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15 題名未定 その3

 博彦は穏やかに微笑み、スマートフォンの画面を再び指先でなぞり始めた。だが、その瞳の奥には、伴蓮照のような、冷徹な光が僅かに混じっているように見えた。


「でもなんだかな~、シリアスな割には、それってただのドキュメンタリーでしょ?」


 雅美は冷めたカフェラテのカップを回しながら、素っ気なく言い放った。彼女の頭の中にあるのは、伝説の巨匠・伴蓮照の半生を描く「実録モノ」としての側面――つまり物語の『第二層』だった。


 だが、語り手である博彦の視点は、すでにその先へと跳んでいた。


「そんなことないよ。感動のメイキング物語じゃないか」


博彦が力説するのは、映画制作の裏側そのものを作品として提示する『第三層』の視点だ。


「え」

「え」


 お互いに相手が何を言っているのか理解できず、ファミレスの一角に奇妙な空白が生まれる。雅美は首を傾げながらも、話を続けた。


「いや~でも、映画も気になるなぁ」


 雅美がふと漏らしたその言葉。彼女が今イメージしているのは、物語の起点である劇中の伝説的映画『40の想』そのもの――『第一層』の映像だった。


「ほらほら、やっぱりそう思うでしょ?」


対する博彦は、雅美が自分の語る「伴蓮照の半生(第二層)」に興味を持ったのだと確信し、身を乗り出して同意した。


「え」

「え」


 再び、短い戸惑いの声が交差する。

 博彦は意気揚々と語り、雅美はそれに食いついている。傍目には熱心な議論に見えるかもしれないが、実際には二人のイメージしている対象は決定的に噛み合っていない。


 第一層(映画)、第二層(半生)、第三層(作品そのもの)――。

 重なり合う物語のパランプセストの中で、語り手と聞き手の認識は、喜劇的なまでにすれ違い続けていた。


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