第112話 最終検証行軍、悪魔の夜明け
苫米地杏南です。
御在所岳での戦闘から数日、訓練は再びルーティンに戻っていましたが、私たちは常に緊張していました。教官や助教たちは何も言いませんでしたが、レンジャー課程の受講者にとって、この時期が最終の検証行軍だと知っていたからです。
その夜明け前、抜き打ちでその瞬間は訪れました。
「起きろ! 今すぐだ! 全装備をもって2分で集合しろ!」(秋口)
突然の怒声が響き、訓練生たちは反射的に飛び起きました。時計を見る余裕すらなく、私たちは寝間着から一瞬で戦闘服に着替え、装備を掴んで屋外に飛び出しました。
遅れたら、置いていかれる――その確信だけがあったので、誰も遅れることはありあせんでした。
外は、風が止んでいます。鳥の鳴き声もしません。
「以前に、ここで遅れて失格になった奴もいるが…今年はいないようだな。」(秋口)
「これより、最終検証行軍を開始する。総距離120km。想定時間は48時間以内。途中の戦闘行動を含む。」(五十鈴)
五十鈴教官は淡々と言い放ちます。でも、その目は全員を見ていません。
――120km。
……長すぎる。それだけで、理解は足ります。しかも、戦闘を挟みながら、極度の睡眠不足と飢餓状態で踏破しなければなりません。
「(…戦闘行動。相手は当然、部隊訓練評価隊だと思う。訓練生としての思考を逆手に取る、プロの戦術士官達だ。)」(杏南)
説明は一切ありませんでしたが、全員がその事実を悟っていました。訓練されたプロの相手は、グーリエ星人相手の戦闘とは異なる、知恵と技術の戦いになります。五十鈴教官は、私たちを一人一人鋭い視線で見つめ、淡々と語ります。
「油断は死を意味する。もしお前等が目標地点に到達できなければ、レンジャー課程は即時不合格だ。せいぜい頑張れ。」(五十鈴)
「(もっとも、この行軍は、それだけじゃねぇ。隊員の質・量が落ちている今、化ける奴が必要だ。強くなってもらわなきゃ迷惑なんだよ。)」(五十鈴)
「(苫米地、角南、諏訪、万代…こいつら以外に光る奴が出て来てほしいもんだが…)」(五十鈴)
教官の言葉は、これまでのどの訓練よりも重く響きました。私の脳裏には、極秘に伝えられたGASTスカウトの言葉がよぎります。
「(この行軍を、絶対に完遂しなければならない…それが、私たちに与えられた最後の、そして最大の試験だ。)」(杏南)
私たちは重い装備を背負い、夜明け前の冷たい空気の中、地獄のような行軍へと踏み出しました。
もう後戻りはできない――そう理解しました。
登場人物紹介
苫米地 杏南……本編のヒロイン
五十鈴 寛治……GAST所属の教官。コードネームは「BJ」
秋口 将光……水機団所属の助教




