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製石師アシュリーの逆転人生~婚約破棄されたら、未来の王様拾いました~  作者: 狭山ひびき


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人生は奇想天外! 4

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「ちょ、ちょっとアシュリー!」


 わたしは、リネットの悲鳴のような声で目を覚ました。

 時計を見ると、一時間くらい寝ていたのかしら。

 クリスは目を覚ましていて、ベビーベッドの中で手をぐーぱーぐーぱーしながらご機嫌な様子である。

 わたしはクリスを抱き上げると、声がした階下へ降りた。


「リネット、早かった……ええぇ?」


 階段を降りながらリネットに声を掛けようとして、わたしは思わず足を止めた。

 玄関ホールには途方に暮れた顔のリゼットと、それから数名の騎士服を着た女性の姿があったからだ。


 ……あー、そう言えば、ローレンス殿下が護衛がどうとか言っていたような……。


 早速送って来たのだろう。だがこれはどうしたものか。ものすごく目立つのだけど。

 ローレンス殿下はクリスを隠したいからわたしに預けると言っていたはずだ。これは、ない。


「アシュリー! これは一体どうしたことなの⁉」


 リネットが階段を駆けあがって来る。

 その背後から、まるでリネットの行動を見張るように一人の女性騎士が上がって来た。


 ……どうしたことかと言われても。


 リネットにどこまで説明していいのかわからない。

 わたしの方も途方に暮れていると、リネットを追って階段を上がって来た女性騎士が、ほれぼれするようなきりっとした顔で、けれども優しそうに微笑んだ。


「驚かせてすみません。わたしは第二騎士団所属のコーデリアと申します」

「ひっ! 騎士ッ!」


 リネットが目を見張った。

 騎士とは国から騎士爵という爵位を与えられたもののみが名乗れる職業である。

 騎士爵を与えられる前は準騎士や、訓練生であれば従騎士を名乗るが、彼等にしても、ほとんどが貴族の出身者だ。平民でも騎士になれないわけではないが狭き門で、騎士に叙勲されれば一代限りとはいえ貴族の仲間入りができるので、平民の子供たちの中では、常になりたい職業ランキングの五位以内に入っているとか。


 そんな憧れの職業である騎士だが、騎士とは国家に所属する公人で、王族や大臣をはじめとする重鎮の護衛や、王都や国道、あとは国境付近に作られることが多い駐屯地での警護や治安維持などが仕事だ。

 今のように、個人宅に団体で押しかけることなど、相手を捕縛するなり家宅捜査するなりする以外にはあまり聞かない。リネットが怯えるわけである。


「アシュリー! あなた、な、ななな、何をしたの⁉」

「リネット、落ち着いて。ええっと、何もしていませんよ」


 何かしたのかと言われたらクリスを拾ったと答えたいところだが、クリスについてどこまで話していいのかわからないので何も言えない。

 すると、事前に言い訳が考えられていたようで、コーデリアが微笑んだまま言った。


「ローレンス王太子殿下より、我が国にとって重要人物であるランク五の製石師スキルをお持ちのアシュリー様の護衛につくように命じられております。以後、第二騎士団所属の女性騎士がアシュリー様のおそばに控えることとなりますので、よろしくお願いいたします」


 なるほどー。そう言う言い訳にしたのか。

 最高品質の魔石の国内供給の上昇を目指しているらしいので、多少強引でもものすごく違和感を抱くほどでもない理由だった。

 いくら重要なスキル持ちでも、騎士が派遣されてくるなんて特例中の特例だろうが、幸か不幸か、わたしは元子爵令嬢という肩書がある。これを使えば、強引に納得させられなくもないだろう。

 リネットはわたしとコーデリア、そして玄関ホールにいる残り四名の女性騎士を何度も交互に見やりながら、心を落ち着けるように胸元に手を置き、すーはーすーはーと深呼吸を繰り返した。


「た、確かに、アシュリーは我が魔石ギルドの期待のホープで、そして国にとっても重要人物と言えなくもないけれど……」

「魔石ギルドのギルド長にはこれから部下が説明に向かいますが、元々、最高品質の魔石を作ることができるアシュリー様の存在が知られれば、彼女をどうにかして手に入れようとする輩が増えることでしょう。交際や結婚を申し込まれるのならばまだいい方です。力づくで手に入れようとする輩が現れないとも限りません。違いますか?」

