表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

第11話 ― 手紙、過去、そして決断

白い封筒が、神崎美緒の指の間に挟まれたままだった。


中央に描かれた小さな赤いハートが、シンプルな紙の上でほんのり光っているように見える。美緒は、そこに何か見えない言葉でも書かれているかのように、しばらくそれを見つめていた。


やがて、小さく息を吐いた。


「授業の間に考えておくよ。」


隣で、ヒナがすぐに身を乗り出し、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。


「えー、もう行きなよ! で、あとで全部教えてね!」


美緒はゆっくりと目を上げた。


「これはショーじゃないんだよ、ヒナ。」


ヒナは大げさに腕を組んだ。


「行かないなら、無理やり行かせるからね!」


美緒は少し眉をひそめた。


「なんでそんなにこだわるの?」


そう言いながら、手紙をカバンの中にしまう。


「考えるって言ったでしょ、ヒナ。今日はもうこの話しないで。」


ヒナは少し顔を背け、笑いをこらえながら小さな声でつぶやいた。


「ふふ……このデート、観察してマンガのネタにしよ。」


芝居がかったように顎に手を当てる。


「もうキスシーンまで想像できる……」


葵は小さく笑った。


「ヒナって、たまに変だよね。」


ヒナはすぐに振り向いた。


「違うよ、葵ちゃん! ただ楽しみなだけ!」


それから机を軽く叩いた。


「それより……ヒーラー探さないと。」


葵は首をかしげた。


「でも、誰が私たちと一緒にやりたいって思うかな?」


少し困ったように笑う。


「私たち、すごく下手だし。」


ヒナは、すごく大事なことを説明するみたいに指を立てた。


「RPGは上手いか下手かじゃないの。」


元気よく言う。


「ゲームの世界に入り込むことが大事なんだよ!」


それから少し首をかしげた。


「葵ちゃん、前にやってなかったっけ?」


葵はヒナを見た。


表情は真剣だったけれど、目は遠くを見ているようだった。まるで、どこか遠い場所へ行ってしまったように。


ヒナはすぐに気づいた。

笑顔が消えた。


「あ、あの……ごめん、葵ちゃん。

今の忘れて。」


葵は何度か瞬きをして、ゆっくり息を吸った。


「大丈夫、ヒナ。

誰がやるかなって考えてただけ。」


数分後、生徒たちはみんな席に座り、教室にはいつものざわめきが広がっていた。


教室の反対側で、山本蒼真が手を上げ、葵とヒナにこっそり手を振った。二人も手を振り返した。


その様子を見て、美緒が小さく笑いながらつぶやいた。


「私、あんなふうに選ばれたことないな。」


葵は振り向いた。


「え? 選ばれた?」


美緒は頬杖をついた。


「なんでもない。」


少し笑って言った。


「大事にしなよ、山本さん。」


葵の反応はすぐだった。

顔が一瞬で真っ赤になった。顎から耳の先まで全部。


「な、なにそれ!?」


立ち上がりそうになる。


「美緒! 何言ってるの、あ、あんた……!」


美緒は笑った。


「はは、落ち着いて。」


両手を上げる。


「冗談だよ、葵ちゃん。」


数秒後、笑いが落ち着き、彼女は小さくため息をついた。


「こんなに笑ったの、久しぶりかも。」


三人の間に、小さな沈黙が生まれた。


葵は少し心配そうに彼女を見た。


「お母さん、どう?」


美緒は落ち着いた声で答えた。


「順調に回復してるって。昨日、先生が言ってた。」


一度机を見て、また顔を上げる。


「今日、お父さんが日本に来るんだ。

たぶんすぐ病院に行くと思う。」


ヒナは目を大きくした。


「遠くから来るんだ。すごいね。」


美緒は肩をすくめた。


「まあ……あの人なら来ると思ってた。」


そのとき、教室のドアが開き、佐々木先生が入ってきた。


「おはよう、みんな。」


全員立ち上がる。


「おはようございます!」


「はい、座って。」


先生はプリントを机に置いた。


「授業を始めます。」


時間はゆっくり過ぎていき、やがて昼休みになった。弁当を開く生徒もいれば、購買へ食べ物を買いに行く生徒もいた。


ヒナはすぐに美緒の方を向いた。


「それで、美緒?!」


美緒は落ち着いてご飯を食べていた。


「それでって?」


ヒナは大げさに眉を上げた。


「誘い、受けるの?」


美緒は少し考えてから思い出したように言った。


「ああ。あの手紙。」


お茶を一口飲む。


「たぶんね。ちゃんと返事はしないといけないし。」


ヒナは親指を立てた。


「頑張ってね。」


そう言いながら、ヒナの視線が教室の中をさまよった。

そして、動きが止まった。


少し離れたところで、黒沢花恵が無表情のまま、じっと葵の方を見ていた。


ヒナは葵に近づいて小さな声で言った。


「葵ちゃん……なんで委員長、また葵ちゃんのこと見てるの?」


葵はスマホをいじっていた。


「委員長?」


顔を上げて振り向く。

その瞬間、葵と花恵の目が合った。


花恵はすぐに顔をそらし、何事もなかったかのように匠と話し始めた。


葵は何度か瞬きをした。


「変なの……」


そのとき、教室のドアが開いた。


荒井美咲が入ってきた。


しかし、何かが違った。

歩き方が少しおかしい。普通に歩いているようで、ほんの少しだけ足取りが不安定だった。


