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第26話:太陽と波、そして遮られた告白

朝も遅い時間になり、太陽はすでに砂浜をじんわりと温めていた。


規則正しく打ち寄せる波の音が、どこか心を落ち着かせるような、穏やかな空気を作り出している。


ユキコはタオルの上にうつ伏せになり、静かに日差しのぬくもりを楽しんでいた。


その隣では、アオイも同じように横になり、半分閉じた目で潮風に髪を揺らしている。


「……ママ」


アオイがぽつりと呟く。


「こういうの、久しぶりかも」


ユキコはふっと微笑んだ。


「前に来たときはね、あなた一秒もじっとしてなかったのよ?」


少しだけ顔を横に向ける。


「今ごろ砂浜を走り回ってたはずよ」


アオイは小さく笑った。


「子供だったもん……」


「ふふ……友達と遊びに行かなくていいの?」


アオイはゆっくり顔を上げた。


少し先では、ミオとヒナが海際でボールを投げ合いながら、波に取られてはしゃいでいる。

そのさらに向こう――

ソウマが家族と一緒に座っていた。

アオイは数秒だけ見つめてから、ゆっくりと起き上がる。


「……やっぱり、行ってくる」


「いってらっしゃい」ユキコは優しく言った。「楽しんできなさい」


アオイは砂浜を歩き出す。


足元をかすめる冷たい海水が、心地よい。


最初に気づいたのはミオだった。


「お、やっと来たじゃん」


「何してるの?」アオイは二人の横で足を止める。


ヒナが笑う。


「ボール遊び。見ればわかるでしょ?」


ミオはくすっと笑いながら、アオイをからかうように首を傾けた。


「で?なんでこっち来たの?」


さりげなく指をさす。


「ヤマモト、あっちにいるよ」


アオイは瞬きをした。


「……呼んだほうがいいかな?」


「いいじゃん!」ヒナが即答する。


アオイは小さくため息をついた。


「……わかった」


そのまま海岸沿いを歩き出す。


――が、


ドンッ


「きゃっ——!」


誰かにぶつかった。


「坂本さん!」


アオイが顔を上げる。


「……ハルちゃん?!」


ハルはにこっと笑った。


「久しぶりー!」


アオイは少し気まずそうに笑う。


「うん……もっとヒナのところ遊びに行かないとね……」


「ヒナお姉ちゃんとボールやる?」


「やるけど……ちょっと用事があって」


アオイはソウマのほうを見る。


ハルもその視線を追った。


そして――


無言になる。


(……あの人と話すの?)


アオイは軽く息を吸った。

「そ、ソウマくん!こっち!」

ソウマが振り向く。


「あ、アオイ——」


その瞬間。

日差しの中で輝く姿。

水着。

揺れる髪。

ソウマは一瞬で顔を逸らした。

「た、楽しんでる?」

アオイは首を傾けて――気づく。

自分の格好に。


「っ……」


少し顔が赤くなる。


「う、うん……いいところだよね……」


そして、ふと彼の体を見る。


広い肩。

引き締まった腹筋。

「……運動してるんだね」

言った瞬間、固まる。


「ご、ごめん!」


ソウマは頭をかいた。


「い、いや……陸上部だから……」


沈黙。


お互い、まともに目が合わせられない。


「ねえ、アオイお姉ちゃん」


ハルがすっと間に入った。


ソウマをじっと見る。


「この人、変なことしてない?」


「へ、変態?!」アオイが固まる。


ソウマも目を丸くする。


「は?」


ハルは腕を組んだ。


「お姉ちゃんには、もっといい人がいるよ」


「ハル、やめて!」


ソウマは困惑しながら聞く。


「……弟?」


アオイはため息をついた。


「ヒナの弟だよ」


指をさす。


「あっちにいるのがヒナ」


ソウマが見る。


「あれが……?」


「そう。だから女子ばっか見ないで」


「見てないって!」


内心では少しイラっとしていた。


(このガキ……)


