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製石師アシュリーの逆転人生~婚約破棄されたら、未来の王様拾いました~  作者: 狭山ひびき


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家族ができました 2

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「あんたはまた面倒ごとを抱えたもんだねえ」


 ギルドの扉にクローズの札がかけられる直前に駆け込んだわたしに、キャスリンがあきれ顔をむけた。

 ギルドに駆け込んだあたりでまたぐずりはじめたクリスは、現在リネットに任せてある。リネットは二児の母だそうで、赤ちゃんの扱いはお手のものだとか。


 おしめが湿っていると気づいたリネットはすぐに知り合いのところに行っておしめを数枚もらって来ると、手際よくクリスのおしめを変えて、現在子守唄を歌いながらギルドの中をゆっくりと歩き回っている。さっきまで泣いていたクリスは一転してご機嫌になって、きゃっきゃと笑っていた。


「見たところ、一歳……少し前ってところかねえ。あんな幼子を拾ってきてあんたに育てられるのかい? とはいえ、捨て子だった場合は届け出を出しても無駄だろうねえ。孤児院って手もあるが……上等な服を着ているし訳ありだろうよ。そんな子を孤児院に連れて行ってトラブルになると、あんたが責任を取らされるかもねえ」

「すみません……。でも、あのまま放置していたら……」

「ま、死んでいただろうね」

「ですよね」


 捨て子だから届け出を出しても無駄で、孤児院に預けても問題になる可能性があるのなら、あとはわたしが育てるしかないだろう。

 拾ってしまったのだから、責任を持つしかない。

 だけど、子育て経験のないわたし一人で子供の面倒を見るのは不安すぎる。


「ハァ、仕方がない子だね。まあ明日には裏の家に移るんだ。ずっとってわけにもいかないが、あたしたちも手を貸すよ。あんたはうちのギルドの期待の新人だからね」

「あの、わたしはギルドに登録しましたけどギルドの職員になった覚えはないんですが」

「裏に住むんだから職員みたいなもんだろう」


 えー……。

 わたしは裏の家を借りることに決めたのは早まったかと思ったけれど、クリスがいる以上よそに移る自身もない。子育てにキャスリンやリネットの力を借りたい以上、諦めるしかないようだ。


「裏の家はあらかたもう片づけはすんだからね。明日と思ったがもう今から引っ越してしまいな。この子が夜泣きでもしたら、宿から苦情が来るだろうからね。どうせ荷物もたいしてないんだろう」


 確かにキャスリンの言う通りだ。

 リネットがクリスをあやしてくれるというので、わたしは急いで宿に向かうと荷物を持ってギルドに戻った。宿の女将には、少し早いがチェックアウトすると伝える。すでに三日分の料金は払っているし、返金を求めないのならば早いく退去する分には問題ないらしい。


 キャスリンとリネット、そしてリネットが抱っこしているクリスと共に裏手の家に向かうと、そこは一人が使うには大きすぎる家だった。

 大きなダイニングとキッチン、あと一階に応接間。

 二階に上がれば広い部屋が四部屋もある。


「キャスリン、ちょっと大きすぎやしませんか?」

「もともとは家族に貸し出すようだからね。ああ、今は誰にも貸し出す予定がないからね、気にしなくていいよ」


 この家は、わたしのような上位ランクの製石師スキル持ちをギルドで抱えておくために準備している賃貸住宅の一つらしい。

 特に豪華な家なので、高ランクの者にしか貸し出さないというギルドの方針のため、わたしが断っても入る予定の人間は今のところ誰もいないという。


「部屋は好きなように使いな。あと、そうだねえ……リネット、今日はここに泊まり込み可能かい? さすがに赤ん坊とこの子を二人きりで放置できないからね、泊ってくれると助かるんだがね」

「旦那に連絡を入れたら大丈夫ですよ」

「じゃあ、ほかの職員にリネットの家に連絡を入れるように言っておくよ」

「ありがとうございます、キャスリン、リネット」


 子育てのノウハウがまったくわからない中、クリスと二人きりで一夜を明かすのはあまりにも危なかった。リネットが側にいてくれるのなら安心だ。


「しばらくはあたしやリネットの手が空いていたら一緒に見てあげるよ。だけどね。あんたが引き取るのなら、早く子供の世話に慣れるんだね。他人に慣れているのか、知らない人間が近づいても泣きだすような子じゃないが……親が側にいないんだ。落ち着いているように見えても、しばらくはきっと精神的に不安定になるよ」


 今はリネットに抱っこされてご機嫌だが、言われてみたら確かにそうだ。

 わたしにはクリスの親がどうして彼を捨てたのかはわからない。

 親元でクリスがどんな生活を送っていたのかもわからない。

 だけど、いきなり知らない人ばかりに囲まれたクリスは、きっと不安に思うだろう。一歳ほどの子供だって、自分の気持ちを言葉に表せないだけで、何も感じないわけではない。

 むしろ言葉で相手に伝える手段がないからこそ、余計に不安にもなるだろう。

 一歳くらいの子供だから何もわからない、なんてことはないはずだ。


 ……可哀想だから拾ったけどあとは知らないなんて無責任なことはできないわ。


 わたしはクリスを拾った。

 これからは、わたしがクリスの親代わりとなって育てるのだ。

 彼の生活と人生に責任を持たなくては。

 突然のことで戸惑うけれど、これはわたしが選択したことである。

 わたしにも覚悟が必要なのだ。


 ――クリスと、家族になる覚悟が。




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