表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

第41話――ゲームの裏側

アオイが家に帰った頃には、すっかり夜になっていた。


通りは静かで、淡い黄色の街灯と、家々の窓からこぼれる柔らかな光だけが周囲を照らしている。そよ風が木々の葉をゆっくりと揺らし、まるで慌ただしかった一日がようやく落ち着きを取り戻したかのようだった。


玄関のドアを開けると、懐かしい家の匂いがふわりと包み込んだ。


リビングではテレビがついている。


ユキコはソファに座り、ぼんやりと番組を眺めていた。ドアの音に気づくと、顔を上げる。


「イベント、どうだった?」


アオイは玄関で靴を脱ぎながら答えた。


「すごく楽しかったよ……」


バッグをテーブルに置く。


「でも最後にちょっとトラブルがあって……それで帰ってきたの」


ユキコは眉をひそめ、すぐに立ち上がった。


「トラブル?」


近づいてきて、アオイの腕をそっと掴みながら、心配そうに見つめる。


「大丈夫なの?」


アオイは慌てて手を振った。


「だ、大丈夫!私じゃないから、喧嘩したの」


ユキコはほっと息をついた。


「そう……よかった」


アオイは少し照れくさそうに首の後ろをかいた。


「ちょっとお風呂入ってくるね」


「うん」


ユキコは再びソファに座りながら言った。


「あとで少し、話があるの。アオイちゃん」


アオイは目を瞬かせる。


「うん……わかった」


温かいお湯が、アオイの髪を伝って流れていく。


湯気がゆっくりと浴室を満たし、鏡を曇らせ、すべてをやわらかな静けさで包み込んでいく。


アオイは目を閉じた。


すると、今日の出来事が少しずつ蘇ってくる。


ヒナと山田。


赤くなった顔。


告白。


抱きしめ合った瞬間。


ミオの不満。


言い争い。


傷ついたミサキ。


そして――


ソウマ。


手を取られた感触。


あの笑顔。


アオイはぱっと目を開いた。


顔が熱くなる。


「な、なんでこんなこと……」


小さく笑う。


「なんで思い出してるの……?」


それでも――


唇には、かすかな笑みが残っていた。


風呂から上がり、リビングを通りかかると、ユキコがテレビを消した。


「アオイ……」


足を止める。


「急にこんな話してごめんね」


ユキコは少し迷うように言った。


「この前ね、ゲームしてたでしょ?呼んでも全然返事がなくて……」


アオイの動きが止まる。


「それで部屋のドアを開けたら……」


ユキコはわずかに眉をひそめた。


「お父さんにそっくりなキャラクターがいたの」


アオイの目が大きく見開かれる。


一瞬、言葉が出なかった。


「……あ」


視線を逸らす。


「それは……ただ……一緒に遊んでるみたいな気がしてほしくて……」


ユキコは黙ったまま聞いていた。


やがて、ゆっくりと近づく。


「ねえ、アオイ」


声が少しだけ柔らかくなる。


「そろそろ……仏壇を用意してもいいんじゃないかなって思って」


「どう思う?」


アオイは俯いた。


「お母さん……」


ユキコは慌てて手を振った。


「いいのいいの!忘れて!」


ぎこちなく笑う。


「変なこと言っちゃったね、はは……」


そのままキッチンへ向かう。


「夕飯、何がいい?」


アオイは小さな声で答えた。


「ちょっと食欲なくて……大丈夫」


ユキコは少し考えてから、微笑んだ。


「じゃあ、軽いもの作るね」


「できたら呼ぶから」


アオイは二階へ上がった。


部屋は静かだった。


ベッド横のスタンドライトだけが、やわらかく光っている。


ゲーム機が、そこにある。


まるで待っているかのように。


スマホを手に取る。


「エターナル・イージス・オンライン」のグループに、15件の通知。


「えっ!?」


急いで開く。


『もう始めてる』

『ソウマキーとヒロ、どこ?』


アオイは迷わずゲーム機を起動した。


ロゴが映る。


ログイン。


ちょうどその瞬間――


ソウマも打ち込んでいた。


『今入った』


街の反対側で、ソウマは画面を見つめる。


「アオイ……」


プリンス・ジョン:

『新しいメンバーが入った。ハナエさん』


タケジル:

『誰?』


ヒロ:

『委員長?』


『そう』


新しい名前が表示される。


hanae


『こんにちは。アクティブなグループで嬉しいです』


ソウマキー:

『本名で来るとは思わなかった』


『その方が楽なので』


『城、行きますか?』


タケジル:

『もういるの!?勝てそうじゃん!』


『行こう』


暗い回廊を進んでいく。


ゾンビ。


スケルトン。


下位のヴァンパイア。


魔法が炸裂する。


剣が空気を裂く。


さらに奥へ。


そして――


ボスのヴァンパイアが現れた。


膨大なマナ。


プリンス・ジョン:

『遠距離型だ』


ハナエ:

『闇魔法使いです』


『簡単ですね』


『一緒に行きましょう』


『はい』


ハナエが杖を掲げる。


「ブラックホール」


敵の上に空間が歪む。


火炎魔法が吸い込まれる。


『今!』


魔法が飛ぶ。


ソウマキーが盾で突進。


タケジルが背後へ――


ズブッ


ヴァンパイアが膝をつく。


ヒロが跳躍。


首を切り落とした。


静寂。


+10,000 XP


「すご……」


「強くなってる……」


「あと魔王だけだ」


扉が開く。


闇。


不気味な笑い声。


突然――


防御と回復が消える。


光が灯る。


魔王が玉座に座っていた。


「バフ」


エラー


「え?」


雷撃。


ソウマキーに直撃。


「ソウマ!」


回復を試みるが――


「無理だ……!」


「ここまで来たんだ」


「無駄にはしない」


ハナエ:

「サクリファイス」


突撃。


自らの命を吸い尽くす。


死亡。


だが――


魔王のバフが消え、HP半減。


『今!』


ソウマキーが攻撃。


三撃。


そして倒れる。


タケジルが透明化。


ブラッディナイフ。


出血。


倒れる。


ヒロが戦い続ける。


ミサキが回復。


プリンス・ジョンが魔法。


HP5%。


呪い。


ミサキ:

「リカバリー+フリーズ」


ヒロを回復。


HP固定。


全滅。


残るはヒロ。


HP1%。


「貫通斬り」


剣が心臓を貫く。


静寂。


最終ボス撃破――魔王

+100,000 XP


アオイは息を呑む。


手が震える。


HP:7%


「終わった……?」


画面を見つめる。


「……あ」


「エンディング……」


名前が流れる。


ゆっくりと。


そして――


止まる。


目が大きく見開かれる。


そこにあったのは――


メインプログラマー/原作

坂本 博


手が震え出す。


チャットに打つ。


『もう寝るね』


返信が来る。


『お疲れ!』

『クリアできた!』

『やばかったな!』


電源を切る。


灯りを消す。


ベッドに横になる。


枕を強く抱きしめる。


暗闇の中、目は開いたまま。


心臓の音だけが響く。


「お父さんの名前……」


小さく呟く。


「これ……何……?」


「どういうことなの……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