第115話 折れない心
苫米地杏南です。
西三曹の負傷離脱に、家村陸士長と段団三曹の脱落。 その衝撃を咀嚼する暇もなく、OPFORの追撃は続いていました。
「高村さん、指示を!」(万代)
「……あ、ああ。……後退だ、一旦距離を置く!」(高村)
高村二曹の声には、先ほどまでの力がありませんでした。その動揺を見透かしたかのように、前方から鋭い射撃が撃ち込まれます。
「ダメ! 逃げたら追い詰められる! ここで叩くよ!」(朱杏)
角南三曹が叫ぶと同時に、諏訪陸士長と万代一士が左右に展開して敵の注意を引きつけ、その隙に伝川陸士長が木々に紛れて狙撃ポイントを確保します。
「(……見える。)」(杏南)
私はナイトビジョンの視界を研ぎ澄ませました。角南三曹が放った煙幕の向こう側、熱源となって浮かび上がるOPFORの影。
「今です!」(杏南)
私の合図で、5人の集中火力がOPFORの拠点を正確に射抜きました。伝川陸士長の精密射撃が次々とセンサーを赤く染め、私と角南陸士長が流れるような連携で敵の側面に突入します。
「クソッ、こいつら……なんて練度だ!」(柳瀬)
評価隊の猛者・柳瀬一曹ですら、この5人の「迷いのない暴力」には押され、ついに判定負けを喫した。戦闘終了。けれど、勝利の余韻はありません。
「……すまない。俺が、俺の判断が遅れたせいで……」(高村)
崩れ落ちた家村陸士長たちのいた場所を見つめ、高村二曹は拳を震わせていました。その背中に追い打ちをかけるように、飯田三曹と立新三曹が膝をつきます。
「はぁ、はぁ……っ、悪い、足が……動かない……」(飯田)
「学生長、俺たちも……置いていってください……」(立新)
立新三曹の顔は蒼白で、彼の瞳は絶望に濁っていました。
「…もう無理だ…」(赤松)
赤松一士は汗の量が多く、焦点も定まっていません。しかし、その時でした。
「――ふざけるな。」(高村)
冷たい声を出したのは、高村二曹でした。彼はゆっくりと立ち上がり、立新三曹の胸ぐらを掴み上げました。
「家村と段団を失って、お前らまで諦めるのか!? 指示が間違っていたなら俺を殴れ! だが、歩くのを止めることだけは許さない! 12人で……残った11人全員で、あいつらの分までバッジを掴むんだ!!」(高村)
「俺の判断で、2人落とした。」(高村)
誰も否定できなかった。
「だからこそ――ここで止めるわけにはいかないんだろうが!!」(高村)
その咆哮は、技術でも合理性でもない、一人の男としての「魂」の叫びでした。 その瞬間、立新の瞳に再び光が宿ります。
「……っ。……そうですね。合理的じゃありません。でも……意地を通すのは、嫌いじゃない。」(立新)
「すいません学生長、俺も最後まであがきます。」(飯田)
「ぜぇぜぇ、はぁはぁ…」(赤松)
飯田三曹は足を引きずりながらも立ち上がりました。赤松一士は、返事こそ出来ませんでしたが、再び目に光が宿りました。そして…
立新三曹の肉体が、限界の向こう側にある予備回路に接続されたかのように、再び立ち上がりました。
その直後、ゴールを目前にした最後の稜線で、待ち構えていたOPFORの最終防衛線が姿を現します。
「立新三曹、行けるか!」(高村)
「大丈夫だ。学生長、俺が囮になります。……皆は、俺の背中を越えてゴールへ!!」(立新)
立新三曹の動きは、憑き物が取れたかのように、疲労を感じさせない鋭い動きでOPFORを翻弄しました。しかし……
ピ―――――――――――ッ
疲労困憊だった赤松一士が被弾し、死亡判定が下されました。
「あ、ああ…」(高村)
「止まるな! 進め!」(赤松)
絶望の表情を浮かべる私達でしたが、赤松一士の叫びに押され、残り10名は泥にまみれ、絶叫しながら駆け抜けます。
御在所岳の山頂、朝日に照らされたゴール地点。 そこには、五十鈴教官がいつもの無表情で立ってした。
「……47時間50分。合格だ。」(五十鈴:BJ)
その言葉を聞いた瞬間、私たちの糸は切れました。 大地に伏し、涙を流す者。動かない足を叩く者。 高村二曹は、空を仰ぎながら、静かに号泣していました。それでも……
10人。出発した時より、4人少ない。それでも――誰も、その事実に触れませんでした。
登場人物紹介
苫米地 杏南……本作のヒロイン
万代 佑大……家村のバディ
高村 伸作……学生長
角南 朱杏……35普連4中隊のエース
柳瀬 風摩……部隊訓練評価隊所属
飯田 源紀……35普連2中隊所属
立新 聡馬……最後の最後に謎の力が覚醒した
諏訪 明登……35普連2中隊所属
五十鈴 寛治……教官。GAST「ピットブル班」班長、コードネーム「BJ」
赤松 つらら……もう少しというところで脱落してしまう




