08 謎のスーパー戦隊
入り口のレジ横で、夜勤の店員が交代の挨拶を交わしている。外の国道を走る大型トラックの走行音が、昼間よりずっと大きく響く
「よし。それじゃあ、次の話いくよ」
博彦は不敵な笑みを浮かべ、舞台の幕を強引に引き開けた。
「名付けて、『赤戦隊アカスギンジャー』!」
唐突に放たれたタイトルに、雅美は飲み込みかけたラテを危うく吹き出しそうになった。
「何それ。特撮?」
「そう、特撮の常識を覆す全く新しい戦隊モノさ!」
博彦は身を乗り出し、熱を帯びた声で語り始める。
「戦隊メンバーのカラー、それは戦隊のアイデンティティだ。だが、このアカスギンジャーは違う。なんと、メンバー七人全員が『赤』なんだ!」
「...はあ?」
「ワインレッド、コーラルレッド、ブラッドレッド、リーダーのクリムゾンレッド! さらにローズレッド、ルビーレッド、そしてトマトレッド! どこを見ても赤! 右も左も赤! まさに、赤! 赤! 赤! 赤すぎんじゃー!!」
博彦は一人で盛り上がり、見えない必殺技を放つかのように右手を突き出した。しかし、雅美の反応は北極の海のように冷ややかだった。
「ちょっと待って。それって単発の映画か何か?」
「いや、全五十話の予定だよ」
「アンタ、今から五十話全部話すつもりなの? そもそも、スーパー戦隊は東映の登録商標でしょ。著作権的にアウトだし、設定の出オチ感がすごすぎて三話持たないわよ」
雅美の至極真っ当な指摘に、博彦の突き出した手は力なくテーブルへと沈んでいった。
「...そうだね。権利関係はまずいよね。これはボツにしよう」
博彦はしおしおとスマートフォンのメモをスクロールさせた。期待外れと言わんばかりの溜息を吐いた雅美が、気を取り直して問いかける。
「で、本命は何なのよ。さっきの『デッド・コピー』みたいな、ゾクッとするやつを期待してるんだからね」
その言葉に、博彦の瞳に再び鋭い光が宿った。彼は咳払いを一つして、今度は低く、震えるような声で切り出した。
「次は...『プリズナー315』」
タイトルの響きに、雅美は僅かに眉を動かした。 「プリズナー...囚人?」
「そう。主人公は記憶を失った囚人だ。彼が意識を取り戻すと、そこには見慣れない天井があった。自分がなぜそこにいるのか、いつからいるのかも一切わからないまま、彼は鉄壁の牢獄に閉じ込められていることに気づく」
「何そのありふれた設定。記憶喪失に牢獄ものなんて、出尽くしてるじゃない。いきなり萎えるわよ」
雅美はわざとらしく頬杖をつき、失望を隠そうとしなかった。
しかし、博彦は余裕の笑みを崩さない。
「まあまあ、そう焦らないで。確かに設定だけ聞けばありきたりかもしれない。でも、この作品は別物なんだ。全くの別物。...『ニュータイプ』の記憶喪失サスペンスだよ」
「ほんとかしらねえ...まあいいわ、その『ニュータイプ』とやらが何なのか、聞かせてもらうじゃない」
雅美の承諾を得て、博彦は満足げに頷いた。彼はゆっくりと目を閉じ、これから始まる「絶望の檻」の情景を、言葉の筆で描き出し始めた。




