表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外星戦記  作者: 無名の凡夫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/148

第109話 それでも前に進むべく

苫米地杏南です。


津丸一士の事故死から一夜が明けました。御在所岳の訓練キャンプ地は、死の重みを抱えたような、重苦しい沈黙に包まれています。


夜が明ける前に、緊急でヘリが飛び、津丸一士の遺体が収容されたそうです。


テントの中は静かでした。でも、その静けさは休息ではない。誰もが、“あの音”を忘れられずにいました。谷底から響いた、あの鈍い音を。


私たちは、テントの中で横たわっていましたが、誰一人としてまともに眠れた者はいません。疲労は限界を超えていましたが、それ以上に「恐怖」と「無力感」が体を蝕んでいました。


「……昨日の、津丸一士のロープは、なぜ外れたんでしょうか?」(杏南)


「……疲労と寒さによる人為的なミスか、整備不良。どちらにせよ、結果は同じだったかも。」(柚梨)


伝川陸士長は、言葉は少ないながらも、珍しく自ら口を開きました。私たちにとって、レンジャー訓練での死者は、ただの事故ではありません。それは、「自分も同じ状況に陥っていたかもしれない」という、極限の恐怖でした。


特に、バディを組んでいた輪床三曹と家村陸士長の様子は悲惨でした。彼らは教官室に呼ばれ、事故の状況について聴取を受けています。彼ら自身、津丸一士を助けられなかったという自責の念に押しつぶされそうになっていることは、一目で分かりました。


昼前、教官室から出てきた学生長の高村二曹は、普段の冷静さを欠いた、疲れ切った表情でした。


「訓練で同じレンジャーを志した仲間が、こんな形で散ってしまうとは……」(高村)


彼はそう独りごちて、遠くの山々を見つめていました。しかし、事態は訓練所の外で、さらに大きく動き始めていました。



「……見てください」(赤松)


――ニュース速報:陸上自衛隊のレンジャー訓練中に事故、隊員1名が死亡。


差し出したスマートフォンの画面には、 “人殺し訓練”という見出しが踊っていました。コメント欄は、罵倒で埋め尽くされています。


「……俺たち、何やってるんだろうな」(家村)


このニュースは瞬く間に全国を駆け巡り、市民団体や野党議員の格好の標的となりました。


『これは人殺し訓練だ!』

『憲法9条を掲げる日本に、なぜこれほど非人道的な訓練が必要なのか!』

『命を軽視する自衛隊は解体せよ!』


SNSやワイドショーでは、津丸一士の死を悼む声よりも、自衛隊とレンジャー訓練に対する非難の嵐が吹き荒れました。社会一新党の党首・市ヶ崎儀郎(いちがさき)は記者会見を開き、「これは自衛隊の徴兵制復活への布石であり、若い命を奪う結果となった」と扇動的な批判を展開しました。




「だから、言ったんだ。レンジャー訓練に意味はない。この隊員は、戦場に出る前に死んだ。無駄死にだ。」(要)


守山駐屯地内では、相変わらず要が毒を吐いていたが、もはや、誰も彼を相手にはしていない。それよりも、グーリエ星人から国民を守らねばならない自衛隊の是非を問う声が、津丸の死を機に、大きくなりすぎていた。



私たちは、この状況に激しい怒りを覚えました。彼らは、命を賭して国を守ろうとする者の「覚悟」を、訓練の「必要性」を、全く理解しようとしないのです。




津丸とバディを組んだ、輪床圭慎三等陸曹は、SNSやニュースで自衛隊の批判が強まる中、志半ばで退官した同期の厚巳千宏三等陸曹を思い出していた。


厚巳は、オペレーション・ギデオンで、瀕死の重傷を負った羽毛大和一等陸士(当時)を背負い、戦場からの離脱を試みていた。無事、戦場から退くことは出来たものの、その間に羽毛一士は亡くなり、厚巳は酷く落胆したと聞く。それでも、厚巳は最後の力を振り絞り、月白展望台(拠点本部)へ連絡をし、現状の報告を行った。


しかし、そんな厚巳を労う者が、同じ班にいなかった。特にバディを組んだ運天は、後輩でありながら厚巳を「臆病者」と見下し、厚巳の仕事ぶりを認めようとしない。目の前で多くの仲間を失った悲しみを、羽毛を死なせた後悔を、一緒に背負ってくれるバディがそこにいなかった。そして、厚巳は心が折れて退官した。


「(あの時の厚巳の気持ちが痛いほど分かった…。目の前で仲間を失い、そして外野はここぞとばかりに俺達を非難する……。これでは、悲しみや後悔を受け止めることが辛くなり、逃げ出したくなる……。)」(輪床)


「(逃げたら、全部が終わる。厚巳の苦しみも、津丸の死も、全部”なかった”ことになる。)」(輪床)


「そんなの、俺は絶対に認めない」(輪床)


輪床は、震える足で立ち上がり、全訓練生に向けて、絞り出すような声で叫びました。


「みんな! 仲間を失って辛い気持ちは分かる。でも、ここで逃げたら何の意味もない! 志半ばで亡くなった仲間に顔向けが出来ない! グーリエ星人の脅威から国民を守るためにも、ここで一致団結して、レンジャーになろう! そして、皆でグーリエ星人を討ち取るんだ!」(輪床)


皆が、輪床三曹の必死の訴えに、ようやく生気を取り戻し始めた、その時でした。


「その通りだ。」(五十鈴)


輪床三曹の声が響き終わるか終わらないかのうちに、五十鈴教官が、氷のような静けさを纏い、私たちの前に現れました。


「我々を罵る声は、既にお前等の耳にも届いているだろう。」(五十鈴)


五十鈴教官は、津丸一士の死に対して、哀悼の言葉を述べる代わりに、静かに、しかし有無を言わせぬ声で断言しました。


「津丸の死を決して無駄にするな。これは、お前らに向けた、戦場からの警告だ。」(五十鈴)


その言葉に、訓練生たちの中に、動揺と反発、そしてある種の理解が入り混じりました。


「戦場に、訓練中止を求める市民団体は来ない。戦場で、敵が“非人道的だ” と銃を下ろすこともない。戦場では、疲労、寒さ、そして一瞬のミスが、必ず “死” という結果をもたらす。」(五十鈴)


「レンジャー訓練は、その “死 “を乗り越えるため、戦場で仲間を生かすための術を学ぶ場だ。津丸は、その教訓を、自らの命をもって示したのだ。そう思え。」(五十鈴)


五十鈴教官は、冷徹な目つきで、訓練生全員を見据えました。


「悲しみに暮れている暇はない! 明日より、訓練を続行する! レンジャーを志す者、津丸の死を無駄にするな! 恐怖に打ち勝ち、立ち上がれ!」(五十鈴)


誰も言葉を発しませんでした。でも、全員が同じ方向を見ていました。――あの谷の向こう側を。


登場人物紹介

苫米地とまべち 杏南あんな……本編のヒロイン

伝川つたがわ 柚梨ゆずり……杏南のバディ

輪床わとこ 圭慎けいしん……亡くなった津丸のバディ

高村たかむら 伸作しんさく……学生長

五十鈴いすず 寛治ひろはる……GAST所属の教官

市ヶいちがさき 儀郎ぎろう……野党・社会一新党の党首で、日本の事を思っているとは思えない発言が有名

運天うんてん かなめ……隼人の同期で、歪んだ英雄志向を持つ

赤松あかまつ つらら……31普連所属のWAC隊員

家村いえむら 大樹だいき……49普連所属の陸士長

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