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――三日後。
『ゴールデネ・ツヴィシェンヴェルト』のオーナーであるベルントはあれからすぐに逮捕され、余罪があるか取り調べを受けているらしい。
カーリーンはまだ完全回復とまではいかなくても、自力で動けるようになった。いままさに夕方の『シュラウドラフ事務所』で、わたしたちは彼女たちと話をしていた――彼女たちってことは、マディも一緒にいるということ。
わたしとヴェルナーは同じソファに座り、その対面する方にカーリーンとマディがいる。マディは嬉しそうな表情をして、カーリーンにくっついている。仲のいい姉妹みたい。
カーリーンは封筒を出して、テーブルに置いた。
「ありがとうございます。報酬です」
ヴェルナーが封筒を手に取り、金額を数えていた。
「五十ライヒスマルク。たしかに」
そっか、カーリーンのアパートにあった五十ライヒスマルクはこのための……。今になって一つひとつのピースが当てはまってきてる。みんな、いろいろ考えて行動してたみたい――わたしと違って……。
「――だが、半分はお返しする」
ヴェルナーは二十五ライヒスマルクだけ受け取って、残りを封筒に入れてカーリーンに返した。
わたしも驚いたけど、一番驚いているのはカーリーン。彼女が「いえ、そんな――」と言おうとしてたけど、聞かずにヴェルナーが答えた。
「本来は何事もなく終える予定だった。だが、そうはいかず、つらい目にあわせてしまった――これはこっちの不手際だ」
「それは、私のミスで――」
「同じさ。それに自身の治療費も必要なのではないか? 金銭が無く死んでしまったら元も子もない」
「……わかりました。ありがとうございます、ヴェルナーさん。それとシュテファニーさん」
カーリーンはヴェルナーだけじゃなくて、わたしにも頭を下げてきた。わたしは左右に手を振った。
「いえいえ、わたしなんか全然。それに、わたしよりマディちゃんに感謝してあげてください。マディちゃん、カーリーンさんのことを誰よりも思っていましたから」
「ありがとう、マディ。キャバレーもあなたが安心して働けるようにするからね」
カーリーンの言葉を受け取りながらマディは「ありがとう。シュテファニーおねえちゃん」とわたしに感謝を伝えてくれた。
マディからのわたしへの報酬はこれかもしれない――小さくて優しい報酬。ここにいるみんなの頬が緩んでしまうような報酬だった。
◇◇◇
少し経ったあと「カランカラン」とドアベルが鳴って、カーリーンたちは出て行った。
そのあと、わたしは二階へと駆け上がって、また一階へと戻ってきた。
「ヴェルナー、どうぞ」
わたしは彼に渡した。
「これは……」
「はい、あのジャケットです。糸を解いて、きれいに修復しました」
立ち上がって、ジャケットに袖を通したヴェルナーは「馴染みがいい――」と呟いた。
「穴や破けたところだけを変えましたから、芯材や多くの生地はそのまま。短い期間でも、よく着て動いていれば馴染みます。ただ仕立て屋としては、もう少し服を休ませてくれると嬉しいですけど」
わたしが言ったそばから、ヴェルナーは肩や腕を動かして馴染みを確認していた。丁寧に扱ってくれるとなあ……と思いながら見ていたら、彼が言った。
「いい服は毎日着たくなるものさ――だから着てしまうだ」
「みたいですね」
そう言われて嬉しくなってしまった。着てもらえるのが、一番嬉しいのは違いない。それならそれでいいか、と思っていたら、続けてヴェルナーは言った。
「だが、長く着るとなるとそうもいかないか。キミの言うとおり明日は休ませよう。それでだがシュテファニー、夕方は空いているか?」
「はい、空いてますけど?」
「そうか、ベルリンかけっこ組合の会長との予定はないみたいだな」
「あはは……ありましたね。今日はありませんので大丈夫です」
わたしは小声で「――きっと今後も」とだけ付け加えておいた。
「なら、レストランにでも行こう」
「レストランですか?」
「ああ、前はキャバレーに行ってしまったしな。デートってやつさ、あの時は勘違いさせてしまったみたいだったからな」
そういえば、あの時にわたし「デート的には、あまりいい場所とは言えませんけど……」って言ったんだっけ。それを覚えていたみたい。気にしてないのに。
「わかりました、用意してきますね」
「ああ、待ってる」
わたしは二階へと行き、デートにふさわしいドレスとコートを選んだ。準備ができた後は一階に下りた。
「それでは行こうか、シュテファニー」
「はい、ヴェルナー」
わたしたちは外へと出て、ドアは「カランカラン」と鳴りながら閉まっていった。




