表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/46

第10話 静かな愛、燃える過去

文学部の心地よい静けさは、ページをめくる柔らかな音だけに満たされていた。

放課後のやわらかな陽射しが教室の大きな窓から差し込み、すべてを温かい黄金色に染めている。数人の生徒たちは小さなグループで静かに物語について語り合い、他の者たちはただ黙って読書に没頭していた。

神崎美緒は、窓際の机に座っていた。

彼女の手には一冊の小さな本――部員が書いた短編小説が開かれている。

その視線は一行一行を丁寧に追い、まるで細部まで吸収するかのように真剣だった。時折、赤みがかった髪の一房を無意識に耳にかける。

その目は、ずっと文字の上に留まっている。

物語に引き込まれるにつれ、気づかぬうちに唇がわずかに開くこともあった。

数メートル離れた場所では、山田陸が部員の男子と話していた。

「だからさ、もし主人公が三話でその秘密に気づいたら――」

だが、山田はほとんど聞いていなかった。

視線が、また逸れていた。

気づけば――美緒を見ている。

そして、しばらく見つめ続けてしまっていたことに気づく。

慌てて目を逸らした。

くそ…また見てた…。

別のことを考えろ…。

「なあ、山田くん。」

「ん?」

「神崎のこと、好きなの?」

「はぁっ!?!?」

思った以上に大きな声が出た。

部室中の視線が一斉に山田へ向けられる。

一瞬で静まり返る空気。

山田は固まった。

そして反射的に頭の後ろに手をやり、何度も頭を下げた。

「す、すみません!すみません!すみません!」

くすくすと笑い声が漏れる。

美緒は一瞬だけ顔を上げたが、何事もなかったかのように再び本へと視線を戻した。

山田の隣の男子が身を乗り出す。

「なあ…早めに気持ち伝えたほうがいいぞ。」

山田は眉をひそめた。

「なんでだよ。それに、お前には関係ないだろ。」

「まあまあ。」

男子はさらに声を潜める。

「噂なんだけどさ…神崎、演劇部の三年、藤本武雄のこと好きらしい。」

山田は黙り込んだ。

その名前が、頭の中で反響する。

藤本武雄。

「俺だったらさ、チャンス逃す前に言うけどな。」

山田は机の上の本を見つめた。

だが、もう読んではいない。

「……そうか。」

小さくため息をつく。

「ありがとよ…一応。」

表面上は落ち着いている。

だが心の中では、一つの名前がぐるぐると回り続けていた。

藤本武雄。

指先で本を軽く握る。

――先に動かないと。

その頃、演劇部では――

篠原が足早に部室へ戻ってきた。

ドアを開けた瞬間、誰かを探すように視線を走らせる。

そして見つけた。

武雄は顧問の教師と話していた。

篠原は彼のもとへ歩み寄る。

「ふ、藤本くん…」

武雄が振り向く。

「ん?どうした、篠原ちゃん?」

彼女は一瞬固まる。

その顔、その目、その落ち着いた表情を見つめる。

口を開く。

だが、言葉が出てこない。

「……なんでもない。」

武雄は少し目を瞬かせた。

「そっか…まあ、いいけど。」

篠原はそのまま背を向け、大股で部屋の反対側へと歩いていった。

その途中、一瞬だけ葵の姿が視界に入る。

葵は座って台本を読んでいた。

その顔は完全に無表情。

感情は一切見えない。

ただ、淡々とページをめくっている。

篠原はわずかに眉をひそめた。

――これが…あの子のやり方?

