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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第121話 招集ーオペレーション・ミネルヴァー

段場隼人です。


2021年7月1日、僕と杏南は晴れて昇級し、一等陸士になった。階級章を付け替えたその日のうちに、第8次首都圏奪還作戦、コードネーム「オペレーション・ミネルヴァ」の辞令が僕ら第35普通科連隊に下された。


僕ら35普連の任務は、東部方面隊と共に出撃すること。今回の拠点本部となる陸上自衛隊 富士学校へ向かうことになった。


「先輩…頑張りましょう!」(日下部)


そう話しかけてきたのは、日下部樹(くさかべ いつき)二等陸士。今年から入隊した新人だ。人懐っこい性格をしていて、僕にはやけに懐いている。ただ、そんな日下部も、いざ戦場へ赴くとなると、緊張は隠せないようだ。


「お前は生きて帰ってくればそれでいいよ。これ、命令な。」(隼人)


僕は、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)で魚見陸士長に言われた言葉を、新人の日下部に伝えた。


生きて帰ってくればそれでいい――いつしか自衛隊内でもこう言われるようになった。何もかもが未知数だったグーリエ星人に対抗するはデータが必要。データを得るには生きて帰って来るほかない。2000年代初頭、今ほど科学が発展していなかった時代、電子戦で得られる情報はたかが知れていたのだ。


日下部も僕と同じようにグーリエ星人に家族を殺された過去があり、自衛官として、グーリエ星人の脅威から国民を守りたい気持ちは強い。ちなみに、僕と同じ児童養護施設の出なので、以前から知っている間柄だ。


「だったら、先輩も生きて帰って来ましょう。ここにいる皆も…。」(日下部)


「……」


「(それは皆も同じ気持ちだ。誰も欠けることなく生きて帰りたい。でも、そんな甘い場所じゃない。この中の誰かが、必ず死ぬ……。)」(隼人)


それは、オペレーション・ギデオンで痛いほど分かった。どれがけ死線を潜り抜けた猛者も、死ぬときはあっけなく死んでいった。


「ああ、そうだな。」(隼人)


それでも僕は、本音を語る事が出来なかった。日下部の言ったことは綺麗事でしかないが、綺麗事に近づける努力は必要だ。


「(……ふん。)」(諏訪)


富士学校の敷地境界に到着し、第10師団副師団長である大下裕二(おおした ゆうじ)一等陸佐が受付を済ませる。


「第10師団、到着しました。」(大下)


「お待ちしておりました。こちらです。」


案内されたのは、ブリーフィング室ではなく、臨時設営された掩蔽壕のような薄暗い空間だった。そこにいたのは、第31普連の連隊長である別当強司一等陸佐だった。彼の眼差しは鋭く、全身から発せられる緊迫感に、誰もが言葉を失った。


「首都圏全域が敵占領下にある今、通常ルートでの移動は不可能だ」(別当)


別当一佐からの指示は簡潔で、そして異様だった。師団や他の主力部隊を陽動とし、僕たち35普連1中隊と2中隊は、敵のレーダーと偵察機が届かない秘匿輸送路を通って、作戦地域近くまで潜入するという。


「秘匿輸送路?」(隼人)


僕は戸惑い、思わず尋ね返した。


「特戦群と地理情報隊が協力して築いた通路だ。オペレーション・ギデオンの際に極秘に潜入していた。お前たちには、ここから静粛性の高い電動装甲車に乗り換えてもらう」(別当)


あの戦い(オペレーション・ギデオン)で、敵地に残って工作をしていた仲間がいたことに驚きを隠せなかったが、様々な状況を想定動いていることを改めて思い知った。


「(転んでも只では起きない…。凄い…。)」(隼人)


「あの…大丈夫なんでしょうか? 敵に気付かれているなんてことは…」(日下部)


一瞬、別当連隊長がむっとした表情になったのを見逃さなかった。


「問題ないと判断した。」(別当)


――根拠は言わない。


「お答えいただき、ありがとうございます。」(日下部)


僕たちは、武装と装備をチェックし、静かに装甲車に乗り込む。隣には杏南と日下部が座っている。


車両はゆっくりと動き出し、奥の壁が開くと、巨大な地下トンネルの入り口が姿を現した。それは、ただの地下道ではなく、コンクリートで固められ、照明が等間隔に配置された、明らかに軍事用に整備された通路だった。


「(この国が秘密にしている、東京の裏側への道…)」(隼人)


トンネルに入ると、すぐに外界の音は遮断された。聞こえるのは、電動装甲車のモーターのわずかな音と、僕や仲間の鼓動だけだ。一等陸士に昇級した喜びも、この暗く、冷たい現実感の前では霧散してしまった。


「(涼しいな。夏なのに…)」(隼人)


僕らは、陽の光も、敵の目を欺く陽動も関係のない、全く別の戦場へと、音もなく侵入を開始した。


「まもなく目的地だ――戦闘配置。」(橋本)


数時間後、車両が停車し、橋本中隊長の声が無線で響いた。だが、無線にノイズが走り、声が聞き取りづらい。


杏南は落ち着いた表情をしていたが、日下部はかなり緊張している。無理もない。彼は今年入隊した新人だ。


「(今度は僕が、新人を助ける番だ…。)」(隼人)


僕は、日下部の肩に手をやり、声をかけた。


「大丈夫だ、日下部。新人は何も出来なくて当然…。生きて帰ってくればそれでいい。さっきも言っただろ?」(隼人)


「先輩…。」(日下部)


実際、僕もオペレーション・ギデオンでは何も出来なかった。それどころか、僕の軽率な行動で渚士長を死なせてしまった。あの時、冷静さを保てていれば……だが、それでも前を向かないといけない。


僕たちの目標地点、川崎市多摩区への潜入は、もうすぐ完了する――そう聞いている。

登場人物紹介

日下部くさかべ) いつき)

生年月日:2002年9月30日 / 出身:愛知県

階級:二等陸士 / 所属:35普連2中隊

備考:隼人と同じ養護施設で育った


大下おおした 裕二ゆうじ

生年月日:1969年7月17日 / 出身:福井県

階級:陸将補 / 役職:第10師団副師団長


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。一等陸士になった。

諏訪すわ 明登めいと……隼人と折り合いの悪い若手隊員

橋本はしもと 紋次もんじ……35普連1中隊の中隊長

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