」(豆小玉)


豆小玉三曹の怒号が響く。豆小玉三曹も、高村二曹も、飯田三曹も死ぬ気だ。僕は、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)で、僕達を守るために殿を務めた亜久二曹や瑛松二曹達を思い出した。そして……また先輩達を死なせてしまう己の無力さを痛感しながら、だが、今度は素直にその場から離れることを決意した。


「(ここで僕が余計なことをしたら、別の犠牲が生まれてしまう…。くそ…)」(隼人)


「日下部、行くぞ!」(隼人)


僕は、日下部の腕を引っ張り、その場を離れる決断を下す。


「おい、苫米地! ここから先は、お前が皆を守ってやれ!」(飯田)


「諏訪もな! 頼むぞ!」(飯田)


「飯田三曹…。」(諏訪)


「教官の言った通りになったけど、後悔はねぇ。未来の英雄を救うための盾になるんだからな!」(飯田)


飯田は気分が高揚していた。それは死ぬかもしれない恐怖からくる強がりだった。後悔も沢山残っているが、後輩の前で恰好つけたい気持ちが少しだけ勝った。レンジャー試験終了後、教官に言われた「戦場では使い物にならん」という言葉が脳裏にこびりついている。その通りになって悔しい気持ちだが、国防のためには、今ここで自分が犠牲になるべきと悟ったのだ。


飯田はブリンキンに向かって突進した。


「(羆は身体が頑丈なんだよな…)」(飯田)


ブリンキンは突っ込んでくる飯田対し軍刀を構えた。飯田にとっては好都合だった。軍刀が腹を貫いた。それでも、飯田は笑った。


「――当たりだ」(飯田)


爆薬が、至近距離で炸裂する。


ドオオオオオン!


辺りを巻き込んだ大爆発に、飯田の身体は粉々に消し飛んだ。炎が建物に引火した。しかし、ブリンキンは平然としていた。皮膚の表面を少し火傷しただけだった。


「化け物め…。」(高村)


高村が血を吐くような声を上げた。飯田の命を賭した爆発ですら、あの化け物の表面を少し焦がしたに過ぎない。


「無駄だ……」(天津種)


「無駄だ無駄だ無駄だ! あんなの勝てるわけない!」(天津種)


彼女の声は、次第に命令ではなく“悲鳴”に変わっていった。


「早く、早く逃げるぞ!!」(天津種)


逃げながら、飯田三曹の戦闘を見ていた天津種中隊長は、仲間の死を悼むどころか、それを「無駄」と切り捨てた。彼女はパニックで判断力を失い、予定の撤退ルートとは逆の、行き止まりの地下通路へと僕たちを先導していく。


「中隊長、こっちは行き止まりだ! 戻るんだ!」(善最)


「黙れ! 私の言うことに従え! 死にたくない、私は死にたくないんだ!!」(天津種)


天津種中隊長は、地下通路とは違う分岐を抜けていった。そこに退路はない。善最二曹が、必死に中隊長を呼び止めるが、中隊長は聞く耳を持たない。


「この近くに神社がある。ひとまず、そこに身を隠しましょう。」(鮫島玲生(さめしま れお)三等陸曹)


鮫島三曹の案内で僕らは付近の神社へ向かった。


「ここは、地元なんだ…。」(鮫島)


鮫島三曹の言葉はどこか寂し気だった。僕らが逃げてきた方向から、また大きな爆発音が聞こえた。



豆小玉は、シュグルポッターと対峙していた。対戦車爆薬をぶつける隙を伺っているが、シュグルポッターはその隙を見せない。何より、その後ろで不敵な笑みを浮かべるプレヤディッチに圧倒され、アクションを起こすことが出来ない。


「仕留めようと思えば、いつでも出来るのに…舐めやがって。」(豆小玉)


「(いや、好都合だ。ここで時間を稼げば、皆、無事逃げてくれるだろう…。)」(豆小玉)


「ブリンキン! 逃げた奴等を追え!」(プレヤディッチ)


「承知しました!」(ブリンキン)


「!?」(豆小玉)


「くそっ」(豆小玉)


「2匹のネズミを仕留めるのに、精鋭は3人もいるまい。」(プレヤディッチ)


「野郎!」(高村)


タタン!


