間話 さいしょのともだち
今日はちょっとフライングで投稿
前日譚的なやつです
この島は、かつては何の変哲もないただの無人島だった。
あの日までは。
ある日一輪の花が朽ちると共に、マナを発生させた。マナはあっという間に増殖し広がり、島中のあらゆる物に宿った。
朽ちた花はやがて意志を持って生まれ変わり、願いを持ち始めた。その願いとは何とも可愛らしいもので、「友達が欲しい。」ただそれだけだった。
その願いにマナは応え、最初の魔法として花に力を与えた。
魔法の効果は「引力」。
近くの海を通る物を島へと引き寄せる魔法。
花は喜び、三日三晩魔法を発動し続け、ついに願いは身を結ぶ。偶然通りかかったある小さな船が島に流れ着いたのだ。船には6人の人間達が乗っており、いずれも負傷はなかったという。
流れ着いた6人は不思議な声に導かれ、花と邂逅する。花は大いに喜び、6人を歓迎した。花はおしゃべりが好きで、6人に話しかけては昔話や、マナについて、そして魔法についてよく語った。6人は花を拒まず、関係はより深く、より親密なものへとなって行った。
ある日6人の内3人に魔法が覚醒する。
1人は自身の力をより強大にする身体強化魔法を。
1人はモノを自在に生み出す具現化魔法を。
1人は地形を動かし操る地形操作魔法を。
3人の魔法により島の開拓は一気に進み、現在の島にある建造物のほとんどが造られた。
他の3人は家事を担当する者、花の話を本に記録する者、花とずっと話している者に分かれていた。
家事と記録の2人は魔法を使えないが、朗らかで、全員に気を配り場を和ませ、他の面々の心の支えとなっていた。
花とずっと話している男は、少々変わり者ではあったが根は優しく、好奇心旺盛な者だった。
それから数ヶ月後、そろそろ元の場所に帰ろうという話になった。船の修理は魔法のおかげもありすぐに終わり、6人は花に別れを告げようとした。
しかし、6人は花と関係を深め過ぎた。
花は怒り狂い、せっかくできたともだちを逃したくないと願った。
やがて願いは呪いへと変わり、内から外へ出られない結界が島全体を覆った。結界の中では老化が止まり、結界を通すことで日光や月光からもマナが発生するようになった。
花は6人に
「ずっと一緒だね」
「ともだちだもん」
「にげちゃうなんて、ひどいよね?」
と恍惚とした声音で語りかける。彼らはそれでもまだ希望を捨てず、何度も船を出し島を脱出しようとした。しかし結界に弾かれ島の範囲外に出る事は叶わなかった。
「何度やっても無駄なのに、お馬鹿さん達ね。」
そう嘲るように笑う声は、今も頭から離れる事はない。
何日か脱出を試みたが、結果は全て失敗。その度に花の嗤い声が頭の中に響き、6人の精神を蝕んでいった。
やがて、魔法を持たない3人のうち、家事をしていた2人は精神を病んで廃人となり、その次の朝にはどこかへ消えてしまっていた。
魔法を扱うことの出来た3人は、花に立ち向かっていった。3人の命と引き換えだったが、なんとかダメージを与え、湖の底へ沈めて眠らせることに成功した。
3人は殺される直前に、それぞれの持ち物であったサバイバルナイフ、ハンマー、万年筆に意志と魔法を注ぎ、最後の1人に託していった。
それぞれの意志の結晶を受け取った最後の男は、やけに広くなった家の隅で、何の力もない自分を恨み、仲間たちを蘇らせ全て元通りに回復したいと信じていなかった神にすら縋り祈り願った。
その願いは届き、マナは応え、男は回復の魔法を得た。ただ皮肉なことに、死者を蘇らせる能力も、時を戻す能力も無かった。ただ傷を治すだけの力しか得られなかった男は絶望し、遺されたサバイバルナイフを手に取る。
目を瞑り覚悟を決めて、居場所を知らせるように早鐘を打っている心臓にめがけてナイフを突き刺した。
しかし、いつまで経っても、どれだけ力を込めても、ずぶりと心臓を貫く感覚はない。
男は違和感を覚え、そっと目を開ける。
なんと、ナイフは刺さることを拒み、男の肌に触れる直前でぴたりと止まっていた。力を入れても、それ以上ナイフが進むことはなかった。
諦めずにナイフで首を切ろうとしても、ハンマーで頭を砕こうとしても、万年筆で心臓を抉ろうとしても、そのどれもが男を傷つけることはなかった。
最後の1人に対し、3人が願ったことは、「逃げろ」でも「仇を取れ」でもなく、「生きろ」
それだけだった。
それ故に、魔導具達は男の死を許さず、独り現世に留まらせ続けた。
遺された願いは魔導具を通じて男に伝わり、ようやく自害を諦めた。
それから男は、遺された魔導具を使い地下に研究所を設けた。そして、紙袋を被って自分の顔すら忘れ、ひたすら研究へと没頭していった。
呪いと化した花を消し去るために。そして、ナイフの持ち主であった、男の唯一の家族だった最愛の娘を蘇らせるために。
ある日、島の様子を見るため研究所を出て島を歩いていると、砂浜に誰かが倒れているのを見つけた。
近寄ってよく見てみると、倒れていたのは人間ではなく、兎の耳を生やした獣人だった。
男はその獣人を安全な家まで運び、再び研究所へと帰って行った。
男は、これからまた流れ着いてくる者が増える可能性や、獣人が流れ着いてきた理由、そして、目的を果たすために流れ着いてくる者を利用できるのではないか、などと考えた。
花は深い眠りについて尚、私たちを引き寄せたあの力を働かせ続けているかもしれない。結界の外から中への移動はできるのか。結界が流れ着いてくる者になんらかの影響をもたらしている可能性がある。獣人はあまりにも未知数なので研究しなければ。
そんな思考が頭を駆けていく。
あくまで第一の目標はあの花の討滅と娘の蘇生だが、そんなことを研究しても良いだろう。そう思い、男は新たに研究を始めた。
それから島に流れ着く者は増えていき、その全てが獣人であった。
そして、どうやら新しく流れ着いた者は記憶も失っているらしい。そう気づいたのは、ある犬獣人の女が研究所を尋ねてきた時のことだった。




