なんで
なんで、という言葉が頭の中をぐるぐる回り続けている。
あの人は..ヤ・ベーは人間だった。こんな言い方をするとまたリンドウに注意されてしまうだろうけど、それでも、彼は明らかに僕と同じ、人間だった。
なんで彼は獣人じゃないのか。なんで彼はそのことを紙袋で隠していたのか。なんでずっと地下に籠もっているのか。
…まさか、あの人も僕と同じなのか?
それは、ぼくが今考えても仕方のないことだ。それでも、あの人がぼくに関することの答え、とまではいかなくてもヒントか何かを持っている気がしてならない。
研究所に行って訊いてみようか。でも今行ったら追いかけてきたみたいで誤解されちゃいそうだ。
「はぁ...」
気づけば、もう日が沈み始めている。今日はもう帰ろう。明日なら普通に話せるかな。
考え事は頭にずっと残ったまま家に帰り、ごはんやお風呂を済ませて、自由時間。
いつの間にかオルレアさんとヤツリさんはどこかに行ってしまっていたし、ペンタスさんは洗い物をしている。
特にやることも無くて、パチパチと燃える暖炉の火を揺り椅子からぼーっと眺めていると、ふと、2階の本棚のことを思い出した。たまには本を読むのもいいかな。
揺り椅子から立ち上がって2階に上がり、部屋に入る。
ぼくの背よりかなり大きい本棚には、革張りの本がぎっしり、所狭しと並べられている。
どの本も背表紙には何も書いていないので、色々手にとってみないと内容はわからない。
どんな本があるのかな。やっぱり魔法についての本とかありそう。
レシピ本、日記、まっさらなノート、またレシピ本、日記…書いてることを見るにこれはアイリスさんのものだろうか。なんでこんなところに?お、【魔法について】だって。これは取っておこう。
他に目ぼしい本が無いか探していると、表紙に一輪の花が描かれた、一際古くて、ちょっとボロボロの本が目についた。
雰囲気があるのはそうだけど、それだけじゃない「何か」が、この本にあるようで、思わず手に取り、中を開いてしまう。
20◯▢年7月23日
急に船の制御が効かなくなり、何かに引き寄せられるかのように一定の方角に進み始めた。
しばらくすると無人島に漂着し、船は壊れてしまった。頭の中で誰かが呼ぶ声が聞こえる。
その声は他の者達にも聞こえているらしく、呼ぶ声に従って、声の主の元へ向かった。
20◯▢年7月24日
自分で書いていて信じられないが、声の主は花だった。私たちをこの島に引き寄せたのもこの花らしく、歓迎されてしばらくこの島で過ごす事になった。
それは、何の変哲もないただの日記…に見える。
実際、書いてあるのは日付と、その日あったこと。
「なんだ、ただの日記……あれ?」
普通の日記にしては書いてることが変だ。
無人島に漂着、とか花が話している、とか…。
その次の日付からしばらく、花が話した内容が書かれている。だけど、ある日付から様子がおかしくなった。筆跡はがたがた震えて、最後の方にはぽつりぽつりとシミがついている。
20◯▢年11月5日
この島の生活も悪くなかったが、そろそろ帰りたい、という話になり、船を修理した。
明日、彼女に別れを告げ出発しようと思う。
20◯▢年11月6日
まずいことになった。別れを告げた途端、彼女は豹変した。怒り狂い、何かをぶつぶつと呟き続けている。船もある一定の所から進まなくなった。
20◯▢年11月12日
何度出ようとしても、結果は変わらない。
花はそんな私たちを嘲笑った。
20◯▢年11月17日
2人が命を絶った。
20◯▢年11月18日
残りの3人が彼女に立ち向かったが殺されてしまった。これを書き終えたら私も一緒に行く。
日記はそこで終わっていた。