高村が慌ててブリンキンを追おうとするが、オズスリットリウムに背を向けてしまった。オズスリットリウムの銃弾が、高村の背中を捕えた。


「ぐはっ…」(高村)


血を吐き、その場に倒れ込む高村を後目に、オズスリットリウムも逃げた隼人達を追い始める。


「(ちくしょう…。でも、俺はまだ生きている。最期の最期まで足掻いてやるよ…。)」(高村)


意識が朦朧とする中、高村はオズスリットリウム目掛けて対戦車爆薬を投げるが、オズスリットリウムには届かず、その場で爆発した。


ドオオオン!


高村は、その爆発で命を落とす。


「(今だ!)」(豆小玉)


オズスリットリウムは、高村の投げた対戦車爆薬に意識が向かっていた。それを見逃さなかった豆小玉は、オズスリットリウムに自身の対戦車爆薬を投げた。


「!?」(オズスリットリウム)


虚を突かれた形となったオズスリットリウムだが、羽を使って軌道を逸らし、自身への被弾を避けた。爆発時、火の粉が少々降ってきたが、致命傷には至らない。シュグルポッターから視線を外した豆小玉は、シュグルポッターの銃弾に顔面を撃ち抜かれ、その場で果てた。


「残りのネズミを追うとするか…。何、慌てなくてもよい。ゆるりと行こうぞ。」(プレヤディッチ)




背後で響いた連続する爆音。それが、僕たちを逃がすために残った先輩たちの最期の咆哮であることを、本能で理解していた。


「ああ、豆小玉三曹、飯田三曹、高村二曹……」(隼人)


「あ、あああ……。死んだ、みんな死んだ……。私のせいじゃない、あいつらが勝手に……!」(天津種)


神社へ逃げ込んだ天津種中隊長は、鳥居の陰でガタガタと震えながら、自分に言い聞かせるように呟いていた。


「……天津種二佐。今は部下達を鼓舞してください。敵はすぐそこまで来ています」(橋本)


橋本中隊長の静かな、しかし怒りを含んだ声が響く。だが、天津種は狂ったように叫び返した。


「苫米地、諏訪! 貴様らがここで殿を務めろ! 中隊長の命令だ! あいつらを止められるのはお前等しかいない!」(天津種)


彼女の命令は、まだ20歳の諏訪や、未成年の杏南の命を、あの化け物達に差し出すことだった。


「若者の命を差し出すというのか…。」(富貴)


若者を守るために命を捨てた高村二曹や豆小玉三曹、飯田三曹とはえらい違いであると思う。ただ、彼ら3人もまだ20代だ。僕よりは年上で経験もあるが、世間一般では若者だ。ただ……


「(もし、皆が生きて帰るためには、殿は杏南や諏訪陸士長がした方が可能性は高まる。それだけ、この2人は強い。)」(隼人)


「杏南、あのプレヤディッチって奴と戦ったら、勝てる自信はある?」(隼人)


僕は思い切って聞いてみた。だが、杏南はすぐに首を横に振った。


「ここにいる全員でかかってもプレヤディッチ1人に殺されるぞ。(それくらい分かれ、馬鹿)」(諏訪)


諏訪陸士長が続ける。


「それでもやれ! 弾除けにくらいはなるでしょう!」(天津種)


「……いい加減にしろ、このクソ女が!!」(善最)


善最二曹が、ついに天津種の胸ぐらを掴み上げた。


「若い芽を潰させるわけにはいかねえんだよ。だったら、俺が殿をやるよ。」(善最)


「なら、俺もやります。」(富貴)


「俺も…。ちょっと怖いけど…。」(曽我)


富貴三曹と、曽我陸士長も続いた。


「僕も殿を務めます!ここで杏南や諏訪士長を失うわけにはいかない!」(隼人)