小さく呟く。

部屋の反対側では、武雄が腕を組みながら考えていた。

葵の友達が俺のことを好き、か…。

顎に手を当てる。

――一度、話してみるか。

別の校舎では、高瀬陽菜が漫画の作画に集中していた。

ペンを走らせる手は止まらない。

その後ろで顧問の教師がじっと見ている。

やがて、教師の表情が険しくなる。

「高瀬。」

「はい?」

「そのキャラに服を着せなさい。」

陽菜は顔を上げ、不満げに叫んだ。

「なんでですかぁ!?」

教師はただため息をついた。

部活が終わる頃、空はすっかり暗くなり始めていた。

葵は校門の近くで待っていた。

やがて陽菜と美緒がやって来て、三人は一緒に帰り始める。

歩きながら、陽菜がぽつりと呟いた。

「葵ってさ…美緒ちゃんがちょっと距離置くことあるって思わない?」

葵は少し考える。

「まあ…ただ疲れてるだけじゃないかな。」

小さく微笑む。

「お母さんのこともあるし、普通の学校生活も続けてるし…大変なんだと思う。」

陽菜は納得したように頷いた。

「そっか…だよね。」

数分後、三人はそれぞれの帰路についた。

その夜――

陽菜はゲームのチャットにメッセージを送る。

エターナル・イージス・オンライン

「やろうよ!ミレニアムドラゴン出た!」

葵はゲーム機の電源を入れた。

画面に現れるキャラクター――ヒロ。

やがて、ダンジョンで再び合流する。

ドラゴンは巨大だった。

黒い鱗。

燃えるような目。

戦闘が始まる。

「カバー頼む!」とプリンス・ジョン。

「そっちこそだろ!」とヒロ。

ドラゴンが口を開く。

咆哮がダンジョンに響く。

次の瞬間――炎。

圧倒的な一撃。

炎がキャラクターたちを飲み込む。

「うわあああ!!」とプリンス・ジョン。

「やばっ――!」とヒロ。

葵は画面を見つめる。

ヒロのキャラが炎に包まれ、苦しそうにもがいている。

だが、復活画面は出ない。

残ったのはタンクのソウマキーだけ。

耐えようとする。

だが、再びブレスが放たれる。

そして――灰になる。

沈黙。

「連携ひどかったな…」とプリンス・ジョン。

「人数足りないな。」とソウマキー。

「ヒーラー欲しい。」

「だな。」とヒロ。

数秒の沈黙。

「俺、ヒーラー連れてくるわ。」とプリンス・ジョン。

「俺は寝る。」とヒロ。

「また明日。」

葵はゲーム機の電源を切った。

テレビの画面が暗くなる。

だが彼女は、その場に座ったまま動かない。

黒い画面を見つめ続ける。

頭の中では、まだヒロが燃えている。

叫び声が響く。

そして――

記憶が蘇る。

フラッシュのように。

ドア。

立っている警察官。

泣いている母、雪子。

六歳の葵。

階段を降りていく。

警察官が子供を見る。

帽子を傾け、目は隠れている。

口元は硬い。

「こんばんは。」

幼い葵は母を見る。

「どうして泣いてるの?」

――記憶は途切れる。

現在。

葵はまだ画面を見ている。

無表情のまま。

――寝たほうがいい。

翌朝。

葵は目を覚ました。

表情は変わらない。

――また一日。

深く息を吸う。

――行こう。

通学路で、陽菜と美緒と合流する。

陽菜が元気に言った。

「今日はヒーラー捕まえるから!」

美緒は瞬きをする。

「ヒーラー?」

葵は小さく笑った。

「ゲームの話。」

「ああ…そういうこと。」

校舎に入り、靴を履き替えようとしたその時――

美緒が足を止めた。

「……なにこれ?」

葵と陽菜が近づく。

美緒の靴の上に、封筒が置かれていた。

葵が手に取る。

――手紙?

美緒はゆっくりとそれを開く。

中央には、小さなハートの絵。

陽菜の目が輝く。

――誰から!?

美緒はざっと目を通し、小さくため息をついた。

「放課後に会いたいって。」

「校舎裏で。」

葵は首をかしげる。

「行くの?」

美緒は腕を組む。

「たぶん行かない。」

陽菜が軽く背中を押す。

「えー!いいじゃん、美緒!絶対ドキドキするやつ!」

美緒はもう一度ため息をつく。

「……行くかも。」

封筒を見つめる。

「でも――」


次の章も頑張って書きますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