なにがなんだか
祝40話!
「さぁ、座りたまえ。」
案内に従って、背もたれのない丸椅子に腰掛ける。正面に座るヤ・ベーと、その横にあるパソコン。まるで診察されてるみたいだ。
「それで、何が訊きたいのかね?」
「たくさんあるんですけど...まずはあなたについて。なんで顔を隠していたんですか?そもそもなんで人間なんですか?」
この質問は予想していた、と言うように、ふむ、と呟いて返し始める。
「顔を隠していたことに大した理由はないよ。ただ…過去の自分を忘れたかっただけだ。あとは、人間であることについてかね。」
少し悲しそうな顔をしたヤ・ベーは目を閉じて、大きく息を吸って再び話し始める。
「私は、島がこうなる前からここに居た。というより、流れ着いてそのままここに住んでいた、の方が正しいかね。この島は元々、異世界なんかではなかったのだよ。」
「え……?」
どういうこと?後から異世界になったってこと?そんなことあり得るのか?
「まぁ聞きたまえ。ここが獣人の島になったのは私が流れ着いてからしばらくのことだ。元々はただの無人島だったのだよ。何が言いたいかと言うとね、私は最初から今に至るまでずっと人間なのだよ。」
流れ着く…無人島…何か引っ掛かるような。
まさか、という言葉が頭の中を駆け抜けていった。もしそうなら、目の前にいるのは。
「もしかしてあの日記の…?」
その言葉を聞いた直後、思い当たるところがあったのかヤ・ベーは驚いて目を見開いた。けど、すぐにいつもの表情に戻って、参ったね、と笑い出した。
「まさか読まれてしまっていたとはね。いやはやまったく、忘れ物は放置するべきではないね。」
「なら、死んでるはずじゃ…?」
「それがね、死に損ねたのだよ。私を一緒に連れて行く気はなかったようだね。嗚呼、それを忘れるために顔を隠していたと言うのに。」
ヤ・ベーは、電池切れ寸前のおもちゃみたいに笑い続けている。まずい、トラウマを掘り返してしまったかもしれない…。
そんな僕の思いを察したのか、笑いながらも、色も厚さも薄い手で制して
「いやなに、構わないよ。過去とは切り離せないものだ。それを忘れてしまおうなんて言う方が愚かだったのだ。過去を背負って、前に進んで行かなければ。あの子に叱られてしまうしね…。」
とぼくをなだめた。
最後の方は、声が小さくて聞き取れなかったけど。
「すまない、脱線してしまったね。今言った通り、私は死に損ないだ。もしかしたら、それが君との共通点かもしれない。」
「ぼくが、死に損ない…?」
「そうだとも。意識を失いながらこの島まで流れ着いたのだ。普通なら死んでいるはず。なのにキミは死なずに辿り着いてしまった。だから獣人にならず、人の姿を保ったまま居られる、というのが私の仮説だ。根拠も繋がりも何もないがね。」
「じゃあなんでぼくは死なずに流れ着いたの?」
「さぁ、そこまではよくわからないが、誰かが守ってくれたんじゃないかね?例えば…そうだね、そこにいる彼とか。」
そう言うと、ぼく…ではなく、ブローチが入ってるぼくのポケットを指差す。
「…?」
ブローチがぼくを助けた、とでも言うのか。
ポケットに手を入れ、ぼくの体温で少し温まったブローチをそっと取り出す。
ブローチを眺めていると、いきなり細い腕が伸びてきてひょいっとブローチを取られる。
ヤ・ベーはまじまじとブローチを観察しながら、ふむ、とかほうほう、とか呟いている。
「こんなにはっきりと意志が宿ったものは珍しいね。余程キミへの想いが強かったのではないかな?」
「なんなら話しかけてきますよ、それ。」
なんだと、とヤ・ベーが言いかけたところに、ブローチが突然震えだし、話を遮る。
『友達をそれ呼ばわりなんて酷いじゃないか!』
「なっ…!?」
彼の声はヤ・ベーにも聞こえたらしく、ぽかんと口が開いている。しかし、すぐにいつものテンションに切り替わった。
「喋る魔導具なんてものが存在していたとは…。実に興味深い!是非研究させてくれたまえ!」
『やめてよ、ボクは香くんのものなんだ。』
「カオル…?」
なんのことか分からず鸚鵡返しにそう呟いたぼくに、ブローチの彼は不思議そうに言う。
『花笠 香。それが君の名前じゃないか。なんでそんな初めて聞いたみたいな顔をするんだい?』
理解が追いつかない。




