突然の告白 1
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新米パパであるローレンス王太子殿下の大暴走により、わたしの家はどんどん人口比率が高くなっていく。
二階にあったあまりの一部屋の前に「魔道具研究所」なんて看板を掲げた殿下はご満悦だが、わたしはぐったりだ。
キャスリンに言えば大爆笑されるし、リネットは高貴な人たちが出入りすると聞いて目を回すし、わたしはわたしで、今更ダメとは言えない雰囲気でがっくりである。
人見知りしないクリスは、パパが来るのが嬉しいのか、それとも人がたくさんいるのが嬉しいのか、ここのところずっとご機嫌だ。
まあ、女性騎士の皆様がかわるがわるクリスを抱っこして遊んでくれるからなのもあるだろう。
抱っこが好きなクリスは、暇さえあれば抱っこで歩き回ってくれる女性騎士たちが大のお気に入りで、目を覚ませば抱っこをせがむようになった。ああ……ますます抱き癖がついて行く……。
おかげで、目を覚ましている時に一人でベッドに放置しようものなら激怒してギャン泣きである。未来の王様がこれでいいのだろうか。我儘に育つんじゃ……なんて心配するのは、さすがに早いかしら。
木を隠すには森の中、とは言うけれど、こんなに大々的にこの家にローレンス殿下やそのご友人が出入りしていいのかしら。
まあ、世間には王太子妃が亡くなったことは伏せているから、ローレンス殿下はいつも通りの生活をしているように見せなければならない。
ローレンス殿下にとってのいつも通りに趣味の時間も含まれているのなら、趣味に使う新たな拠点を手に入れたくらいに思わせておいた方がいいのかしら。
……とはいえ、王太子殿下が堂々と城下町の家に出入りするのはどうなのかしらね。
「魔道具研究所」なる看板まで部屋の前につけられたということは、多分だけど、国王陛下の承認は降りたのだろう。
ローレンス殿下は趣味と言ったけれど、もしかしなくても、趣味のレベルは越えていそうな気がするわ。だって、さっきから「魔道具研究所」にいろんな道具が運び込まれているのよ。あれ、高いやつよね?
「あー!」
「クリス、今は忙しそうだから邪魔しちゃだめよ? パパはあとで来てくれるから、あっちで遊んでましょう?」
「んっ」
さて、この顔はお返事かしら、それとも不満なのかしら。
アヒル口で「んっ」と声を上げたクリスを抱えて、わたしは自分が私室に使っている部屋へ向かった。
家に機材を運び込んでいるのはローレンス殿下が信用を置いているものたちだとは聞いたけれど、あんまりクリスを見せない方がいいだろう。
部屋でクリスと遊んでいると、機材の搬入が終わったころにローレンス殿下がやって来た。
殿下の後ろには見ない顔が三人いる。
搬入作業をしていた騎士たち――そう、騎士にやらせていたのだ。びっくりである――が帰ったあと、わたしはダイニングにて、殿下が連れてきた三人を紹介された。
一人目はアルバート・シンクレア様。
アルバート様はシンクレア伯爵家の嫡男で、ローレンス殿下と同じ二十一歳。
焦げ茶色の髪に青灰色の瞳の背の高い方で、殿下の護衛騎士らしい。第二騎士団の副団長だそうだ。
……二十一歳で副団長って、すごくない?
