子供拾いました 4
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翌日、わたしはまず教会に縁切り状を提出しに行った。
この縁切り状だけど、双方の同意がなければ申請が降りない。
片方が縁を切りたいだけではダメなのだ。
だからわたしが縁きり状を提出した場合、教会からお父様に確認の連絡が行く。家長であるお父様が同意をしてはじめて、わたしはドール子爵家と完全に縁が切れるのである。
……昨日散々脅したんだから、お父様も同意するでしょう。
もうわたしは、耐えるつもりなんてない。
お父様が縁切りに同意しなければ徹底抗戦の構えである。
義妹ダフニーとわたしの婚約者だったアーロンが浮気をしているとわかってから、わたしはたくさんの証拠を集めた。
あの二人は頭が弱いのか、わたしが気づかないと思っていたのか、あちこちでイチャコライチャコラと本当に腹立たしいのなんのって……。そのおかげで大量に証拠は集まったし、その収音の刻印をしていた魔石で音声を拾ったり、映像の刻印をしていた魔石でその場面の情景を録画したりしているから、言い逃れができないだけの決定的証拠がわたしの手元にあるのである。
お父様が縁切りに同意しなければ、これを小出しに新聞社にリークしていくつもりだ。こういうのは一度に出さずに真綿で首を絞めるように小出しにする方がダメージが大きいし、次は何が出るのかと民衆が面白がって食いついてくれる。
大金持ちの高位貴族であれば金にものを言わせて新聞社に口止めすることも可能だろうが、我がドール子爵家は貧乏ではないけれどそこまでの資金はないわ。
今はちょうど夏。
このタイミングで大々的に醜聞が広まれば、今年の社交界でドール子爵家は笑いもの。そして醜聞の内容が内容だから、嫌われ者よ。特に、貴族の夫人やご令嬢からのあたりが強くなるでしょうね。
お兄様は婚約者はいるけれどまだ結婚していないし、お兄様の婚約者のご両親は潔癖を絵で描いたような方。しかも父親の方は大臣なんて要職についている。飛び火を恐れて、お兄様と婚約者の婚約も破談になるかもね。
貴族たちにそっぽを向かれたら、領地持ちでない宮廷貴族の我が家はあっという間に没落ね。
お父様だってバカではないと思うから、子爵家の没落危機とわたしとの縁切りを天秤にかけたら、家を取るに決まっているわ。わたしよりダフニーを取ったみたいにね。
……お母様が生きていた頃は、優しいお父様だったのに。
ふと感傷が胸の中に広がった。
わたしはそれを振り払うと、縁切り状を提出し、教会を後にする。
次に向かうのは魔石ギルドだ。
王都にはいくつものギルド本部が置かれているが、魔石ギルドの門構えはやや小さい。
魔石は需要があるけれど、製石師スキル持ちは少ないし、魔石の売買を商売にしている人も少ないのだ。製石師スキルを持っていない人は、当然のことながら魔石を仕入れなければ売買できないが、仕入れるルートがないとそれは当然難しい。
製石師スキル持ちは、下のランクのスキルの人だったら、どこかの商会で働くこともあるけれど、上のランクのスキル持ちなら個人活動が非常に多いのよ。ひとつあたりの販売価格が恐ろしく高いから、商会に属して身を粉にして働くなんてことをしないの。
わたしも、せっかく自由になったのにまた自由を奪われるのは嫌だから、どこかの商会に属するつもりはない。
魔石ギルドに所属して、お金が必要になったら魔石を売りつつ生きていくつもりだ。
わたしが魔石ギルドの門をくぐると、中には受付嬢が三人と、ギルドのカフェで商談中の承認と思しき人が二組いた。
「すみません。ギルドに登録したいのですが」
三人いた受付嬢のうち、一番優しそうな三十歳前後くらいの外見の女性のカウンターへ向かう。
女性はにこりと微笑むと、個人情報を記入する用紙を取り出した。
「それではこちらに記入をお願いします」
わたしはドールという姓は書かずに「アシュリー」という名前だけ書くと、製石師スキル持ちであること、魔石の売買を行いたいことをさらさらと記入する。
だけど一か所、記入に困るところがあった。
「すみません。実は現在宿暮らしなんです。宿が楽なのでしばらくは家を借りる予定はないんですけど、どうしたらいいですか?」
「それでは、仮の住所と言うことで現在お暮らしになっているホテル名を書いていただけますか?」
「わかりました」
わたしがホテル名を書くと、女性が目を丸くする。
「まあ、ずいぶんとお高い宿にお住まいなんですね」
さすがに、十八歳の娘が高級宿で暮らしていたら違和感があるだろうか。
今日は貴族だと気づかれたくなかったので、宿の近くの店で買ったちょっとおしゃれな町娘風のワンピースを着ているから余計だろう。
わたしは悩んだけれど、受付で不審に思われるとよくないかなと思って、ポケットから魔石を一つ取り出すと黙ってカウンターの上に置いた。
受付嬢がカッと目を見開く。
「わたしのランクですけど、これなんです」
指を開いて見せると受付嬢はごくりと喉を鳴らして、わたしが差し出した魔石を手に取ると、「少々お待ちください」と言って奥へ消えた。
しばらくすると、緊張した面持ちで戻って来て、カウンター横の扉を開く。
「申し訳ございませんが、奥へいらっしゃっていただいてもよろしいでしょうか?」
……あー、これ、やっちゃったやつかしら?
信用してもらおうと思って魔石を出したけど、少し程度を落とした魔石を作っておくべきだったかしら。
ランク五の製石師スキル持ちなんてそうそういないから、驚かせたわよね。
受付嬢に案内されて奥へ向かうと、長い白髪を背中の真ん中で一つに束ねた、杖を持った老婆がいた。
「時間を取らせてすまんね。ギルド長のキャスリンだ。こっちは副ギルド長のリネットだよ」
リネットと紹介されたのは、わたしの対応をしていた受付嬢だった。
なんで副ギルド長が受付嬢をしているのかと驚いていると、キャスリンが肩をすくめる。
「うちは人手がいなくてね。まあ、それほど忙しいわけじゃないから少数精鋭で回しているんだが……あんたのこれ次第では、あたしの七十一年の人生の中で一番忙しくなるかもしれないねえ」
キャスリンがわたしが先ほど渡した魔石を持って笑う。
「さあ、かけとくれ。いろいろ聞きたいことがあるんだよ」
ああ、これは逃げられないやつかしら?
わけありと思われたらしいわたしは、キャスリンに進められたソファに座って、結局、今日までのことを洗いざらい白状させられる羽目になった。
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