子供拾いました 6
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翌日、わたしは魔石商に約束通り魔石を卸しに行くと、売買で入手したお金の三分の二を魔石ギルドに預け、ついでにキャスリンに頼んで馬車を借りると、馬車で片道三時間ほどの場所にあるグリーン伯爵領へ向かった。
お母様の姉であり、婿を取ってグリーン伯爵家を継いだ伯母サヴァンナに会いに行くのである。
お父様がベリンダと再婚してからは、ドール子爵家と伯母様は少し疎遠になっていたけれど、わたし個人は頻繁にやり取りしていた。
付与術師スキルを持っている伯母様は、魔石に術式の刻印ができる。
ドール子爵家を出で行く前に伯母様にいくつかの魔石に刻印を頼んで作ってもらったためそのお礼をしに行くのだ。
本当は少し落ち着いてから報告とお礼に行こうと思ったのだけど、思ったより早く住む場所が見つかったし、まとまったお金も手に入った。
伯母様はお金はいらないと言ってくれたんだけど、いくら相手が伯母様でもこういうのはきちんとしておいた方がいい。
馬車を出す前に魔石ギルドで電報の魔道具を使わせてもらって、今から行く旨を伝えていたため、わたしが玄関前に到着するや否や伯母様が飛び出して来た。
「アシュリー!」
サヴァンナ伯母様が馬車から降りたばかりのわたしにぎゅーっと抱き着く。
ちょっとふくよかなサヴァンナ伯母様は、身長も女性の平均身長より少し高くて、そして力も少し強いので、ぎゅうぎゅうに抱きしめられるとちょっと苦しい。
「サヴァンナ伯母様、苦しい……」
「ああ、ごめんなさいね! でも会えてよかったわ! 家を出て行くかもとは聞いていたけれど、それっきり全然連絡がなかったからドール子爵家に突撃してやろうと思っていたところなのよ。さ、入ってちょうだい。ああ、うちの夫と息子は仕事で外出しているのよ。外出している間にアシュリーが来たって聞いたらきっと残念がるわね!」
伯母様が「ほほほほほ、自慢してやりましょう」と豪快に笑ってわたしをサロンに案内してくれる。
王都で買った手土産のお菓子を渡して、わたしが魔石に刻印してくれたお礼にお金を渡そうとすると伯母様が困った顔をした。
「お菓子はいただくわ。でも、お金はいらないわよアシュリー。あなたはわたしの可愛い姪ですもの。まあ、チャールズあたりが何かを頼んで来たら遠慮なく支払わせるけどね。……それよりも、聞きたいことがあるの。ドール子爵家を出た今なら聞いてもいいのよね?」
伯母様が聞きたいのはきっとわたしのスキルのことだろう。
わたしは苦笑して、手のひらを伯母様に見えるように差し出すとスキルを発動させた。
ころん、と手のひらに生まれた魔石を見て、伯母様がそっと息を吐く。
「やっぱりね。滅多に見ない最高品質の魔石を何個も持って来たからまさかとは思ったのよ。……このスキルについて、ドール子爵たちは?」
「知らないわ」
「いい判断だわ。魔石ギルドには登録した?」
「昨日。そうしたら、ギルド長が家まで用意してくれることになったの」
「それはそうでしょうね。この品質ならランク五でしょう? ギルドだって絶対に手放したくないはずだから、アシュリーの安全はギルドが何がなんでも守るでしょう。行くところに困っていたらわたしがどうにかしようと思っていたけれど、こんなスキルを持っているのならわたしの手助けは不要ね」
伯母様がわたしの頭にぽん、と手を置いた。
「よく頑張ったわね、アシュリー。助けてあげたくても、さすがにあなたをドール子爵家から奪い取ることはできなかったから、ほとんど何もしてあげられなくてごめんなさいね」
伯母様は何度も、わたしに家を出てうちにおいでと言ってくれた。
だけど、わたしがそうして逃げれば、きっと伯母様が悪く言われる。
ベリンダやダフニーは本当に小狡くて、自分たちを弱者に見せて、わたしは周りの自分たちが気に入らない相手を陥れるの。
わたしが逃げればきっと、サヴァンナ伯母様がわたしを攫ったとか吹聴していたはずだわ。
お父様もお兄様もベリンダやダフニーの言い分を信じるから、サヴァンナ伯母様が責められることになっていたでしょう。
だからわたしは、伯母様を逃げ場所にするわけにはいかなかったの。
伯母様は気にしなくていいって何度も言ってくれたけど、わたしが嫌だったのよ。だから伯母様が謝ることなんて何一つないのに。
でも、伯母様に頭を撫でられて、張り詰めていたものがぷつんと切れてしまったのかしら。
ぽろぽろと涙が溢れてきて止まらなくなった。
本当は――本当はね。
お父様に、信じてほしかった。愛してほしかった。
お兄様に、庇ってほしかった。笑ってほしかった。
なんで、わたしはお父様の娘でお兄様の妹なのに、ぽっと入って来た後妻のベリンダと義妹のダフニーばかり可愛がられて、わたしがないがしろにされるのだろう。
わたしは何もしていないのに、むしろベリンダとダフニーにいじめられていたのはわたしなのに、どうしてわたしが悪者にされなければならなかったのだろう。
たくさん、たくさん、吐き出したいことがあった。
叫びたいことがあった。
どうして信じてくれないの?
愛してくれないの?
そう、大声で叫びたかった。
諦めることで自分の心を守ったけれど、本当はね、心が壊れるまで声を上げたかったのかもしれないわ。
でも、声をあげれば上げるほどにわたしは悪者にされるから――いつの間にか、心を殺す方法を覚えていた。
でも、もう我慢しなくていいのよね。
いくらでも泣いていいんだわ。
泣いたところで面倒くさそうな顔をするお父様はいない。
弱者のふりをするなと怒鳴るお兄様もいない。
頑張ったわねと頭を撫でて抱きしめてくれるサヴァンナ伯母様に甘えて、わたしは久しぶりに声を上げて泣いた。
今日だけはいいわよね?
今日が終われば、わたしはちゃんと一人で立って生きていく。
でも、今だけは、涙が枯れるまで泣きたいわ。
前を向くために。
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