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第2話 新しいクラスメイト

星見市立高校二年B組の教室は、転校生の自己紹介が終わった後も、まだ小さなざわめきに包まれていた。


教科書を開いているふりをする生徒。

後ろの席をちらちら見ながら小声で話す生徒。


窓際の席では、山本蒼真が落ち着いた姿勢を保とうとしていたが、見られている感覚を無視することはできなかった。


好奇心。

品定め。

もしかすると、少しの嫉妬も。


朝の光が窓から差し込み、彼の机の一部を照らし、磨かれた床にやわらかい光の線を作っていた。


教室の後ろでは、神崎美緒が頬杖をつき、大げさにため息をついた。


「これじゃ集中できないんだけど。」


葵は笑いをこらえた。


「落ち着いて、美緒…ふふ。」


ひなは少し首をかしげ、遠くから蒼真を観察していた。


「うーん…二次元キャラだったら完璧だね。」


葵は小さく笑った。


「ほんと、ひなっぽい。」


その時、先生が軽く本を机にトントンと叩いた。


「はい、始めます。」


美緒はまたため息をついた。


「この話は後でね…」


ページをめくる音が教室に広がった。

授業が始まった。


しばらくの間、教室には先生が公式を説明する声と、鉛筆が紙の上を走る音だけが響いていた。


葵は授業についていこうとした。

本当に、ちゃんと集中しようとしていた。


でも気づかないうちに、また視線が教室の反対側へと向いてしまっていた。


蒼真は横顔のまま、ノートに何かを書きながら先生の話を聞いていた。

窓からの光が彼の顔の一部を照らしていた。

黒い髪が少しだけ目にかかっていた。


葵は頬杖をついた。


ただ、見ていた。


どれくらい時間が経ったのかも気づかないまま。


その時、声が彼女の意識を切り裂いた。


「坂本。」


葵は反応しなかった。


まだ蒼真を見ていた。


「坂本。」


少し大きな声で。


「坂本。答えて。」


葵はびくっとして我に返った。


「は、はい!」


先生はまっすぐ彼女を見た。


「黒板の問題を解いて。」


葵は黒板を見た。

中央には方程式が書かれていた。


彼女は急いで頭の中で数字を整理した。


数秒後、不安そうに答えた。


「えっと…答えは…x=1 と x=2 ですか?」


先生は小さくため息をついた。


「座っていい。」


何人かの生徒が小さく目を合わせた。


「正しい答えが分かる人?」と先生が聞いた。


すぐに手が上がった。


「花恵。」


クラス委員の花恵が落ち着いて立ち上がった。


「この式は、まず3で割って簡単にできます。」


彼女はチョークを持った。


「それから因数分解します。」


そしてクラスの方を向いた。


「なので、解は x=1 と x=3 です。」


先生はうなずいた。


「素晴らしい。」


花恵は席に戻った。


「もっと集中して、しっかり勉強しなさい。」と先生は言い、本を開いた。

「次のページ。」


葵は少しうつむいたまま、ノートを見ていた。


美緒が身を乗り出して小さな声で言った。


「後で中庭行こう。」


葵は小さくうなずいた。


それからひなの方を見ると――

思いがけないものを見た。


ひなはノートに絵を描いていた。


ものすごく真剣な顔で。


彼女の好きなゲームのキャラクターだった。


でも――

下着姿だった。


美緒が気づいて、声を出さずに笑い始めた。


「また描いてるの?」


ひなは顔を真っ赤にした。


「コンテスト用なの!」


葵は口を押さえて笑いをこらえた。


その時――


キーンコーンカーンコーン


チャイムが校舎に響いた。


先生は本を閉じた。


「しっかり復習しておくように。重要なところだ。」


その瞬間、教室は一気に動き出した。

椅子の音。

カバンを閉める音。

会話の声。


ひなが葵の袖をつかんだ。


「ちょっとお店まで一緒に来て!」


美緒も立ち上がった。


「私も行く。どこかで少し勉強もしよう。」


彼女はため息をついた。


「ごめん、葵…私、数字ほんとダメ。」


葵は笑った。


「いいよ。さっきぼーっとしてたし…でも私、英語の方がもっとダメ。」


「行こう行こう!」


三人は教室を出て、話しながら階段を下りていき――

最後の段で。


ドンッ


誰かにぶつかった。


「うわっ…ごめん。」


藤本武夫だった。


葵は瞬きをした。


「武夫?」


彼はリュックを直した。


「あ、葵。元気?」


「部活?」


「うん…今日は特にないけど、演技の練習したくて。」


葵は笑った。


「もう十分上手いのに。」


武夫は少し照れて頭の後ろをかいた。


「ほ、本当?ありがとう…でも、篠原に追いつくにはまだまだだよ。」


その時、葵は腕を少し引っ張られた。


美緒だった。


目が言っていた。


「聞いて。」


葵は何度か瞬きをした。


そして思い出した。


(あ…この人のこと好きなんだ。)