教室が静かになり、何人かの生徒がひそひそ話を始めた。


美緒が小さな声で言った。


「美咲、体調悪そう……」


少し眉をひそめる。


「昨日のあの子たちかな?」


葵も小さな声で答えた。


「わからない……

でも花恵さんが見てくれるって言ってた。」


そのとき、佐々木先生が再び教室に入ってきた。


全員立ち上がる。


「えー、今日は大事なお知らせがあります。」


教室が静かになった。


「来週、テストがあります。しっかり勉強するように。」


すでに何人かの生徒がため息をついていた。


そして先生は続けた。


「それから、もう一つ……」


少し言葉を止める。


「女子トイレで血が見つかりました。」


教室にざわめきが広がった。


「何か知っている人がいたら、先生か職員室に知らせてください。」


蒼真はこっそり葵の方を見て、手でスマホのジェスチャーをした。


葵は静かにスマホを取り出す。

新しいメッセージが来ていた。


開く。


――蒼真:

「美咲が三人の女子と一緒にトイレに入ったって話を聞いた。」

「昨日、話したんだよね?」

「何か言ってた?」


葵は画面を見つめた。


表情は変わらない。


でも、意識はずっと昔へ戻っていた。


坂本葵、九歳。


教室で一人で座っていた。

他の生徒はみんなグループで昼ご飯を食べている。


でも葵は、いつも一人だった。


そして、いつも同じ女子グループがいた。


髪を引っ張られる。

消しゴムを捨てられる。

弁当を床に落とされることもあった。


葵は泣かなかった。

叫びもしなかった。


ただ、遠い目で彼女たちを見ていた。


ある日、女子の一人が言った。


「なんで怒らないの?」


別の子が笑った。


「この子、泣きもしないよ。」


「殴っても泣かないし。」


しばらくして、葵は小さなゲームショップで父の古いゲーム機を持って立っていた。雪子と一緒だった。売るつもりだった。


雪子が聞いた。


「本当にいいの? 葵、売っちゃって。」


葵は静かにうなずき、雪子は店員のところへ行った。


そのとき、ヒナが店に入ってきた。

大きなメガネ、髪を結んでいて、父親と一緒だった。ゲーム機を見て目を輝かせていた。


「わあ、坂本さん! このゲーム機持ってるの!?」


葵は驚いて瞬きをした。


「え?」


ヒナはすぐに近づいてきた。


「この前助けてくれてありがとう! どうやってお礼したらいいかわからないけど……

このゲーム機、買ったの?」


葵はいつもの無表情に戻って言った。


「ううん、売りに来たの。」


ヒナはすぐに笑った。


「じゃあ、私に売って! お父さんあそこにいるから!」


葵は数秒彼女を見て、少しだけ微笑んだ。


「すごく好きなんだね。」


ヒナは顔を赤くした。


「も、もちろん!」


深呼吸する。


「それで?」


葵はゲーム機を持ったまま言った。


「お金は別にいらないの。」


「大事にしてくれる人に持っててほしいだけ。」


ヒナは瞬きをした。


「大事に?」


葵は少し目を下げた。


「お父さんと一緒に遊んでたから……

でも、もう一緒に遊べないから。」


ヒナは少し黙った。


それから手を上げた。


「じゃあ、私の家で一緒に遊ぼう!」


顔を赤くする。


「あ、急に変なこと言ってごめん!」


葵は笑い始めた。


「ヒナって面白い。」


「でも、一緒に遊んでくれるの?」


ヒナは大きく笑った。


「うん!」


過去の記憶は消えた。


葵は現在に戻った。


どうして、こういうことっていつも起こるんだろう……


休み時間になると、葵は立ち上がった。


「ちょっと行ってくる。」


「葵ちゃん?」

「葵、待って!」と美緒が言った。


しかし葵はもう、美咲の席へ向かって歩いていた。


「美咲……

よかったら、私が手伝うよ。」


美咲は彼女を見た。

目は真剣だった。


「坂本。

私は助けなんていらない。」


彼女は立ち上がり、ドアの方へ歩いた。


そこには、すでに三人の女子が待っていた。


美咲はそのまま一緒に教室を出ていった。


葵は小さくため息をつき、その後を追いかけ始めた。


蒼真はすぐに立ち上がり、葵のところへ走った。


「どこ行くの、坂本さん?」


「助けに行く。」


蒼真は少し迷ったような顔をした。


「でも……先生に言った方がいいんじゃない?」


葵は落ち着いた声で答えた。


「先生たちは、もうあの子を見捨ててる。」


そして、そのまま教室を出ていった。


ヒナと美緒もすぐに立ち上がった。


蒼真は少しの間、床を見ながら考えていた。


教室の反対側では、匠がメガネを直しながら静かに様子を見ていた。


花恵が急いで教室を横切った。


「や、山本くん……」


少し不安そうだった。


「先生に言った方がいいかな?」


蒼真は顔を上げた。


「僕、やることができたみたいです。委員長。」


そしてヒナと美緒を見た。

二人は真剣な目で彼を見ていた。


蒼真は小さくうなずいた。


ヒナは深呼吸をした。

美緒が彼女を見る。


「準備いい? ヒナちゃん。」


ヒナは少しだけ唾を飲み込んでから言った。


「こういうことは……」


そして顔を上げた。


「もう、怖くない。」

少しでも楽しんでいただけたなら、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