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第45話 ― 葵の家での勉強会

試験前ということもあり、葵たちはここ数日ずっと一緒に勉強していた。

休み時間、教室ではみんなが小さなグループに分かれて話している中、ひながふと思いついたように言った。


「誰かの家で勉強しない? 最後の追い込みって感じで!」


美緒は少し困った顔をする。


「うち、今ちょっと厳しくて……」


「俺の家は……狭い」


そうまも苦笑いしながら答えた。


ひなはそのまま葵を見る。


「葵ちゃんの家は?」


「わ、私の家……?」


葵は指を折りながら人数を数え始めた。


「私と、美緒と、ひなと、みさきと、そうまと、山田くんと、松田くん……?」


松田は自分を指差す。


「俺も入ってるの?」


「来たくなかった……?」


葵が不安そうに聞くと、松田は少し笑った。


「いや、むしろ嬉しかった、へへ」


松田蓮は心の中で素早く考える。


(みさきも来るのか……チャンスかもしれない)


その時、花江と一緒に拓海が近づいてきた。


「勉強会をするって聞いた」


「私が言ったの」


花江が自然に答える。


拓海はため息をついた。


「わざわざ言わなくてもよかったのに……」


「う、うん……やる予定だけど」


葵がそう答えると、拓海はネクタイを整え、眼鏡を直しながら真面目な表情で言った。


「僕たちも参加していいかな?」


葵は目を丸くする。


「た、拓海くんたちが? クラスで一番頭いいのに?」


「ここ数週間、他のグループの勉強を見てたんだ。今度は自分の復習もしないといけないし、そのついでに手伝えればと思って」


「私も手伝ってたよ、拓海くん」


花江が胸を張って言う。


拓海はまた疲れたように息を吐いた。


「はいはい、花江ちゃん……」


ひなが嬉しそうに手を叩く。


「じゃあ決まり! 土曜日はみんなで葵ちゃんの家!」


「え、えっ、待ってひな! まだ私、ちゃんと――」


そうまがまっすぐ葵を見つめた。


「葵の家、だめ?」


その真っ直ぐな目を数秒見つめたあと、葵は小さく答える。


「……いいよ」


美緒がニヤッと笑った。


「そうま救世主〜」


「今なんて言ったの、美緒?」


「はは、なんでもないよ、葵ちゃん」


放課後、ひなはLINEグループを作った。

グループ名は――


『葵の家で勉強会』


その名前を見た瞬間、葵はため息をつく。


「はぁ……まあ、明日は土曜日だし、みんなのお菓子とか準備しないと。その後はちゃんと集中して勉強!」


帰り道、葵はコンビニに寄って、お菓子やジュース、お茶を買った。


夜、自室で一人勉強していたものの、時々視線がゲーム機へ向かってしまう。


(集中、集中……)


