第120話 ソブラウ
土井近太郎と申します。僕は今年度から、「GAST」という特殊部隊に配属されました。特殊部隊なので、今後はコードネームで名乗る事になります。僕のコードネームは「ソブラウ」です。読者の皆さん、土井近太郎改め、ソブラウをよろしくお願いしますね。
さて、GASTに入ってからは、訓練漬けの毎日です。その厳しさは、これまで経験した訓練の比ではありません。守秘義務の多さや、世界各国の言語の習得、さらには、グーリエ星人の言語も覚えねばなりません。このグーリエ星人の言語を覚えるという作業には骨が折れます。英語とかと違い、情報が少ないですからね。戦闘を通した情報収集と研究を繰り返していくしかありません。長きにわたって戦っている先輩方は、カタコトなら話せるという噂ですが、真相は不明です。
入隊してまだ2ヶ月程ですが、濃密は日々を過ごしています。喜ばしいことも沢山あります。GASTの訓練初日、僕の心がときめいたのは忘れられません。
教官が…教官が…大きかったのです! いや、本当に。凛とした佇まいから感じる気高き美しさ。そして何より、肩から下にぶら下がる2個のマスクメロン。重力に抗う2つのメロンが揺れ動く様は、厳しい訓練の心のオアシスとなっています。GASTに教官がいたのは意外でした。
「貴様、どこを見ている?」(教官)
訓示中、僕は教官のマスクメロンに釘付けでした。その日の訓練では、他の隊員より余計に走らされ、腕立てもこなしましたが、何の苦でもありません。あの、かっこいいお姉さんの下で訓練出来るのです。13普連は男だらけでしたからねぇ。GASTには教官以外にも、かっこいいお姉さんが多く、目の保養になっています。
僕は今、北海道へ向かっています。北海道で降下訓練を行うとのことです。GASTの訓練です。ただ降下するだけではないのは確かでしょう。
「今日の訓練は、降下中に有翼種の襲撃があった場合を想定したものだ。降下中、有翼種を模したドローンを飛ばす。そのドローンを撃ち落とす訓練だ。奴等との対峙では、降下中は無防備になりやすい。そこで、むざむざとやられないようにする訓練だ。なるべくパラシュートを開かず、グラップルワイヤーを有効活用しろ。」(教官)
「了解!」(一同)
え? 今何と仰いました? なるべくパラシュートを開くな? そんな事したら死んじゃいません?
戸惑う僕をよそに、先輩方は何の躊躇もなく降下していきます。先輩方は、仮想有翼種のドローンにグラップルワイヤーを引っ掛けて接近して仕留める動きや、小銃で撃ち墜とした後、グラップルワイヤーを引っ掛けてヘリに戻る動き等を繰り返していきます。誰もパラシュートを開きません。――開く必要がないのです。。先輩方にとって、“落下”は危機ではなく、攻撃手段でした。
「さあ新入りちゃん、次は貴方の番よ!」(フロリアン)
「は…はい…(ごくっ)」(ソブラウ)
僕は固唾を飲み、震える足を何とか前に出して降下します。地面が遠い。――いや違う。地面が、こちらに迫ってくる。
「開くな」
その一言が、頭の中で反響する。開けば助かる。開かなければ――死ぬ。
「……無理だ」(ソブラウ)
僕は負けました。ドローンも墜とせず、ただ降下しただけでした。
「あらあら…。」(フロリアン)
「チッ、芋引きやがって。」(BJ)
「新入りはそんなもんでしょ!」(シャーク)
「暖かく見守るのだ~」(ヒーゾ)
「初回だ、これくらいで勘弁してあげよう。」(ネイマン)
上空ではこんなやり取りが行われているとは露知らず、僕はGASTの恐ろしさを目の当たりにしました。
「各自、撃ち墜としたドローンを回収!」(教官)
教官の号令の下、僕達はドローンの回収を急ぎます。
「捨てたままが良くないのは当然として、一番の問題は鹵獲されるリスクだ。奴等は破片からでも修復させてしまう。」(バス)
――つまり、ここで落としたものは、そのまま“敵の武器”になる。それに、北海道にグーリエ星人がまだ潜んでいる可能性も否定できません。用心するに越したことはありませんよね。
「それと、民間人に拾われて転売されるのも問題だ。」(バス)
「転売ですか? 壊れた物を?」(ソブラウ)
「俺達が実戦や訓練にドローンを注ぎ込んでいるからな。市場に出回るドローンは少ない。そこで訓練中に撃ち墜としたドローンを拾って自分で修理して売る奴もいるんだよ。」(バス)
「今日の訓練、見学者が多いだろ? あの中には転売目的でドローンを持って帰ろうとする奴もいるんだ。」(スタン)
「それって窃盗にならないんですか?」(ソブラウ)
「事前に、ドローンは再利用するから持って帰らぬよう、注意喚起しているんだが…それを無視する小悪党もいるってことさ。」(スタン)
「いろいろ世知辛いですねぇ。」(ソブラウ)
ドローンを回収した後は、水中訓練だそうです。これは、水棲種に水中に引きずり込まれた場合を想定した訓練ですが、実際に海に入ると、水棲種と遭遇するリスクもあるので、VRゴーグル(防水性は問題なし)を装着してプールの中に入って行います。
今現在、水中用の銃が開発中という事で、水中でナイフを使って仕留める訓練を行ったのですが、やはり水中で自在に動ける水棲種との相性は最悪です。
「正直に言うぞ」(教官)
「水中であいつらに勝つ手段は、今は無い」(教官)
「――だからこれは、“抵抗の練習”だ。」(教官)
対水棲種は水中ドローンや無人潜水艦が鍵になりそうです。ところで教官は水着姿にならないのでしょうか?
さて、この訓練が終わった後は北海道内の哨戒任務です。北海道は、対グーリエ星人だけでなく、近隣の大国も警戒しなければなりません。グーリエ星人の襲撃に紛れて侵略をも目論む国もあるようで、「領土を奪還したからそれで終わり」ではないのです。
しかし、北海道も徐々に復興の兆しを見せています。本州に避難していた道民が戻り、徐々に活気を取り戻してきました。それは良い事だと思います。
――夕方――
「今日の訓練はこれで終わる。新入り、貴様は明日も降下訓練だ。出来るようになるまで続けると思え。」(教官)
「……りょ、了解…。」(ソブラウ)
教官は、美しかった。だが、それ以上に――「この人は、人を平然と死なせる訓練をする」と直感した日でした。
登場人物紹介
土井 近太郎……階級は三等陸曹で、元13普連所属。2021年度からGASTに配属。コードネームは「ソブラウ」。かっこいいお姉さんが大好きで、浮かれまくっている。
茶頭 恋美瑞
生年月日:1981年4月26日 / 出身:青森県
階級:一等陸尉 / 所属:特戦群教育隊
備考:GASTの一員として北海道奪還作戦に参戦していたが、目を負傷し隻眼となり引退。現在は、教育隊に所属し、GASTの教官を務める。
BJ……ピットブル班班長
フロリアン……ピットブル班所属
シャーク……ピットブル班副班長
ヒーゾ……イーグル班班長
スタン……イーグル班所属
ネイマン……リッチ班班長
バス……スサノオ班所属




