明日からの話③
「協力? お前が俺に協力するんだよ」
「どうしてそこまでお前に従順でなけりゃいけないのか。全くもってわからん。お前は一体なんだ、何がしたい」
「俺は、人としての営みを望む。それだけだ」
「だったら、こんなことするべきじゃないだろう」
まるで立て篭もり犯に対する必死な説得だ。ならば、俺は歩み寄りを見せることにしよう。
「……人ならず行為かもな。暴力で屈服させるなんて」
「俺もお前も、どう振る舞おうが自由だ。しかし、お互いの存在を脅かす真似は止そう。意味がない」
萎んだ風船に再び空気が戻るかのように潰れた頭部が徐に戻っていっている。このまま元に戻られると面倒だ。油断を催すゆっくりとした歩行を直ちに解き、走り出す。今度は両腕で金属バットを受けるつもりでいるらしい。肘を曲げ、顔付近を守る姿勢をとっている。だが、俺の狙いはそこではなかった。地を這う蛇さながらに振るった金属バットはアイツの足をさらい、天地をひっくり返した。それからは文字通り全身をめった打ちである。一心不乱に壊すことを目指して人ならずものを作り出そうとしている。左足を残してほとんどの部分を潰していき、仕上げの一発目を振り下ろした。すると、最後に叩きつけた左足の太腿から瓦解を始めて、全身が黒い液状へと融解した。
抜け殻になった衣服の所在を誤魔化すのに河川はお誂え向きだった。灯籠を送り出すかのようにアイツの残滓を川へ流す。行き先は広大な海になる。長い航海を楽しんでくれ。金属バットをケースに戻し、肩に担ぐ。帰路を逸れて河川沿いを歩くことになったが、区画整理されてない色とりどりの面構えが違う家屋の頭を見下ろせる風景はなかなかに悪くない。肺に空気が満ちて、またとない横隔膜の広がりを感じている。
幾日も子どもと音信不通になった親の行動を初めて知ったし、神妙な顔つきで教師が恐々と生徒の一人がもう何日も家に帰っていないことを口にする姿は新鮮だった。堰を切ったように色めき立つ生徒の様子と合わせて、俺はこの光景を目に焼き付ける。
喉を窄ませた湿り気のある声に釣られて教師は一段と大きな息を吐く。普段なら、私語を慎めと制するところで、教師は腕を組んで静観している。恐らく、互いの記憶を保管し合う生徒のやりとりを邪魔立てしたくなかったのだろう。そんな最中、田んぼの水面を跳ね返った光が俺の目に飛び込んできた。吹き荒ぶ風の音の先に電波塔を見れば、もうじき、夏がくることを予感した。




