突然の告白 2
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設計図を見せられてもやっぱりちんぷんかんぷんだった。
ローレンス殿下はわたしが先日渡した魔石を使って魔道具作りを開始するというから、わたしはクリスを抱きかかえてダイニングに降りた。そろそろクリスのおやつの時間だからだ。
すると、わたしの後をアルバート様もついてきた。
「アルバート様もお腹がすいたんですか?」
「いや……。俺は設計図以外は役に立たないからな。あと、今から魔道具を組み立てはじめるのならあの部屋は手狭になる。することがないなら出ておいた方がいい。ここにいてもいいだろうか?」
「構いませんよ。あ、お茶を入れて来るのでクリスを抱っこしていてもらってもいいでしょうか? この子、抱き癖がついちゃって、下ろすとぐずるんです」
「え?」
わたしにクリスを押し付けられたアルバート様がわたわたしながらクリスを抱きかかえる。
子供を抱っこしたことがないのか、とっても危なっかしい手つきだったけれど、笑いながらコーデリアが横でアドバイスしていたから大丈夫だろう。
……って、あらあら。
キッチンでお茶を入れて戻ると、アルバート様がクリスに髪を引っ張られていて、わたしは目を丸くしてしまった。
コーデリアが「副団長がいるのなら外を警護しております」とにこりと笑ってダイニングの外へ向かう。
アルバート様が情けなさそうな顔でコーデリアの後姿を見て、そのあとでわたしに視線を移した。
「……俺はどうしたらいい?」
髪を引っ張られて動けないらしい。
わたしはついぷっと噴き出してしまった。
「クリス、いらっしゃい」
小さな手でぐっぐとアルバート様の髪を引っ張っていたクリスが、わたしが両手を広げるとぱっと笑う。
クリスを抱っこして椅子に座ると、アルバート様が心底ほっとした顔で椅子に座った。
「すまない。小さな子供の相手をする機会がほとんどなくて。……クリストファー様も、ずっと王太子妃殿下の元にいたからな」
「わたしもクリスを拾ったばかりの頃は何もわからなくて右往左往したからわかります」
抱っこと言っても、クリスには好きな角度や抱き方があるのだ。居心地が悪いと泣き出すので、最初はそれを覚えるのが大変だった。
少し大きくなった今では、自分で身じろぎして居心地のいい角度に持って行くのだけど、最近髪を引っ張るのがお気に入りで、わたしもよく引っ張られる。
ティーカップに口をつけて、アルバート様はホッと息を吐き出した後で、少しだけ表情を曇らせた。
「君は、ローレンス殿下が薄情だと思うだろうか」
「え?」
「王太子妃殿下が亡くなられたと知って、まだ二か月も経っていない。殿下と妃殿下は政略結婚だったが仲は良かった。クリストファー殿下……いや、クリスのことも、ローレンス殿下はとても可愛がっていた。けれども、殿下は王太子で、家族よりも優先しなければならないことがある。……それと、殿下はあまり、人に弱みを見せるのが得意ではないんだ」
つまりアルバート様は、わたしの目にはローレンス殿下が王太子妃の死を悼んでいないように見えるのではないかと言いたいのだろうか。
……そんなことは、わたしにはわからないわ。
一人一人性格が違うように、悲しみ方も人とは違う。
アルバート様の言うように他人に弱みを見せられない人ならば、わたしの前で悲しむようなことはしないだろう。
ましてや、現段階ではローレンス殿下は妻の死を公表できない立場にいる。いつも通りに過ごさなければならないのだから、余計に妻の死に向き合って悲しむわけにはいかない。
「アルバート様には……今のローレンス殿下はどう映るんですか?」
わたしの立場でローレンス殿下のことをとやかく言えるはずもない。
身分も違えば、知り合ってまだわずかだ。知りもしない人間が偉そうに「薄情」なんて言えるはずがないのだ。
