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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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かくして

 コートを着ていると、歳を食ったように肩が上がらなくなる。私はそれが大嫌いで、もっぱらダウンコートを着て冬をしのいでいる。町が私服に溢れる週末を闊歩していると、ショーウィンドウに映った影に足を止められた。まじまじ見れば、腹の山なりに落ち葉が引っかかっているのに気付いた。すかさず手で払うものの間抜けさは拭えない。コートをすらりと着こなす通りの紳士を横目に、私は無性に居た堪れない気持ちになり、踵を返す。


 家に帰って早々、着ていたダウンコートを部屋の隅奥に追いやった。こんなものを着ているから、着太りしているように見えるのだ。その晩、久しく乗っていなかった体重計に乗った。ダウンコートにした行いが言い訳がましい醜い数字である。きっと、今の私がコートを着たとしても、ショーウィンドウに映る影は忌まわしく、滑稽に映るはずだ。それから仕事を終えた後は、ランニングを毎日こなすようになった。それはそれは甲斐甲斐しい日常だ。心身が休まるのは、風呂に入っている時間か、寝ている以外ないほどに腹の肉を落とすために暇を削った。


「体調でも悪いの? 休んだ方がいいんじゃないか」


 心外だとは思わない。私の努力が病的に映るのは当然の結果であり、いよいよ体重計に再び乗る時が近づいてる証拠だ。その頃には、身体を動かして体重を減らすのは限界だと悟り、食っては吐き、水を滝のように飲む生活に様変わりしていた。今まで着ていた服が誰の物でもなくなって、家では裸で過ごすようになる。朝方、とくに目をくれることのなかった洗面所の姿見に立ち止まるよう説得された。暗がりであれば模型と見紛う骨張った全身に黄疸気味の肌が張り付いている。指標であった通りの紳士とは似ても似つかない仕上がりだ。涙ぐましい努力の結晶を自答によって否定する愚かな真似は避けねばならない。体重計を引っ張りだす。半月前に計った醜悪極まる数字との引き合いに勝利することで、私は私の正しさを証明してみせる。


 乗れば軋んでいた体重計が音も立てず数字を重ねていく。以前と今の体重差で子どもを作ることも可能な数字の減退加減に私は拍手を送った。そして、貧相と言って差し障りない身体のどこを落とせば体重が減るかを思案し始めていた。

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