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第36話 — 松田蓮の日曜日

まだ日曜日だった。


松田蓮は自分の部屋でパソコンの前に座り、面白い動画を見ていた。スクロールしながら、時々小さく笑い声が漏れる。


「んー…あの動画どこだっけ…」


コンコンコン


蓮は画面から目を離さなかった。


「誰?」


ドアの向こうから、聞き慣れた声。


「お兄ちゃん、何してるの?」


彼はため息をついた。


「ああ…灯花か。」


立ち上がってドアを開ける。


灯花が興味津々で部屋を覗き込んでいた。


蓮は腕を組む。


「なあ灯花…お前もう13だろ。俺は16。自分の部屋にいろよ。」


「でも、何かゲームしたい…」


「ゲームしてないって。ただ動画見てるだけ。」


「面白いの…ふーん…」


蓮はすでにドアを閉めかけていた。


「本当だって。じゃあな、灯花。」


そしてそのまま、彼女の目の前でドアを閉めた。


ドアにもたれながら、またパソコンの前へ戻る。


「リクに見せる動画、見つけないとな…」


「蓮、ちょっと下に来なさい。」


一瞬、動きが止まる。


「ああ…母さんか。」


階段を降りると、灯花がすでに腕を組んで立っていた。リビングでは母親の松田七海がソファに座っている。


彼女は二人を落ち着いた、しかししっかりした目で見た。


「二人とも、ちゃんとしなさい。ケンカはやめて。」


蓮は眉をひそめる。


「ケンカ?してないけど。」


「灯花が言ってたわよ。言い合いしてたって。」


「う、嘘だよ!ただ部屋を勝手に見ようとしたからダメって言っただけ!」


「遊びたかっただけだもん!」と灯花がむくれる。「嘘つかないで!」


「同じだろ。もう子供じゃないんだから、少しは考えろよ。」


「二人とも、やめなさい!」七海が止めた。


蓮はため息をつく。


「はぁ…ごめん、母さん。無理しないでよ。」


灯花も少し落ち着いて母を見た。


「ママ、よくなってきてる?」


七海はやさしく微笑んだ。


「まだ治療を始めたばかりよ、灯花。乳がんは簡単なものじゃないけど…きっと大丈夫って思ってる。」


蓮はうなずく。


「治療始められてよかったよ。来年には笑い話になってるって。」


七海は二人を見る。


「だから、その間はケンカしないでね。」


灯花は腕を組む。


「お兄ちゃん、たまにすごくウザいんだもん。だから彼女できないんだよ。」


蓮は片眉を上げてニヤリとした。


「ガキのお前に彼氏がいるみたいな言い方だな。」


灯花は一瞬で真っ赤になる。


「い、いるもん!」


蓮と七海は顔を見合わせて同時に言った。


「えっ!?」


灯花は目を逸らす。


「ま、まだ相手は知らないけど…」


七海は額に手を当ててくすっと笑った。


「はいはい。でも今は勉強が大事よ。」


その時――


玄関のドアが開いた。


「ただいまー!」


「おかえりなさい!」七海が笑顔で答える。


「今日残業だったの?」と蓮。


灯花は勢いよく大地に抱きついた。


「やっぱり家が一番だなあ」と彼は笑う。「今日はお土産もあるぞ。」


お菓子の袋を持ち上げる。


蓮は苦笑した。


「もう子供じゃないって。」


だが灯花が一度に三つも口に入れるのを見て、言葉を止めた。


ニヤッと笑う。


「へえ…大人で彼氏持ちじゃなかったのか?」


「もー、お兄ちゃん!」


大地はテーブルに座り、急に真剣な顔になって頭を抱えた。


灯花は戸惑う。


「パパ…どうしたの?」


彼は深く息を吸う。


「もうそんな年か…彼氏がいるなんて…」


「えっ…」


灯花は慌てた。


「い、いないよ!」


大地は立ち上がった。


「やったああ!」


蓮は笑った。


「やっぱり嘘かよ。」


「うるさい!」


七海が立ち上がろうとする。


「夕飯作るわ――」


「ダメだ!」大地がすぐ止めた。「座ってて。」


「え?」


彼は袖をまくる。


「蓮、灯花。料理するぞ。」


「はい!」二人同時に答えた。


こうして三人はキッチンで過ごした。


材料を間違えたり、


笑ったり、


混乱したり。


それでも最後には、シンプルなカレーライスを作り上げた。


七海は目を閉じて香りを感じる。


「いい匂い…」


「いただきます!」大地が誇らしげに言う。


「お風呂も入ってないのに」と蓮。


「パパいつも先に入るのにね」と灯花。


大地は笑い、すぐに真面目な顔になる。


「母さんは今、乳がんと戦ってる。みんなで支えよう。」


灯花はうなずく。


「うん…」


蓮も。


「もちろん。」


食後、七海は皿を持ちながら言った。


「これ…本当においしい。ありがとう…」


涙がこぼれる。


「母さん?」蓮が小さく言う。


灯花は抱きしめる。


「大丈夫だよ!来年笑ってるって言ってたでしょ!」


蓮はぎこちなく笑う。


「も、もちろんだよ。」


大地は笑った。


「前向きでいれば、いい結果になる。」


七海は息を吐く。


「ありがとう…」


その後――


「明日学校だし」と蓮。


「皿洗い手伝え」と大地。


「うん…」


キッチン。


水の音。


皿の音。


「こういうのも悪くないな…」


蓮が父を見る。


大地は真剣だった。


「蓮…約束してくれ。」


「なに?」


「もし母さんの治療がうまくいかなかったら…俺に何かあったら…」


沈黙。


「灯花を頼めるか?」


蓮は目を見開いた。


「は?何言って――」


「頼む。」


蓮は止まる。


父の目は…潤んでいた。


大地はすぐに目を逸らす。


蓮は息を飲む。


「…わかった。面倒見るよ。妹だし。」


大地は息を吐く。


「母さんはずっと強かった。俺は追いかけるばかりだった…」


スポンジを握る。


「お前たちのことも…愛してる。」


「父さん…?」


包丁を持つ。


「でももし最悪が起きたら――」


「あっ!」


「どうした!?」


指を切っていた。


「手当てしてくる。後頼む。」


「うん…」


蓮は一人になる。


水の音が大きく感じる。


リビングを見る。


七海は笑っている。


灯花は楽しそうに話している。


全部…普通に見えた。


彼は下を向く。


そして小さくつぶやく。


「何も起きないよ、父さん…絶対乗り越える…」


布巾を強く握る。


「心配しなくていい…」

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