僕は思い切って具申した。僕だって戦える。例え一瞬でも盾になれるのなら…


「隼人!」(杏南)


杏南が必死で止めたが、僕だって自衛官だ。国民の盾になることを恐れてはいけない。


「先輩…だったら俺も!」(日下部)


1人ずつ前に出る。誰も叫ばない。誰も泣かない。ただ、静かに“覚悟”だけが揃っていく。周囲の雰囲気が玉砕覚悟で突っ込む雰囲気になった時、橋本中隊長が声を挙げた。


「やめろ」(橋本)


その一言で、全員が止まった。


「それは戦術じゃない。“自殺”だ」(橋本)


「死んで終わるなら、あいつらの死は何になる」(橋本)


空気が、一瞬で冷えた。僕たちは自分の拳の震えに気づく。


そうだ、死んでしまえば終わりだ。死んで終わりなら、先程散っていった豆小玉三曹たちの想いは誰が繋ぐというのか。


「……でも、中隊長。どうやって……!」(隼人)


僕が問いかけようとした、その時だった。


「――伏せろ! 射線を開けろ!!」(橋本)


社殿の裏手、暗い茂みを切り裂いて、複数の影が飛び出してきた。自衛隊の制服ではない。全身をタクティカルギアで固め、高度な遮蔽コートを纏ったその姿。対グーリエ星人のエキスパート部隊、「GAST」だ。


「GASTか!? なぜここに……」(橋本)


「説明は後だ! 俺たちの班は、さっきあいつらに……あの化け物どもに全滅させられた!」(イーゴ)


飛び出してきたGASTの隊員は3名。一人は重傷を負った仲間を肩に担ぎ、もう一人は狂ったように背後へ向かって敵兵の銃弾を掃射している。彼らの瞳にあるのは、精鋭としての冷静さではなく、圧倒的な「死」を目の当たりにした者の戦慄だった。


「通路ごと埋め戻すぞ! 予備の爆薬を寄越せ!!」(イーゴ)


「橋本中隊長、この神社の床下に古い防空壕へ続く隠し通路があります。そこから地下水路へ抜けられます!」(鮫島)


鮫島三曹の言葉に、橋本中隊長が即座に決断を下す。


「総員、GASTと合流し脱出する! 善最、富貴、爆破の準備だ! この神社ごと猛獣を埋めるぞ!」(橋本)


「……ッ、了解!」(善最)


僕は杏南の手を引き、暗い社殿の床下へと飛び込んだ。背後からは、プレヤディッチの静かな笑い声が風に乗って聞こえてきたような気がした。


背後で、爆発音が重なった。振り返らない。振り返れば、足が止まる。だから、前だけを見る。暗闇の中へ、転がるように飛び込む。


それは“撤退”ではなく、敗走だった。


登場人物紹介

鮫島さめしま 玲生れお

生年月日:1997年4月19日 / 出身:神奈川県

階級:三等陸曹 / 所属:35普連2中隊


イーゴ……GASTの隊員の1人で、所属している部隊がプレヤディッチによって全滅した

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。技術はともかく、心に成長の跡はある

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人が殿を務めると言った時、かなり狼狽えた

高村たかむら 伸作しんさく……殿を務め戦死。享年26歳

豆小玉まめこだま 芙琉ぶりゅう……殿を務め戦死。享年25歳

飯田いいだ 源紀げんき……殿を務め戦死、享年24歳

諏訪すわ 明登めいと……隼人への当たりが強い実力者

橋本はしもと 紋次もんじ……35普連1中隊の中隊長。この状況でも冷静に指揮を執る

天津種あまつたね うらら……35普連2中隊の中隊長。狼狽しすぎている

善最よしも 大河たいが……天津種の発言に激怒

富貴ふき 彪雅ひょうが……善最に賛同して殿を買って出る

曽我そが 郁人ふみと……同じく賛同して殿を買って出る

日下部くさかべ いつき……35普連2中隊の新人

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