「ち、違いませんが……」


 リネットは目を泳がせている。

 そうよね。この邸は、わたしががちがちに防御を固めているのよ。

 さすがに来客をはじき返すような凶悪なものは設置していないけれど、わたしが敵と認識した人間は弾き飛ばされるようになっているの。


 だから、わたしに何か暴力の一つでも振るおうとすれば、その瞬間に敷地の外に弾き飛ばされるって寸法よ。

 それでも強引に入ってこようとしたら、今度は暴漢用の攻撃魔道具が作動するわ。

 キャスリンもリネットもドン引きするくらい物騒な魔道具をたくさん仕入れて設置しているの。

 キャスリンなんて「そういうのを過剰防衛って言うんだよ」なんて言っていたくらいね。

 そんな状況だから、リネットも「護衛なんているのかしら……」なんて思っているに違いない。


 外出する時も、伯母様が術式を刻印してくれた結界の魔石と攻撃用の魔石を持ち歩いているからね。キャスリンがギルドで「この歩く危険人物には不用意に近づくんじゃないよ。死にたくなけりゃね」なんて失礼な注意喚起までしていたのよね。

 最高品質の魔石が自分で作れること、それからそれを売ったお金が使いきれないほどあることから、わたしは自分と家とクリスの防衛に全力投球しているのよ。

 あとは、キャスリンが情報規制をしてくれているから、こんなところに住んでいるにも関わらず、わたしがランク五の製石師スキル持ちだと言うことはあまり知られていない。


 だから、縁談も来ないわ。……いえ、一度か二度来たみたいだけど、わたしの手元に来る前にキャスリンとリネットが審査して破り捨てたらしいわ。

 リネットと同じくわたしもちょっと目を泳がせていると、コーデリアがにこにこと続ける。


「我が国では昔から魔道具開発が盛んです。ですが、近年においては、最高品質の魔石の入手が困難なことから研究所が相次いで縮小傾向にあります。生活魔道具はともかく、公的機関で研究しているものにはすべて最高品質の魔石が必要なのです。研究者たちがアシュリー様の存在を知れば、何が何でも研究所に確保しようと考えると思いませんか? ……ここのところ研究所への予算も縮小傾向なので、国外から最高品質の魔石を仕入れるのは困難な様子ですし」


 つまりわたし、研究所で馬車馬のごとく魔石製造させられるってこと? え、嫌だけど。

 それこそ、攻撃魔道具が炸裂するくらい嫌だけど。

 ああでも、公的機関をぶっ壊したら、罪人になるのかしら、わたし。

 研究所の存在を出すと、リネットは納得したように頷いた。どうやら、魔石ギルドにも研究所の職員が押しかけて魔石を融通しろと言ってきているらしい。


「確かに、彼等の相手は骨が折れますからね。納得しました。ですが……さすがにその格好では目立ちますよ?」

「心得ております。本日は挨拶のために騎士服で参りましたが、すぐにこのあたりで多く見かけるタイプの服を購入してまいります。……つきましてはアシュリー様には、我々が滞在できる部屋を準備していただきたいのですが」

「部屋ならたくさんあるんです。ええっと、わたしが一部屋使っているので、残りは三部屋ですけど。あ、一階のサロンを入れたら四部屋あります」

「二、三人で一部屋使わせていただくので、そうですね、それでは二階の二部屋をお借りします」


 どうせ誰も使っていなかったのだから利用してもらって構わないのだが……部屋が欲しいと言うことはここに住み込みで護衛にあたるってことよね。

 まあ、未来の王様がここにいるんだからそのくらい当たり前かもしれないけど、騎士って大変ね。

 コーデリアは第二騎士団所属の第三隊――第三隊は女性騎士のみで構成されているらしい――の体調なのだそうだ。

 二十四歳だというが、二十四歳で一個隊の隊長と言うのもなかなかすごい。


「アシュリー、あなたの周りは気がつけばどんどん複雑になっていくから、わたし、目が回りそうよ」


 リネットがため息を吐きつつ言うけれど、それを言うなら、わたしも目が回りそうよ。





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