おどかさないで
「うわ...」
ものすごく嫌なものを読んでしまった。なんかこう...背中がぞわぞわする。
というかこれってもしかしなくてもこの島のことだよね?書いてることがほんとならこの花は今も......
「カルミアくん?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?????」
不意に後ろから呼びかけられて、驚いて思わず叫んでしまう。心臓がすっごい勢いで跳ねている。
「...?そろそろ寝なさいよ?」
声の主...ペンタスさんは不思議そうに首を傾げてそう言い、部屋を出ていった。
顔が熱い。今、ぼくの顔は真っ赤になってるのが鏡を見なくてもよく分かる。穴があったら入りたい...。
ペンタスさんには早く寝ろと言われたけど、まだ【魔法について】を読めていない。
というか怖くてしばらく寝付けそうにない。もうちょっとだけ夜更かしして、読んじゃおう。
そう思い、さっきのボロボロの日記とは打って変わってきれいでしっかりした本を手に取る。
パラパラとめくって読んでみると、書いてあったのはほとんどオルレアさんたちに教えてもらったことばかり...うわ、よく見たらほんとにオルレアさんが書いてるのかこれ。
読み進めていると、『魔導具』という言葉が目に入り、そのページでぴたりと手が止まった。
簡単に言えば、魔導具とは魔法が込められた道具のことらしい。意志によって〜とか難しいことも色々書かれているけど、重要なのはそこじゃない。
ポケットから銀色のブローチを取り出す。
部屋の灯りを取り込み、ぼくの顔がぼやけながら写っている。
このブローチも、魔導具なのかな。意志を宿すとは書いてるけど、意思をもって話しかけてくる、なんて書いてはいないからちょっと怪しいところではある。だけど、猫耳と尻尾を生やす魔法、あれは多分このブローチに宿ったものだ。
特殊な魔導具なのかな。もしかしたら最高クラスのやつだったり...?
なんかこう、ロマンがあるって感じがするけど、ひとまずはこのブローチに宿っているであろう彼のことを思い出さなくちゃいけない。もう手が届きそうなとこまで来ているのに、あと少し届かない。
「ねぇ、どうなの?」
ブローチに向けて話しかけても、返ってきたのは沈黙だけだった。
もやもやした気持ちは何一つ晴れないまま、本を形付けて、ぬるい寝室のベッドへ潜った。
「...またか。」
ぱっと目が覚める。部屋は真っ暗で、3人の寝息が聞こえる。
また真夜中に目が覚めてしまった。もう一度寝ることはできそうにない。
となれば、やることは一つ。
寝ているオルレアさんたちを起こさないように、慎重にベッドから出る。
一人、それと真っ暗なのもあり、床板がギィギィ言う音がとてつもなく恐ろしく聞こえる。
それでも最悪魔法があるから大丈夫、と自分に言い聞かせながら進む。
音を立てないようにゆっくりドアを開け、家の外へ出る。この景色の綺麗さは何度見ても息を呑むほどだ。数秒だけ景色に見入ったあと、再び歩き出す。
薄く光る地面をすり抜け階段を下りると、すぐに扉が見えてきた。こんな夜中に大丈夫かな、と一瞬思ったけど、あの人ならまぁ大丈夫か、と結論づけてノックし、薄く埃のかかったドアノブに手をかけた。
相変わらず鍵なんてかかっていないドアは、ギィィと音を立てながら、拒むこと無く開いた。
中の様子はほとんど変わっていない。強いて言うなら、埃っぽさが無くなったことか。
中に入ると、素顔のままのDr.ヤ・ベーが、パソコンとにらめっこをしていた。
と言っても彼はものすごくニコニコしているんだけど。
ドアの音で気づいたのか、ヤ・ベーは視線をゆっくりパソコンからぼくへと移し、口を開く。
「やはり来たかカルミアクン。でも少し遅かったようだね?」
「来るのバレちゃってました?」
「分かるとも。伊達に長生きさせられてないのだよ。」
紙袋ではない、青白い肌は生気こそあまりないものの、明らかに20代くらいに見える。とても長生きには見えない。それに、「させられてる」って...?
「それで、訊きたいことがあるからまたここに来たのだろう?さぁ、遠慮せず何でも訊いてくれ。私は今気分が良いのだからね。」
ヒャヒャ、と楽しそうに笑う姿は、素顔が不露わになったことで表情もよく見えるようになり、気味さが倍増している。後ずさりしそうになる足をどうにか止めて、話し始める。
何から訊くべきか迷って、口の中で言葉が渋滞を起こしている。
思わずう〜〜〜〜〜と漏れてしまうのも意識から外して、一旦頭の中を整理しようか。
まずは、ヤ・ベー本人のことについてかな。
顔と正体を隠していた理由と人間である理由。そして、「長生き」のことについても訊こう。
ぼくのことはその次だ。
なんとなく整理をつけて、ヤ・ベーの顔を見ると、待ちくたびれたようにあくびしてから言う。
「決まったかい?」
「はい。」
長い夜になりそうだ。




