表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/45

第4話 ヒロの初めての冒険

葵はキャラクター作成を終えたあと、数秒間画面をじっと見つめていた。

黒髪の戦士が、キャラメイク画面の中央に静かに立っている。

まるで生きているかのように、ゆっくりと呼吸をしていた。

マントがわずかに揺れ、デジタルの世界に見えない風が吹いているようだった。

葵は首をかしげる。

「よし……次はクラスだね」

画面にはいくつかの選択肢が表示されていた。

魔法使い。

弓使い。

盗賊。

僧侶。

戦士。

葵は手の甲に顎を乗せ、考え始める。

「魔法使いにしたら、ひなにこき使われそう……」

「弓は難しそう……」

「盗賊はすぐ死にそうだし……」

しばらく黙り込み、最後の選択肢を見つめる。

「やっぱり……戦士かな」

コントローラーをゆっくり動かす。

「その方が、ひなが魔法撃つとき守れるし……」

その瞬間、ふと手が止まった。

ある記憶がよぎる。

昔、父の弘志と一緒にゲームをしていたとき、彼はいつも同じことを言っていた。

「魔法使いには、前に立って守るやつが必要なんだ」

葵は、気づかないほど小さく微笑んだ。

「じゃあ……戦士で」

選択する。

クラス:戦士

新しい画面が表示される。

戦士クラス

高い物理攻撃力を持つ。

近接戦闘と前線での戦いに特化している。

葵はコントローラーを両手で握る。

「よし……行こう、ヒロ」

ゲームが始まった。

画面には小さな村が映る。

木造の家々。

中央には噴水。

NPCたちが穏やかに歩いている。

静かな音楽が流れていた。

画面の下には表示される。

ヒロ — レベル1

初期装備。

ショートソード。

基本的な防具。

葵はコントローラーの横に置いていたスマホを手に取り、LINEを開く。

ひなにメッセージを打つ。

「もう始めたよ」

送信して、スマホを置く。

再びゲームに戻る。

ヒロは村の中を歩き始めた。

土の上を歩く音、噴水の水音、穏やかな音楽が、不思議と心地よい。

その時、スマホが震えた。

ひなから返信。

「もうログインしてるの?笑」

葵は打つ。

「レベル1から始めた」

数秒待つ。

返事はない。

その直後、別の通知が表示された。

グループに追加されました。

グループ名:

「エターナルズ」

葵は眉をひそめ、グループを開く。

ひなが書き込む。

「みんな、連絡取りやすいようにグループ作ったよ」

葵は打つ。

「ひな?他に誰いるの?」

メンバー一覧を開く。

ひな。

そして――

蒼真。

葵の手が止まる。

「や、山本がいる……」

画面を見つめる。

「なんて言えば……」

数秒の沈黙。

そして、新しいメッセージ。

蒼真:

「ありがとう。まだログインしてないけど」

葵は入力する。

「一緒に頑張ろうね!」

送る前に一瞬止まる。

「なんか変じゃない……?」

考える前に、次のメッセージが来た。

ひな:

「ゲーム内でフレンド送るね」

ゲーム画面に通知が出る。

プリンス・ジョン がフレンド申請を送ってきました。

葵はまばたきする。

「プリンス・ジョン?」

首をかしげる。

「これ……ひな?」

スマホが震える。

ひな(個人):

「それ私ね」

葵は小さく笑った。

「やっぱり……」

承認する。

すぐにまた通知。

パーティに招待されました。

画面が切り替わる。

ヒロは別の場所にいた。

ダンジョンの入口。

暗く、湿った石と、下へ続く階段。

隣には二人のキャラクター。

プリンス・ジョン

ソウマキー

一人が前に出て、地面に何かを落とす。

光る剣。

剣 レベル30

チャットに表示される。

「この剣、君のステータスに合ってると思う。使って」

もう一人がアイテムを落とす。

マナポーション。

エイチピー ポーション。

葵は数秒チャットを見つめる。

そして入力する。

「ありがとう」

ふと視線を上げる。

窓からの光はすでに弱く、部屋は夕方の灰色に染まっていた。

立ち上がり、電気をつける。

白い光が部屋を満たす。

再び画面を見る。

「まだ始めたばっかりなのに……」

「もう楽しい」

時計を見る。

18:02

「あと少しだけ……」

ダンジョンへ入る。

足音が響く。

水滴の音。

音楽が緊張感を帯びる。

敵が現れる。

ゴブリン。

錆びた剣を持つ小さなスケルトン。

プリンス・ジョン が魔法を放ち、

ソウマキー が素早く攻撃する。

ヒロは必死についていく。

レベルは低いが、強い剣のおかげで戦える。

数分後、ダンジョンはクリアされた。

表示:

