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とある獣人の御茶会議


「あら、何かしら?」


ガウラがリンドウに連れて行かれてすぐのこと。

首輪を着けた、大柄な犬が手紙を咥えて走ってきた。この子はいつも屋台に居る子だ。いつの間に郵便屋なんてできるようになったのかしら。


大きなもふもふの郵便屋さんはどうぞ、と言うように咥えた手紙をずいっと私に差し出した。

手紙を受け取ると、今度は物欲しそうな目でくぅ〜んと鳴いてくる。


「仕方ない子ね…」


そう呟いて、こっそり作っていた秘蔵の干し肉をお駄賃として支払う。すると、ごろんとお腹を見せてきたので思いっきりわしゃわしゃ撫でてやると、ようやく満足してくれたのか、わふ!と鳴いてどこかへ行ってしまった。


手紙は涎で湿っていたけど、紙の質が良いのか破けていたりインクが滲んだりしておらず、どうやら普通に読めそうだ。赤いリボンを解き中の文を確認する。手紙なんて一体誰が…?

中には丁寧な字で


 話したいことがあります。


 北西の巨木に触れてください。

               」


とだけ書かれていた。送り主の名前くらい書いてほしいものだけど、まぁ字と文体でなんとなく想像はつく。北西の巨木も見当はつくけれど、何故「来い」ではなく「触れろ」なのか。わからない点が多いけれど、とりあえず行ってみよう。ガウラきゅんが帰るまでに終わるといいけど。


「こんな所に何があると言うの…?」


この島はあまり大きいとは言えない。公園を出て少し歩き、湖の桟橋を渡ればすぐに指定された木の下へすぐに辿り着ける。問題は触れること。

辺りを見渡してみても、特に何かあるわけでも、誰かが居るわけでもない。御神木クラスの巨木と言っても所詮はただの大きい木。触れたところで何かが起こるとも思えない。けど、他に出来ることもないのでとりあえず掌を幹に当ててみる。触った感じもただの木だし、やっぱり何も______


一瞬、ふっと足場が無くなり宙に浮く感覚。気づけば、全く見覚えのない場所に居た。


桜の木に囲まれた場所。地面には落ちた桜の花びらたちが隙間なくびっしりと敷き詰められている。次に目に入ったのは、1脚のテーブルと、それを囲うように配置された4脚の椅子。テーブルにはティーセットとケーキの乗った皿が3人分用意されていて、椅子には私を呼び出した本人たちが座っていた。


「やっぱり貴方達だったのね。オルレア、ヤツリ。」


「いきなり呼び出してすまなかったね、アイリスさん。さ、どうぞ座って。」


手で案内され、一番近くにあった椅子に腰掛ける。


「呼びかけに応えてくれてありがとう。」

「警戒して来てくれないかもと思ってけど、来てくれて嬉しいわ。」

「そうね、確かにあの郵便屋さんには驚いたわ。いつの間にあんな芸仕込んだの?」


「なに、頼んだらやってくれただけさ。賢いんだろうね。」

ヤツリはこくこくと頷いている。


ぬるくなった紅茶を飲み干し、ひとつ息を吐く。果物のような甘く、上品な香りが鼻を抜けていく。紅茶に明るいわけでもないけど、かなりいい茶葉なんだろうというのは分かる 


「さて、本題に入って頂戴。」


カチャ、とカップをソーサーに置く音が響く。オルレアはコホンと咳払いをしてから口を開く。ヤツリは口いっぱいにケーキを頬張り、ハムスターのようになっている。ヤツリの方は話すつもりは無いのだろうか。


「そうだね、単刀直入に言おう。僕達に協力してくれないか?」


「はぁ?」


あまりにも意味不明な勧誘に一瞬固まってしまう。概要も説明されずに首を縦に振るなんて余程の阿呆かお人好しかだろう。生憎私はそのどちらでもない。順序を追って説明してもらわなければ。

私の困惑を察したのだろうか、オルレアは先ず一つの問いを投げかけてきた。


「この島には謎が多いと思わないかい?」


それはそうだ。島の建造物たちはいつ、誰の手によって造られたのか。魔法や魔導具の存在。

そして…あの野郎の研究のこと。あぁ、あの紙袋を思い出しただけで腹が立ってきた。気を落ち着けるため、お茶のおかわりを注ぎ、一口。


「今きっと、色々思い当たるところがあっただろう。この空間だってそうだ。僕達が何かしたわけでもないのに、あの木は最初からこの空間への転移機能を備えていた。」


いつの間にかオルレアの分のケーキまで平らげていたヤツリが続く。


「それに、彼の研究のこともね?」


ヤツリは、意味深な目つきでニヤつきながらこちらを見る。まさか、何故私の過去を知っている…?誰にも話したことは無かったはず。

まだ持ったままだったカップの持ち手に、ピシリと小さく、しかし確かな罅が走る。


「…何を企んでいる?」

「ただこの島の謎を解き明かしたいだけさ。何も企んでなんていないよ。」

「そう…」


悔しいけど、謎を解き明かしたいのは私も同じだ。だからあの男に協力していたのだ。


「島の住民をバラせ、なんて言わないわよね?」


皮肉めいた口調で、肩を竦めながら言う。

オルレアは一瞬目を丸くしたが、すぐ理解したように笑い、まさか、と否定した。


「なら、何をすれば良いの?」

「乗り気になってくれたようだね。そうだな、暇な時でいい。何か意味ありげな資料や何かを見つけたら共有してくれ。そうだ、研究室にも案内しよう。」


そう言うと2人は立ち上がり、歩き出した。行き先の方を見ると、石の台座があった。2人がそれに触れるや否や姿が消えた。なるほど、あそこが出口か。


私も後を追って石の台座に触れる。元々何かの像が立っていたのか、なんて考えを巡らせる間もなく、巨木の下へと転移した。


2人は既に桟橋の方に居た。転移してきた私に手を振り、揃って口を開いた直後。


吹き飛ばされそうになるくらい凄まじい風と大きな揺れ、そしてバン、と何かが爆ぜるような音が鳴り響いた。


嫌な予感と、締め付けるような吐き気が襲う。

ごめん、と心の中でオルレア達に謝り、地面を蹴り飛ばし震源地目掛けて全力で加速。


辿り着いた場所で見たのは、真っ黒な装束に紙袋を被った男と見覚えのない青い女、そして_______










ボロボロになり地面に倒れている、最愛の男の子の姿だった。


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