「俺の目には、殿下は空元気のように見える。突然ここに魔道具研究所を作ると言い出したときは驚いたが、きっと、他のことで気を紛らわせたいのではないかと感じた。あとはクリスに頻繁に会いたいこと、妃殿下を害した相手を油断させたいことなど様々な理由があるだろうが……殿下は必死に、自分の感情と闘っているんだ」
だから、とアルバート様は一度言葉を切ってから続ける。
「君には迷惑をかけると思う。護衛の騎士だけではなく俺たちまで出入りするようになったら邪魔で仕方がないだろう。……だけど少しの間だけ。本件が片付く間だけは、我慢してくれないだろうか。もちろんすべてが片付いた後できちんと謝礼もする。だから少しの間だけ、目をつむっていてくれると嬉しい」
なるほど、言いたいことはそれだったのか。
わたしがローレンス殿下を鬱陶しく思っているのではないかと心配していたのだ。
まあ、これから一人で暮らすのだと覚悟していた矢先にクリスを拾って、あれよあれよと女性騎士と同居になり殿下の「魔道具研究所」なるものまで設置して、とっても賑やかになったとは思う。
目が回りそうだと思ったことはあるけれど、それを嫌だとは思ったことはない。
「アルバート様は、わたしのことをどのくらい聞いていますか?」
「え、ええっと……少しなら」
アルバート様の目が泳いだので、わたしがドール子爵家と縁を切ったことは聞いたのだろう。
貴族が、それも令嬢が家と縁を切るなんて、世間一般で見ればよほどのことだ。
触れないようにしていたのかもしれない。
わたしは小さく笑い、ティーカップに手を添えた。
「ドール子爵家では、わたしは爪はじきものでした。その上、わたしの婚約者だった人がわたしの義妹と浮気して、婚約者がわたしから義妹に変更になったんです。別にそれはどうでもいいんですけど、それを告げた時の父の様子とか兄の様子とか、それを見ていてぷつんと来たというか。まあ、前々から出て行く準備はしていたんですけど……。ええっとですね。何が言いたいかというと、わたしは実家にいた時から一人だったようなものなので、実家を出て、寂しさも感じないくらいにぎやかな生活になって、むしろありがたいくらいなんですよ」
「待ってくれ。婚約者がなんだって?」
そこ、食いつくんだ。
さらっと流したつもりなのに思いのほかアルバート様が険しい表情をしていて、わたしは驚いてしまった。
「え、ええっと……わたしの義妹と、浮気……」
「なるほどわかった。君の婚約者、いや元婚約者はアーロン・ハンクスだったな。今すぐ言って顔の形が変わるまで殴ってこよう」
「ま、待って待って待って! ええ⁉」
突然席を立ったアルバート様に、わたしは慌てて自分も席を立ち、クリスをベビーベッドに入れて追いかけた。
すたすたと歩いて行こうとするアルバート様の腕を掴んで引っ張るけれど、さすが騎士。力の差がありすぎて、逆にわたしが引きずられるように歩く羽目になる。
「ま、待ってくださいアルバート様! アルバート様っ!」
「お。どうしたアルバート。振られて恥ずかしくなったから帰るのか?」
ダイニングから出たタイミングで、セオ・ハントフォード様と鉢合わせた。
そのおかげでアルバート様がぴたりと立ち止まったけれど――「振られた」ってどういうことなのかしら?
首を傾げてアルバート様を見上げると、一瞬で首まで赤くなったのが見えた。
……ん?
ますます首を傾げていると、セオ様がけらけらと笑ながら言う。
「アシュリー、突然のことでびっくりしたんだろう? だけどなアルバート。せっかく俺たちが気をきかせて二人きり……まあクリスはいるけど、とにかく話ができるような環境にしてやったのに、もう振られたのか。もっと粘れよ、男だろう?」
「え? え⁉」
「セオ様ッ‼」
わたしがおろおろしはじめるとの、アルバート様が大声で叫ぶのは同時だった。
セオ様がきょとんとして、それから「あ!」と声を上げ。
「悪い! 告白まだだった⁉ あー……やっちゃった」
えええええええ⁉
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