子供拾いました 5
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わたしがドール子爵家の娘であること、縁切り状を教会に提出したことなど、製石師スキルとはまったく関係のないことまで全部話させたキャスリンは、やれやれと息を吐いた。
「貴族にはあたしにはわからない面倒ごとがあるとは思うけどね、あんたも大変だったねえ」
「縁を切って正解ですよ、そんな家族。元婚約者も最低です。縁を切るだけではなく証拠を持って新聞社に行けばいいじゃないですか。なんならわたしが行って来ましょうか?」
リネットがプンプンと怒りながらわたしの前にお茶を出してくれた。
話に夢中になってお茶を出していなかったことを今更ながらに思い出したらしい。
話疲れたためわたしはリネットが出してくれたお茶に口をつけて、首を横に振った。
「縁を切れるならそれでいいんです。これ以上煩わされたくなくて。もちろん、縁を切ってくれないのなら徹底抗戦の構えを取りますけど」
「まあ、そんな連中と関わっても気分が悪くなるだけでいいことはないだろうね。縁が切れるならそれでいいと思うが、貴族が、製石師スキル持ちの娘を簡単に手放すかね」
「わたしはスキル発動が少し遅かったので、家族は誰も知らなかったんですよ。そのときにはすでにわたしは家でつまはじきにされていたので、あえて報告もしませんでしたし」
「賢い判断だね」
キャスリンは頷き、わたしの前に魔石を返しながら、ずい、と顔を近づけてきた。
「事情はわかった。ここからは商談なんだがいいかい?」
「商談ですか? あの、わたしはギルドに登録するだけのつもりで来たんですけど」
「馬鹿をお言いでないよ。スキルについて誰にも相談しなかったのなら知らなかったかもしれないけどね、製石師スキルのランク五を持っている人間はね、このロンズデイル国の中では二人しかいないんだよ。あんたは三人目だ。しかもこの二人のうち一人は耄碌しているじいさんで、もう一人は偏屈な引きこもり男だよ。つまり、作るスキルを持っているくせに、ろくに市場に下ろさないんだ。生活魔道具に使う魔石は、だいたいがランク三の製石師スキルで作れるけどね、質の高い魔道具になれば高品質の魔石が必要になって来るんだよ。ここまではいいかい?」
「え、ええ」
立て板に水状態で勢いよく話されて、わたしは軽く身を引いた。
身を引けばその分ずいっと身を寄せて来られるので、わたしは助けを求めてリネットを見たけれど、彼女は微笑むだけでキャスリンを止めるつもりはないらしい。
「現在、高品質の魔石が足りずに。ロンズデイル国は他国から高品質の魔石を輸入している。高品質の魔石の価格は需要と供給バランスで大きく変動するんだが、他国に足元を見られて、輸入価格がかなり高騰しているんだよ。うちのギルドも本当に困っていてね。貿易関係のやり取りは国同士がしてくれるんだが、輸入価格が高いせいでお偉いさんが何とか国内から高品質の魔石を集めろなんて無茶を言ってくれるんだよ。こんなよぼよぼの年寄りを捕まえてひどいと思わないかい?」
キャスリンは全然よぼよぼな老婆ではないと思う。むしろ元気が有り余っている気がするのだが。
だけどそれを言うと睨まれそうなので、わたしは曖昧に頷いた。
それがいけなかったのだろう。
キャスリンがきらんと目を輝かせた。
「そんなときにあんたが来た! 天はあたしに味方したのさ!」
キャスリンはがしっとわたしの手を掴むと、「逃がさないよ」と言わんばかりの圧の強い視線を向けてくる。
「もちろん適正価格で買い取るよ。まあ、需要に対して供給が追いつけば多少価格が下がるだろうか、だんだんと買い取り価格は探るだろうが、高品質の魔石は価格が下がったとしても暴落することはまずない。あんたもこれから一人で生きていかなきゃいけないんだ、先立つものが必要だろう?」
「そ、そんなに大金を持つのは怖いので、ほどほどがいいんですけど……」
「安心しな。魔石ギルドは銀行もやっているからね。ギルドカードがそのまま銀行のカードとして使えるよ。持つのが怖いならうちに預けていればいいのさ」
そういう問題じゃないんだけど。
「それからあんた、宿暮らしだって言ったね」
「え、ええ、まあ」
「ずっと宿暮らしのつもりなのかい? 例えばあんたの家族があんたを連れ戻そうと宿に来たりしたときに、宿に迷惑がかかるんじゃないかねえ」
その可能性は考えていなかった。
お父様はわたしよりもドール子爵家の醜聞を防ぐ方を選択するだろうから、わたしを連れ戻しに来ることはないと思っていたけれど、絶対とは言い切れない。
「ギルドの裏の家はねギルド所有なんだが現在あいているんだ。ランク五のよぼよぼ爺が昔使っていたんだがね、温泉地に引っ越すと言って三年前に出て行ってね、それ以来誰にも貸していない。あんたになら貸してあげるよ? 広くてなかなかいい家だ。魔石を定期的に卸してくれるのなら、もちろん、タダだよ」
わたしはキャスリンの勢いに負けた。
たぶんあれこれ言い訳したところで年の功には敵わないだろう。なんだかんだと言い負かされそうなので、早めに白旗を上げておくことにする。
「わ、わかりました。だけどあの、この近くの魔石商に魔石を卸す約束をしていて。それはかまわないですか?」
「うちのギルドはギルド会員の個人的な商売を邪魔したりしないよ。好きにすればいいさ。うちにもちゃんと卸してくれるのなら、あたしももちろん文句は言わないよ」
つまり、よそに卸してもいいけどうちにもきちんと卸せと、そう言いたいんですね。わかります。
キャスリンはほくほく顔で言った。
「じゃあ、裏の家を掃除して整えておくから二日ほど時間をもらうよ。それから」
キャスリンは抜け目ない顔で笑うと、しわくちゃの両手をわたしの前に差し出した。
「早速で悪いが、今売れる魔石を出してくれるかい?」
じつに、やり手なおばあちゃんである。
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