第16話 君の笑顔を見たとき、僕が感じたこと
暗い部屋の中で、画面の光だけが静かに揺れていた。
深いダンジョンの入口。
黒い石の壁と、落ち着かない炎のように揺れる松明に囲まれながら、四人のキャラクターが立っている。
画面の隅に、名前が淡く光っていた。
ソウマキー。
プリンスジョン。
ヒロ。
マドウサキ。
一瞬の静寂。
そして、チャットが動いた。
Prince John:
「これであのドラゴンも終わりだな」
ヒナの部屋。
彼女はコントローラーを握りながら、楽しそうに笑っていた。
だが、その直後――
Soumakey:
「マドウサキ、レベルがかなり低い…」
ヒナは固まった。
画面をじっと見つめる。
一秒。
二秒。
三秒。
そして――
「えええっ、そうだったぁ!!」
チャットに次の言葉が流れる。
Soumakey:
「どうする?」
葵は自分の部屋の床に座り、ベッドにもたれながらコントローラーを握っていた。
落ち着いた目で、ダンジョン入口に立つキャラクターたちを見つめる。
そして、ゆっくりと打ち込む。
Hiro:
「オークのクエストあるよね。先にそれ手伝おう」
すぐに返事が来る。
Prince John:
「いいね。それで行こう、マドウサキ?」
美咲の部屋。
彼女は画面の向こうで、小さく微笑んだ。
「うん…」
淡い青のローブをまとった小さな魔法使い――マドウサキが、仲間の後を追いかける。
場面が切り替わる。
中型オークの廃村。
黒い木と動物の骨でできた建物は崩れ、あちこちで焚き火が燃えている。
その中を、数えきれないほどのオークが歩いていた。
再びチャット。
Prince John:
「範囲火魔法いく」
Soumakey:
「了解」
沈黙。
数秒間。
葵は静かに画面を見つめていた。
先頭を歩くソウマキー。
巨大な盾を背負い、まるで門を打ち破れるほどの重さを感じさせる。
守る者の歩き方だった。
その後ろで、プリンスジョンが杖を掲げる。
赤いルーンが空中に浮かび、回転する。
――イグニス・フレイム。
炎が村を焼き尽くす。
オークたちは吹き飛ばされ、炎に飲み込まれていく。
チャットが流れる。
Prince John:
「攻撃魔法ある?マドウサキ」
美咲は慎重に入力する。
Madousaki:
「あります」
杖を掲げる。
空気が一気に冷えた。
氷の結晶が空中に生まれる。
――シャープ・ブリザード。
無数の氷の刃が雨のように降り注ぎ、オークたちを貫いた。
画面の数字が一気に上がる。
レベル10。
18。
26。
「すごい…一気に上がった…!」
Prince John:
「回復と攻撃、両方伸ばして」
Hiro:
「それでドラゴンも楽になる」
Soumakey:
「行こう」
再び静寂。
足音だけがダンジョンに響く。
そして――
Prince John:
「じゃあ、ドラゴン行こうか」
長い道のりだった。
石の回廊。
影から襲いかかる魔物。
ドラゴン兵と歪んだ怪物たち。
すべてを突破して――
たどり着く。
巨大な空洞。
中央で眠るドラゴン。
黒い鱗が光を反射し、黄金の瞳がゆっくり開く。
戦闘開始。
ソウマキーが最初に突っ込む。
盾がドラゴンの顔面に叩きつけられる。
轟音。
だが――
反撃。
一撃で吹き飛ばされる。
ヒロが続く。
対ドラゴン用の剣が光る。
斬撃。
火花。
ドラゴンが口を開く。
炎が喉に集まる。
チャット。
Prince John:
「マドウサキ、防御!」
美咲は息を整える。
――グループプロテクション。
光の壁。
――リカバリーヘルス。
その瞬間――
炎が放たれた。
全てを焼き尽くすような業火。
葵は一瞬目を閉じる。
(もう焼かれるの、見たくない…ヒロ)
目を開く。
違和感。
Hiro:
「ダメージ少ない」
Prince John:
「回復もしてる」
Soumakey:
「ポーション全部マドウサキに」
青い瓶が次々と渡される。
炎が収まる。
全員、立っていた。
Soumakey:
「マナ限界」
Prince John:
「今しかない」
総攻撃。
魔法。
剣。
爆発。
ドラゴンの体力が削れる。
葵が強く握る。
「ここで…!」
ヒロの剣が青く光る。
――フォーティフィケーション。
跳躍。
首を貫く。
断末魔。
崩れ落ちる巨体。
勝利。
「やったぁ!!」
「ヒナ、静かにしなさい!」
「ごめーん!」
葵はコントローラーを静かに置く。
「やっと…」
ベッドに倒れ込む。
小さな笑み。
でも――
(山本くん、なんか変だったな…)
夜。
スマホ。
「今日は大変だったね」
送信。
「ドラゴン」
待つ。
既読なし。
少しして――
「大変だったな。マドウサキのおかげだ」
葵:
「一緒に遊ぶの、好きだよ」
「俺も。邪魔してたらごめん」
「してないよ」
少し迷って――
「安心する」
待つ。
返事は来ない。
(やっぱり、距離ある…)
別の部屋。
宗馬。
「安心する」
画面を見る。
「…なんだよ、それ」
言葉は続かない。
そのまま横になる。
静寂。
翌朝。
教室。
宗馬。
後ろを向いて――
美咲と笑っている。
自然に。
ヒナが走る。
葵は立ち止まる。
見つめる。
胸に手を当てる。
(なんで…)
ゆっくり浮かぶ感情。
(こんなに、変な感じがするんだろう…)
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