アオイが慌てて割って入る。


「も、戻ろ!」


「……そうだね」ソウマが頷く。


歩き出すアオイ。

その後ろでハルがぼそっと言う。


「今、お尻見てたでしょ」


「はぁ?!」


振り向くソウマ。

――そして一瞬、

本当に見ていたことに気づく。


「ほら」


「変態」


「このガキ……!」


ソウマが走り出す。

ハルも一瞬で逃げた。


「捕まえてみろー!」


砂浜を駆け回る二人。


アオイはその様子を見て――

笑い出した。


「……なんだかんだ、仲いいよね」


少しして、全員が集まり、海に入った。


遊んで、走って、笑って。


しばらくして――

「喉乾いた?」ソウマが聞く。

「ちょっとだけ」アオイが答える。

ミオがニヤッとする。


「アオイ、一緒に買ってきなよ」


「え……うん」


二人は並んで歩き出す。


少しの沈黙。

「海、好き?」ソウマが聞く。


「好き。でもあんまり来ないかな」


「そっか……」


「ソウマくんは?」


彼は遠くを見る。


「昔、この近くに住んでたんだ」


「え?」


「崖のある道の近くの町」


少しだけ笑う。


「よく来てた」


「いいなぁ」


「普通だよ」


でも、その表情は少し曇っていた。


アオイは気づく。


「……どうしたの?」


「いや……なんでもない」


「なんで引っ越したの?」


ソウマは小さく息を吐く。


「ちょっと……色々あって」


「……そっか」


自販機に着く。


アオイが飲み物を選び始める。


「ヒナにはこれ……ミオは……うるさいんだよね」


ふと振り返る。


「ソウマくん?」


彼はどこか遠くを見ていた。


「アオイ……先に言いたいことがあって」


空気が変わる。


「なに?」


「昔住んでた町で――」


その瞬間。


ガシッ


「おーーい!」


「た、タケオ先輩?!」


「藤本先輩?!」


タケオが笑っていた。


「二人で来てたのか?」


「ち、違います!」アオイが慌てる。「家族と友達とです!」


「奇遇だな。俺も家族で来てる」


そのとき――

ハルがまた現れる。

じーっと見比べる。


「……また変なの増えた」


「は?」タケオが固まる。


「誰だこのガキ!」


「ガキじゃない!」


ソウマがため息をつく。


「ヒナの弟……」


アオイが説明する。


「こっちは先輩」


ハルはじっと見る。


「……なるほど」


「ボスってこと?」


「誰がだ!」


「落ち着いてください先輩!」


アオイは笑った。


「この海、騒がしすぎ……」

飲み物を持ち上げる。

「戻ろっか」

去っていくアオイ。

タケオがソウマをつつく。


「チャンスだぞ」


「先輩?!」


「行け」


背中を押す。

そしてハルを見る。


「お前は同い年見とけ」


「お姉ちゃんは俺のだし」


「はいはい」


アオイとソウマは並んで歩く。

話しながら、笑いながら。

後ろでハルはその姿を見つめていた。

胸に手を当てる。


「……お姉ちゃん」


戻ると――


「アオイー!」


ユキコの声。


「ま、ママ?!」


ソウマが驚く。


「え?!あれが?!」


「なにその反応?!」


ユキコは微笑む。


「ソウマくん?」


「は、はい!」


「山本蒼真です!」


「クラスメイトです!」


ユキコは少しニヤッとした。


「もう名前で呼び合ってるのね?」


「ママ!!」


「冗談よ」


周囲の視線が集まる。


「綺麗……」


「すごい……」


ソウマは固まる。


「ア、アオイ……あとで何食べる?」


「まだ決めてない」


戻ると、ミオが気づく。


「アオイ、お母さんの近くにいたほうがいいかも」

ソウマが見ようとするが――

ミオが顎をつかむ。


「どこ見てんの?」


「み、見てない!」


「人多いなって思っただけで……!」


ミオは真顔になる。


「まあね」


「アオイのママ、目立つから」


アオイはため息をつく。


「ちょっと行ってくる」


去っていく。

ヒナがくすっと笑う。

そして――

ミオがゆっくりソウマを見る。

ニヤリ。


「ねえ、山本くん」


頬杖をつく。


「アオイのこと、好きでしょ?」

ソウマの顔が真っ赤になる。

「なっ——?!」

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