騎士団は実力主義なので、地位だけで出世はできないと聞く。つまりアルバート様はそれほどの実力者と言うことだ。
と……。
わたしが「はじめまして」と礼をするとアルバート様が驚いたように目を見張った。
どうしたのだろうと首を傾げると、どこか拗ねたようにぷいっと横を向かれる。
不思議に思っていると、今度はアルバート様の横の黒髪に黒い瞳の小柄な方――と言っても、わたしより十センチくらいは高そうだけど。周りが高身長ばかりだから小柄に見えるのね――が、人懐っこそうな笑みを浮かべて「はじめまして」と言った。
彼はヴィンス・マクレラン様、マクレラン子爵令息だそうだ。
マクレラン子爵と言えば、財務大臣である。ヴィンス様は将来の側近候補として子供の頃からローレンス殿下の遊び相手を務めていたそうだけど、本人は政治世界に興味はなく、物づくりが趣味だという。ちなみにドワーフスキル……ではなく、鍛冶スキルを持っているのは彼だそうだ。年は二十歳。
最後に紹介されたのが、彼等の中で一番年上のセオ・ハントフォード様である。と言っても年齢は二十四歳なのだけど。
彼はわたしもさすがに知っているわ。ハントフォード公爵令息。……ローレンス殿下の、母方の従兄である。金髪に琥珀色の瞳の端整な顔立ちの貴公子で、落ち着いた雰囲気が大人の男性という感じがする。だけどここにいると言うことは殿下の趣味仲間に違いない。
ローレンス殿下によると、セオ様はランク五の付与術師スキルをお持ちの稀有な方なのだそうだ。
「私の仲間はこの三人だ。そして今日からアシュリーも仲間だな。よろしく頼む」
と、殿下はわたしというより、わたしの腕の中にいるクリスを見ながら笑う。抱っこしたいのだろう。うずうずしているようだからクリスを手渡してやると、殿下は嬉しそうに我が子に頬ずりした。親バカである。前から思っていたけれど。
「しかし、聞いたときには驚いたが、本当にクリスがここにいるんだな。元気な姿が見られてよかったが……ローレンス。あまり派手に動くとオグレイディ侯爵たちを捕らえる前に逃げられるぞ」
「心配するな、セオ。もう証拠はほとんど押さえてある。だろう?」
水を向けられたのはアルバート様だった。
アルバート様は肩をすくめて小さく頷く。
「証拠はほとんど揃っていますが、まだ捕縛前です。今が一番警戒すべき時ですよ。まあ……ここはとんでもなく強固な結界に守られているようなので大丈夫でしょうけど」
「それは思った。結界の魔道具って普通は一個で使うんだけど、ここ、四重だよ? 二重じゃないよ? その倍! どれだけだよって笑ったよね!」
ヴィンス様がけらけらと笑う。
さすがは魔道具を作る趣味の方々。敵意がなければ素通りできる結界なのに、すでに張られている個数まで把握済みとは。
「しかも玄関に七個の防犯用の攻撃魔道具。玄関にもダイニングにも階段にも廊下にもいたるところに設置してあるぞ。城でもここまで設置していない」
セオ様まであきれ顔だ。
まあ、わたしもちょっとやりすぎかなと思ったけど……クリスがいるし。はじめての一人暮らし……と言っても、クリスもいるし、最近はコーデリアをはじめとする女性騎士の皆さんが一緒だけど、やっぱりいろいろ警戒しちゃうじゃない? 何かあってからじゃ遅いし。他にお金の使い道を思いつかなかったし。
アルバート様がわずかに眉を寄せて、どこか心配そうな顔でわたしを見た。
「もしかして君は以前誰かに襲われたことがあるのか? さすがに多すぎると思うのだが」
誰かに襲われたというか……まあ、ドール子爵家ではお父様やお兄様に見つからないところで、義母のベリンダや義妹のダフニーに暴力を振るわれたことはあるけどね。
だけどさすがにドール子爵家では防犯用の魔道具なんて所持できなかったから、あの時は持っていなかったわ。
とはいえ、今ここでそれを言うのは告げ口っぽいし、もう関係のなくなった相手のことを今更行ったところで仕方がない。
わたしが曖昧に笑うと、アルバート様が痛そうな顔をした。
「言わなくていい。きっと大変なことがあったのだろう。俺たちがここで暮らすのは無理だが、我が団の女性騎士はいるし、俺たちもこれからは頻繁に足を運ぶことになる。何かあれば言ってくれ」
黙っていたせいで、なんか過去にすんごいことがあったと思割れたっぽいけどどうしよう。
でもいまさら、実家でいじめられていました、なんて言えないし。
「あ、ありがとうございます」
仕方がないのでわたしはへらっと笑ってお礼を言う。
するとアルバート様がぱっと目を逸らした。
さっきもだけど、どうしてわたしから目を逸らすのかしら。朝ごはんのオムレツにかかっていたケチャップとかがほっぺたについているのかしら?
気になってしまって、指先で頬をなぞるも、鏡がないとわからない。
「まあ、ともかくだ! 自己紹介も終わったし、研究所へ向かおう。まずは設計図を見てもらいたいからな」
いえ。魔道具の設計図を見せられても、わたしにはわからないんですけど。
とは言える雰囲気ではなく、クリスを抱っこしたローレンス殿下の後を、わたしは黙ってついて行くよりほかはなかった。
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