軽く伸びをして階段を下りると、ちょうど雪子が玄関を開けたところだった。


「おかえり、葵!」


「あ、お母さん。明日ね、みんなが勉強会で来るんだ」


「あら、ひなちゃんと美緒ちゃん? 懐かしいわ〜」


葵は冷や汗を流しながら言う。


「た、多分……あと一人か二人くらい増えるかも……」


「別にいいわよ。騒ぎすぎなければね」


「ちゃんと勉強するだけだから、本当に」


雪子は優しく笑った。


「いつも家のこと手伝ってくれてありがとうね、葵。夕飯も」


「そ、そんな、お礼なんて……」


「演劇はどう? 順調?」


「今週の試験が終わった後に発表会があるの。十二月の最初くらい」


「絶対見に行くわね」


葵は少し視線を逸らした。


「わ、私そんなに台詞ないけど……」


「関係ないわ。見たいもの」


その言葉に、葵は少しだけ笑った。


「……うん」


夕飯と家事を終えた後、葵はまた勉強を始めたが、気づけば机に突っ伏しそうになっていた。


時計を見る。


「うわ……もう23時。寝なきゃ」


スマホを閉じようとした時、そうまからLINEが来ていることに気づいた。


『明日楽しみ。何か持って行った方がいい?』


葵は少し笑いながら返信を打つ。


『大丈夫だよ』


少しだけ迷ったあと――


『そうまに会えればいいし』


送信した瞬間、葵の目が見開かれた。


「〜〜〜っ!? な、何送ってるの私!?」


慌てて口を押さえる。


画面には『入力中…』の文字。


葵は固まったままスマホを見つめ続ける。


やがて、そうまから返信が来た。


『俺に会うだけ?』


さらに、目を隠してるパンダの絵文字。


葵の手がぷるぷる震え始める。


『み、みんな来るからね!?』


慌てて、柱に隠れている女の子の絵文字も送る。


『入力中…』が表示されては消え、また表示され――


最後に送られてきたのは。


『また明日 ✨☺️』


葵はスマホをベッドに放り投げ、そのまま膝を抱えて座り込む。


そして、自然とにやけた笑みがこぼれた。


翌朝。


キッチンからコーヒーの香りが漂ってくる。


「お母さん、先にシャワー浴びてくるね」


「いいわよ。みんな何時くらいに来るの?」


「お昼過ぎくらいかな」


「じゃあまだ時間あるわね」


シャワーを終え、楽な服に着替えて髪を乾かしていると――


ピンポーン。


「え……誰?」


玄関を開けると。


「ひな?」


ひなが小さなケーキを持って立っていた。


「朝早くごめんね、葵ちゃん」


「私も〜」


横から美緒が顔を出す。


「美緒!? 他のみんなは?」


「まだ私たちだけ」


その後ろから雪子が顔を出した。


「あら、ひなちゃん、美緒ちゃん。いつも葵と仲良くしてくれてありがとうね」


二人は少し照れながら葵を見る。


「でも、なんでこんな早く来たの?」


美緒が頬をかく。


「私の提案。三人だけの時間ほしかったから」


「まだ料理始めてなくてよかったわ〜」


雪子が笑う。


「お母さん……」


「ゆっくりしていきなさい。こっちは私がやるから」


三人は顔を見合わせて笑った。


「ありがとうございます」


「お茶入れるね」


美緒とひながソファに座ると、雪子が懐かしそうに言う。


「こうして来てくれるの、本当に久しぶりね」


「最近はみんな忙しくて……」


美緒が答える。


「私も漫画描いてるし、部活もあるし……」


「あら、漫画?」


雪子が興味深そうに聞いた。


「完成したら見せてくれるって言ってたよね?」


葵が言う。


「私も読みたい!」


美緒もすぐ反応した。


ひなは少し赤くなる。


「う、うん……完成したらみんなに見せる」


「また“みんな”って言った〜。気になる!」


その後、三人は葵の部屋へ向かい、勉強を始めた。


……いや、始めようとした。


しかし、美緒が突然鉛筆を置いて言った。


「で、葵。そうまにはいつ告白するの?」


葵は二回瞬きする。


「……へ?」


次の瞬間。


「えええええっ!?」


ひなが優しく笑う。


「否定しなくていいよ、葵ちゃん。私たち応援してるから」


葵は勢いよく立ち上がった。


「な、なんでみんな分かるの!?」


「いや、もうバレバレだから」


美緒が呆れたように言う。


葵は視線を逸らした。


「わ、私……分からないの。好きだとは思うけど……うまく説明できなくて……」


ひなが隣に座る。


「近くにいるとドキドキする? 緊張する? 何話せばいいか分からなくなる?」


「ちょ、ちょっとひな落ち着いて」


美緒が笑い出す。


「怖がらせてるって」


「わ、私は……多分そういう感じ……そうまの前だとちゃんと考えられないし……」


ひなは優しく微笑んだ。


「じゃあ、きっとそういうことだよ」


床に寝転がったまま、美緒が言う。


「そういえば、そうまってみさき振ったらしいよね」


「もしかしたら葵ちゃんのこと好きなのかも」


ひなの言葉に、葵はそっと胸を押さえた。


「……本当に?」


「直接聞かなくても、探る方法はあるよ?」


「わ、分かんない……」


「必要なら私が言わせるけど?」


「美緒っ!? い、いいから!」


ひなが吹き出した。


「美緒、本当に恋愛小説家向いてるかもね」


葵も思わず笑う。


「ふふっ、直球系ロマンス作家」


「うるさいなぁ、まだ勉強中なんだから」


しばらくして。


葵は小さな声で呟いた。


「……そうまといると、安心するの」


部屋が静まる。


そして次の瞬間。


ひなと美緒が同時に目を輝かせた。


「きゃあああ〜! 葵とそうま〜!」


「か、からかわないで!」


ひなは笑顔のまま言う。


「からかってないよ。応援してるの」


「うん。私も絶対うまくいくと思う」


葵は真っ赤になりながら拳を握る。


けれど最後には観念したように顔を覆った。


「……ありがと」


ひなが満足そうに笑う。


「じゃあ、あとは落ち着くだけだね」


「もうすぐそうま来るよ?」


美緒の一言で、葵の顔が再び真っ赤になる。


「そ、そうまだよ!? 私の部屋に来るんだよ!?」


ひなが笑った。


「みんないるから大丈夫だって」


「そ、そうだけど……いつ話せばいいと思う?」


「今日でしょ」


美緒が即答する。


「勉強会終わったら、私たち適当に消えるから」


「二人きりにしてあげる」


ひなも続けた。


美緒は突然立ち上がる。


「コンビニ一緒に行くとかどう?」


「え、でも私、自分の部屋空けたくない!」


「大丈夫だよ。誰も触らないって」


「特に花江ね」


美緒が真顔で言う。


「いい子だけど、ちょっと変だから」


「ふふっ、確かに」


葵はベッドに座り、枕をぎゅっと抱きしめた。


「……コンビニでもいいし、終わった後でもいいけど……やっぱり最後かな」


「なんで?」


ひなが聞く。


葵は枕に顔を埋めたまま小さく呟いた。


「その前に二人きりになったら……絶対、勉強に集中できないから……」


美緒は胸を押さえて大げさに言う。


「うわ〜、葵ちゃん成長してる〜」


「もう、やめてよ……ばか、へへ……」

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