葵は急に緊張して少し汗をかいた。


「じゃ、じゃあ私たち行くね!またね、武夫!」


「また明日!」


三人は学校の門を出た。


美緒はすぐに葵の方を向いた。


「葵!なんで聞かなかったの!?」


「いきなりそんなこと聞けないよ!小さい頃から知ってるけど、それでも変だよ!」


ひなが笑った。


「面白かったのに。」


美緒はため息をついた。


「明日、私がなんとかする。」


三人は通りを歩き始めた。


「右だよ。」とひなが言った。「六ブロックくらい。」


「先にコンビニ寄ろう。」と美緒。「お腹すいた。」


角を曲がると――


少し前を歩いている人影が見えた。


ひなが目を細めた。


「見て…転校生。」


美緒はすぐに気づいた。


「あ、山本くん。」


葵は静かに彼を見た。


美緒がにやっと笑った。


「一緒に帰る?葵。」


葵は一瞬で真っ赤になった。


「な、何言ってるの!?」


美緒は笑った。


「冗談冗談。でもずっと見てたよね。」


葵はさらに顔が赤くなった。


「美緒ちゃん!!」


その時――


「えっと…こんにちは。」


山本蒼真が立ち止まって振り向いていた。


葵は固まった。


美緒が前に出た。


「こんにちは。転校生だよね?」


「や、山本蒼真です。」


「私は神崎美緒。こっちが高瀬ひな、坂本葵。」


「よ、よろしく…」


四人は一緒に歩き始めた。


「普段何が好きなの?」と美緒が聞いた。


「走ることと…アクション映画…」


彼は少し迷った。


「あとゲームも…でも変に思われたくなくて、クラスでは言わなかった。」


ひなの目が輝いた。


「ゲーム好きなの!?」


「アールピージーが好き…」


ひなが爆発した。


「ええええア ールピージー 好きなの!?」


通りを歩いていた人がちらっと見た。


葵は苦笑いした。


「落ち着いて、ひな…」


「プリンスジョン知ってる!?」


蒼真は瞬きをした。


「誰?」


「ゲームのキャラ。」と葵が説明した。


「ごめん…知らない。」


話しながら歩いていると、横断歩道に着いた。


美緒はひなを後ろに引っ張り、葵と蒼真を先に渡らせた。


「なんで引っ張るの!?」とひなが小声で言った。


「葵がどうするか見たい。」


「ずるい…」


向こう側に渡ると、蒼真が言った。


「…向こうに友達いたんだ。」


葵は後ろを見た。


「でも、まだ渡る時間あったよね。」


そこで彼女は気づいた。


少し顔が赤くなった。


「わ、私ここで待ってるね。」


蒼真は近くの家を指さした。


「僕、あそこに住んでる。」


白い二階建ての家だった。明るい木のベランダ、小さな植物、低いフェンス。小さな桜の木が午後の風に揺れていた。


「坂本…だよね?」


「うん?」


蒼真は何か言おうとした。


でも、何も言わなかった。


その時、美緒とひなが渡ってきた。


蒼真は少し下がった。


「また明日。」


「うん、また。」


ひながすぐ前に出た。


「帰る前に、これ私の番号。」


蒼真は目を見開いた。


「えっ!?」


美緒は笑いをこらえていた。


「ライン しよう!エターナルズ・イージス・オンライン やってる?」


「や、やってる…レベル23。」


ひなが満面の笑顔になった。


「私レベル20!第三ダンジョンのボス一緒に行こう!」


蒼真は少し戸惑った。


「い、いいの?」


「もちろん!」


彼のスマホが鳴った。


ピロン。


「送った!」


「ありがとう…また明日。」


「またね!」


彼は家の中へ入っていった。


三人はまた歩き出した。


美緒がひなを見た。


「今まであんなことしたの見たことない。」


ひなはいたずらっぽく笑った。


「ボス戦でストレス発散する仲間が欲しいだけ。」


美緒は笑った。


少し前を、葵が黙って歩いていた。


「葵?」と美緒が呼んだ。


返事はなかった。


「怒った?」とひなが聞いた。


葵は振り向いた。


少し驚いた顔。


それから笑った。


少しだけ無理しているような笑顔で。


「ううん、なんでもないよ。本当に。」


美緒とひなは顔を見合わせた。


「ちょっとコンビニ行ってくる。」と美緒は言って店に入った。


ひなは葵の横に残った。


「番号聞いちゃってごめん…」


葵は少し眉をひそめた。


「なんで?」


「葵が聞きたかったのかなって思って。」


葵は数秒黙っていた。


それからゆっくりひなの方に歩いていった。

笑っていた。

でも少しだけ緊張した笑顔だった。


「何言ってるの、ひなちゃん?」


ひなは少し息をのんだ。


「…その顔、久しぶりに見た。」


「ほとんど知らない人だよ。」と葵は言った。

「なんでそんな風になるの?」


少し沈黙が流れた。


ひなは少し考えてから言った。


「ゲーム機、一つ貸してあげる。」


「え?」


「このゲーム、クロスプレイあるから一緒に遊べるよ。」


葵は少し迷った。


「ゲームなんて何年もやってない…最後にやったのは…」


そこで止まった。


視線が下がった。


ひなが優しく肩に触れた。


「ごめんって意味。」


そして笑った。


「それに、蒼真とも仲良くなれるかもよ。」


葵は目を細めた。


ひなは慌てて笑った。


「冗談冗談!」


その時、美緒が甘いパンとジュースを持って出てきた。


「早くゲーム屋行こう。」


葵は小さく深呼吸した。


「そのあと、数学教えてあげるね。」


「決まり。」


夕方のやわらかい光の中を歩きながら――


葵の心の中に、静かな思いが生まれていた。


やわらかくて。

少しだけ気になって。


(…そのゲーム、どんなゲームなんだろう。)


読んでくれてありがとうございます。

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