水霊祭前日
「あそこでパーだしてりゃあなぁ」
翌日。
ヴェニスの街を歩きながら、アルフレドがぼやく。
結局じゃんけんはフェンが勝ち、ベッドで寝る権利を勝ち取った。
そのためでアルフレドはソファーで眠ることになった。
「……その、なんだか、すみません」
シャルロットが申し訳なさそうに謝る。
「いいよ、別に。女の子をソファーに寝かせたとあっては、男がすたるから」
アルフレドがそう返す。
「は、はあ。そういうものなんですね」
「ああ、そういうもんだ」
シャルロットは腑に落ちないようだったが、それ以上粘っても答えは得られないだろうと思い、それ以上尋ねることはしなかった。
「……にしても、色々アンだなァ」
フェンが辺りを見回しながら言う。
観光客向けの露店が並び、そこには様々な品物が並んでいる。
「確かにな。この辺は観光客向けの露店も多いから、色々あるみたいだぞ」
様々な海産物や色とりどりの硝子細工。
フェンは物珍しそうに辺りを見回し、露店の前を通っては、目を輝かせていた。森の中で育ったから、海の幸が珍しいのだろう。
シャルロットも露店で売り出されている硝子細工を熱心に見つめていた。
「どれか欲しいものでもあるのか?」
熱心に見つめるシャルロットにアルフレドが声を掛ける。
シャルロットは振り返り、アルフレドの方を見る。
「いや、あの、ただ、綺麗だな、と思いまして……」
歯切れ悪く、シャルロットが返す。
その間も、視線は時折硝子細工へと向けられている。
視線をたどると、その先には虹色の硝子玉と飾り紐があった。
ああ、これが欲しいのか。
値段を見やる。
そう高くはない。小遣いも渡してあるので、買えないことはないだろうに。
アルフレドは不思議に思いながら、シャルロットを見つめる。
「せ、折角一緒に旅をしているので、何かお揃いのものをつけたいな、と」
視線に耐え切れなかったシャルロットが言う。
「昔、本で読んだのです。仲の良い仲間はお揃いの物を持つ、と。なので、私達も是非、お揃いの物をと思いまして……駄目、ですか?」
最後に小首を傾げる。
う……。何となく、駄目とは言いづらいな。
困ったアルフレドがちらりとフェンを見やれば、フェンはイカ焼きを片手にこちらを見てニヤニヤと笑っている。
「……ま、まあ、いいんじゃないか?」
「本当ですか?! それでは、私、買ってきます!」
笑顔を浮かべながら、飾り紐を3人分購入し、それをそれぞれに手渡す。
アルフレドは受け取ったそれを道具入れに括り付ける。シャルロットは財布に、フェンはマントの襟どめに括り付ける。
「こういうの、なんか、良いですよね。仲間って感じがします」
そう言って、シャルロットが微笑む。
「……ああ、そうだな」
アルフレドもそれに同意するように微笑む。
仲間。何と無く、むず痒い響きだ。落ち着かないが、心地いい。
心地良いけど、落ち着かない。
照れ臭くなるような、そんな感じだ。
「ん? オイ、アレなんだ?」
そう言ってフェンが指差す。その先には杖を持った女性の像が立っていた。
何処か神々しさを纏う像に、3人は近づいていく。
「なになに?
『この像はヴェニスを代々守り続けている巫女の家系の初代【オーシニカ】の姿を後世に伝えるべく、建てられた物である。初代オーシニカは海を操るほどの魔導の才を持ち、あらゆる魔導具や魔術を創り出した稀代の天才魔導師であった』
だとさ。海を操るって、すごいな」
初代オーシニカ像の側にあった看板に書いてあったことを、アルフレドが読みあげる。
「へェ、そいつァすげェ」
「……はい、本当にすごいことですよ! だって、自然に干渉する魔術は、膨大な魔力と、自然の流れを掌握する程の複雑な術式の構成、そしてその2つを維持するための莫大な調整力が必要なんですよ! 現代では自然が操作できるほどの大魔力を持つ人は世界でも5人ほどしかいないと聞いています!」
目を輝かせながら、シャルロットがペラペラと語り始める。
「名前は知りませんでしたが、もしかすると、この街の巫女の方が自然干渉できるほどの魔導師かもしれませんね!
ああ、早く会いたいです。水霊祭が終わって、早くお話をお伺いしたいです」
半ばうっとりとしながら、シャルロットが話す。
それを横で聞いている2人は苦笑いを浮かべると、まだ話し続けるシャルロットの話を聞きながら、街の中を歩き始めた。