ヒロ — レベル4

葵は入力する。

「本当にありがとう。また明日ね」

ソウマキー:

「また明日」

プリンス・ジョン:

「またね」

葵はゲームを閉じ、電源を切る。

椅子に体を預け、腕を伸ばす。

「こんなに楽しかったの……久しぶりかも」

夜。

葵は下へ行き、シャワーを浴びる。

その後、部屋着に着替えてキッチンへ。

冷蔵庫を開ける。

牛肉。

玉ねぎ。

ご飯。

卵。

醤油。

砂糖。

「牛丼にしよう……」

料理を始める。

ご飯を炊飯器にセットし、

玉ねぎを薄く切る。

フライパンに油を入れ、玉ねぎを炒める。

香りが広がる。

牛肉を入れ、

醤油と砂糖、水を加える。

優しい香りがキッチンを満たす。

ご飯が炊けると、二人分の丼を用意する。

食卓を整える。

皿が二つ。

コップが二つ。

箸も二膳。

20:00

ドアが開く。

「ただいま〜……あら、ただいま、娘」

雪子だ。

葵は微笑む。

「おかえり。仕事どうだった?」

「疲れたけど……まあ文句言うほどじゃないかな」

ふと匂いに気づく。

「この匂い……」

葵は落ち着いて言う。

「お母さんの好きなやつ」

雪子は笑顔になる。

「ありがとう、葵ちゃん。本当に助かるわ」

「今食べる?」

「お風呂入ろうと思ってたけど……」

すでに座っている。

「いただきます」

スーツのまま。

葵は笑う。

「今日は頑張ったから」

雪子が眉を上げる。

「へえ?どうして?」

葵は何気なく答える。

「今日は……学校、楽しかったから」

雪子はにやっと笑う。

「へえ〜彼氏できた?」

葵はむせそうになる。

「な、なにそれ!?」

「なんでそうなるの!?」

雪子は笑う。

「私もそのくらいの時に初めてできたのよ」

興味津々。

「教えてよ、イケメン?」

「お母さん!」

雪子は笑いをこらえられない。

「ごめんごめん」

葵は平静を装いながら食べ続けるが、内心は少し笑っていた。

食後、部屋に戻る。

コンソールを見て思う。

「もう少しだけやろうかな……」

翌朝。

チチチ……

目覚ましが鳴る。

葵はゆっくり目を開ける。

「ん……」

周りを見る。

「なんで床で寝てるの……」

テレビもコンソールもついたまま。

「ゲームしながら寝た……?」

体を起こす。

「いた……」

体が固い。

下に降りる。

キッチンには朝食と弁当。

メモ:

「ちゃんと食べてね」

葵は微笑む。

「お母さんこそ寝て……」

朝食を食べながら思う。

「昨日……楽しかったな」

スマホを見る。

7:25

「やばっ!!」

急いで洗面所へ。

通学路。

駅へ向かう途中、走っている人が見える。

「ひな!」

振り向く。

「ああっ!葵も遅刻!?」

「電車間に合わない!」

「走ろ!」

駅に到着。

7:49

電車が来る。

「行くよ!」

ドアが開き、飛び込む。

数秒後、ドアが閉まる。

ひなは息を切らす。

「あ、危なかった……」

葵は窓の外を見る。

学校。

門へ向かう。

ひなが言う。

「葵が走るなんて珍しいね」

「寝坊した」

「その歩き方なに?」

「変な寝方した」

ひなが目を細める。

「今朝ヒロ、レベル17だったよね」

葵はため息。

「はいはい……笑っていいよ」

少し沈黙。

ひなが言う。

「ヒロ……なんでお父さんに似てるの?」

葵は少し黙る。

「お父さんへの、ちょっとした……形かな」

小さく笑う。

「このゲームの方が、私より似合ってるし」

ひなは笑う。

「大人だね〜」

「ひなに言われたくない」

その時、葵が止まる。

「……あれ?美緒、ここ通るよね?」

ひなも周りを見る。

「ほんとだ……」

「先に行ったのかな」

「かもね」

教室2-B。

気づく。

美緒の席が空いている。

カバンもない。

葵はスマホを取り出す。

「美緒、もう授業始まるよ」

既読なし。

空席を見る。

「休まないのに……」

「どうしたの、美緒……?」

その日初めて、胸の奥に不安が広がった。

空の椅子は、そのままだった。


もしこの物語を気に入っていただけたら、評価よろしくお願いします。

とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