12 プリズナー315 その4
「その刑務所の深刻さを知った源治は...」
「ちょっと待って、この話、なんか前の2つに比べて長くない?」
雅美がカフェラテのカップを持ったまま、怪訝そうに口を挟んだ。
博彦は苦笑いを浮かべながら応える。
「でもそれは仕方ないというか、主人公の置かれてる状況とか刑務所の仕組みとかを説明しないと物語の面白さが伝わらないから。」
「まあ、確かにそうね。でも、あくまで私は『案』を聞くだけだから、ここからは要点要点に絞って話してよ」
「わかった。じゃあダイジェストで話すね。」
それから数日後。独房のモニターに届いたのは、感情の欠片もないシステムメッセージだった。
『担当弁護士、急逝のため次回以降の面会は取り消し』
源治は、自分を助けてくれるかもしれない唯一の人物を、唐突に失った。
焦燥感に駆られながらも、源治の頭脳は冷徹さを保っていた。
彼はその後、かつて信頼を寄せていた探偵の友人へ手紙を送る。
返信は、死の宣告よりも戦慄すべきものだった。
『この殺人事件は明らかに冤罪だ。お前を犯人に仕立て上げ、海底の藻屑として消そうとしている奴がいる。そして刺客はすでに、同じ刑務所内に潜伏している』
源治は感情を排し、逆転の計算を開始した。彼は施設内に、見えない「敵」を誘い出すための罠を緻密に仕掛け始める。
施設内外であらゆる情報を収集し、真相の喉元まであと数センチに迫った、その時だった。
背後からの音もない襲撃を受け、源治の意識は闇に落ちた。
どれほどの時間が経っただろうか。薄れゆく意識の中で目覚めた彼の腕の中から、明日への唯一の架け橋であったはずの日記帳は強奪されていた。
明日、0時が来れば、今日得たすべての真実も、戦いの記憶も、すべては消去される。彼は再び「白い部屋」で、何も知らない無垢な被験者として目覚めることになるのだ。
肉体の死よりも残酷な、「自己の連続性の喪失」が、刻一刻と迫っていた。
「えー!? 源治はどうなっちゃうの!? 助かるの?」
現実に引き戻された雅美が、身を乗り出して叫んだ。
「聞きたい? ここからは結末になっちゃうけど?」
「聞きたい! 聞きたい! 聞きたい!」
雅美は博彦の襟元を両手で掴むと、前後に激しくユッサユッサと揺さぶり始めた。
「じゃ、じゃ、話すよ...」
「でももったいない! もったいない! もったいない!」
今度は左右に、まるで猫じゃらしを振り回すかのような勢いで激しく揺さぶられる。
「どっちなの!?」
博彦が目を回しながら叫ぶと、雅美はピタリと動きを止めた。
「う〜ん、知りたいけど...でも我慢するわ。私はあなたの一番のファン、一番の読者なんだから。完成を楽しみにしてるわ」
「ありがとう♪」




