第111話 想定外の戦闘
苫米地杏南です。
グーリエ星人の5体の遺骸を前に、目の前のGAST隊員はナイフを拭きながら、落ち着き払った態度でこちらを見つめます。
その場に立っているはずなのに、 “さっきまでそこにいなかった”という違和感が消えない。血の匂いだけが、遅れて鼻に届きました。
「どうしてここに? 援軍にしては早すぎる。」(五十鈴)
「静岡市に潜んでいたのを見つけて、マークしていたんだ。意図が分からなかったから、あえて泳がせていたんだが…。驚かせて申し訳ない。」(ネイマン)
「あの…これ、1人で倒したんですか?」(杏南)
目の前にはネイマン班長が1人。1人でこの5体のグーリエ星人を倒したのでしょうか。
「ああ、一応ね。」(ネイマン)
「……(ごくっ)」(杏南)
この佇まい……只者ではないと感じていましたが、1人で5体のグーリエ星人を倒すこの力……。GASTにはどれ程の精鋭が控えているのでしょう。
「班長、こちらも片付けました。」(マッキー)
ふと、横を見ると、新たに2人のGAST隊員が現れました。まるで最初からそこにいたかのように。
「(速い……。)」(杏南)
「ルッテン、マッキー、ご苦労だった。天狗の滝にいた部隊はどうした?」(ネイマン)
「アイブル、ハウフ、ハレックが向かっています。」(ルッテン)
「なら、俺達は援護へ行こう。スパイダー班は、敵と接触した?」(ネイマン)
「スパイダー班が追ってた敵は、散開し、ソロで動いていて掴まえきれてないようです。」(マッキー)
「やれやれ。逃げ足だけは速い連中だ。まぁいい。」(ネイマン)
「よし、ヒューム、ウェイド聞こえるか? 2人は、スパイダー班の援護へ迎え。」(ネイマン)
「了解。急いで向かいます。」(ヒューム)
「敵は推定であと8体。急ぎ仕留めるぞ。分かれ。」(ネイマン)
「というわけだ、BJ班長。御在所岳に侵入したグーリエ星人は、俺達 “リッチ班” と “スパイダー班” で討伐する。いつでも訓練を再開できるよう、戻ってくれ。」(ネイマン)
「了解した。任せる。」(五十鈴)
視界の端で何かが動きました。そう認識した時には、もうそこに誰もいませんでした。
「(速い、じゃない……見えていない)」(杏南)
「あの…教官、ネイマン班長って…。」(杏南)
「ネイマン班長率いる “リッチ班” は、隠密行動に長けた隊員で構成されている。斥候としてしょっちゅう、敵の深い場所まで潜入するような連中だ。暗殺技術にも長けている。スパイダー班も同じく隠密行動に長けているが、実力としては、リッチ班が上だな。」(五十鈴)
「GASTにはそんな強い人たちが…」(杏南)
「まあ、精鋭揃いだが、ネイマン班長は別格だ。あれを基準にされちゃ、他の隊員が困る。」(五十鈴)
五十鈴教官の言葉に、私はGASTという組織の底知れない力を改めて感じました。しかし、それは同時に、私たちが直面している敵、グーリエ星人の脅威の大きさをも示唆していました。
訓練場に戻ると、秋口助教の指示のもと、訓練生たちは緊張した面持ちで待機していました。
「敵の頭は討った。だが、まだ残敵がいる。警戒を緩めるな! 秋口助教、指揮はそのまま。」(五十鈴)
「レンジャー!」(秋口)
訓練生たちの眼差しは、「絶対に生き残る」という強い意志に満ちていました。その時でした。
ロープ橋の向こう、鬱蒼とした木々の影から、一筋の閃光が走りました。
「伏せろ!」(秋口)
伏せた瞬間、土が頬に当たるのを感じます。
「(撃たれた……?)」(杏南)
背筋に冷たいものが走りました。これは訓練じゃない。
「残敵だ! 隊列を組め! 輪床、原崎、援護射撃! 他は俺の周囲へ集結!」(秋口)
秋口助教の冷静で迅速な指揮が飛びます。敵は2体。訓練生たちは皆、津丸一士の死を間近に見たことで、もはや動揺はしませんでした。
「諏訪、角南、動けるか!?」(秋口)
秋口助教の声が響き渡ります。
「レンジャー!」(諏訪・朱杏)
諏訪陸士長は、この状況下での最適な判断を瞬時に下しました。
「角南三曹! 右の岩陰! 2秒後、俺が左から牽制射撃を加える! その隙に、一気に懐に入れ! 相手はレーザーライフル、接近戦に持ち込めば勝ち筋が見える!」(諏訪)
「……了解! 2秒後、飛び出す!」(朱杏)
角南三曹は、一瞬の躊躇もなく岩陰から飛び出しました。彼女の体術と近接戦闘能力は、この訓練で更に磨き上げられています。
1秒後、諏訪陸士長のM4カービンが正確な牽制射撃を開始。2秒後、角南三曹が地を這うように猛スピードで前進。グーリエ星人は、訓練生がこの状況で突撃してくるとは予想しておらず、動きが一瞬止まりました。
「くそっ!」
グーリエ星人は、角南三曹を迎え撃とうとしますが、角南三曹は既に懐に入り込んでいました。
「レンジャー!!」(朱杏)
角南は、敵の銃を持つ腕を完璧な体術で封じ込め、その首に、サバイバルナイフを振り下ろしました。
「ぐっ……ア…」
敵は短く呻き声をあげ、その場に倒れ込みました。
「角南! 諏訪! 無事か!」(五十鈴)
「レンジャー! 異常なし!」(朱杏)
「目標、撃破しました。」(諏訪)
彼らの迅速で正確な判断と行動は、津丸一士の犠牲が彼らの心に深く根付かせた、戦士としての覚悟を示していました。数分後、静寂が訓練場に戻ってきました。
「こちらGAST、ネイマン。御在所岳に潜入していた敵は掃討した。」(ネイマン)
「1体、そちらに向かわせてしまった。我々の不徳の致す限りだ。申し訳なかった。」(カバナー)
GASTの無線が、私たちに安堵をもたらしました。
「…ネイマン班長。」(五十鈴)
「なんだい、BJ班長。訓練生たちは無事だったんだろう?」(ネイマン)
「ああ……感謝する。」(五十鈴)
「礼はいらないさ。次からは、俺が退屈しないような敵を連れてきてくれよ。じゃあな、BJ班長。」(ネイマン)
通信が途切れ、御在所岳の戦いは終結しました。私たち訓練生にとっては、津丸一士の死に加え、予期せぬ戦闘を経験する結果となりました。
「(ここも安全圏じゃない)」(杏南)
そう理解した瞬間、今まで立っていた場所が、 “戦場の真ん中”に変わった気がしました。
登場人物紹介
GAST 「リッチ班」の隊員
ルッテン
マッキー
アイブル
ハウフ
ハレック
ヒューム
ウェイド
カバナー……スパイダー班の班長
※
リッチ班……隠密行動に長けた部隊で、斥候のエース部隊。班長はネイマン。
スパイダー班……リッチ班と同じく隠密行動に長けた部隊。
※2)ヒュームとウェイドは、班長とネイマンと共に行動していたはずですが、ネイマンのスピードに後れを取っており、杏南や五十鈴とネイマンが会話中は、後ろから追っていた状態です。ヒュームとウェイドが遅いのではなく、ネイマンが速すぎるのです。




