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水霊祭 上編



水霊祭当日。

3人が宿屋から出ると、街の中は先日までよりも多くの人で賑わっていた。


「……人酔いしそうだなァ」


「だな。はぐれると困るから、手でも繋いどくか?」


「い、いいです!」


アルフレドが悪戯っぽく笑うと、シャルロットが顔を赤くしながら腕を振る。


「……もう。早く第1人工島に行きましょう!」


「おう」


3人で第3人工島から第1人工島へ移動する。

その途中にも出店が並んでおり、様々な食べ物を販売している。

イカ焼きにたこ焼き、クレープやチョコバナナなどなど。


普通の祭とそう大差ないよなぁ。

アルフレドは道行く人を眺めながら思う。祭の規模こそ大きいが、売っているものはそう大差ないように思える。

ただ、人が多いため、街のあちこちに衛兵や騎士が立っている。


「おォ、アレ旨そうだなァ」


フェンが屋台の一つに目をつける。

色鮮やかな砂糖水の入った瓶に涼しそうな氷の塊。

時折ガリガリと氷を削る音が聞こえてくる。


なんか意外だなぁ。

カキ氷屋を眺めながら、アルフレドは微笑む。


「カキ氷か。おーい、シャルロットー」


呼ばれたシャルロットが人波を掻き分けながら、アルフレド達の側まで歩いてくる。

時折、人波に飲まれそうになっていって、あたふたしており、2人の側につく頃にはどこか疲れたような雰囲気であった。


「ど、どうしたんですか?」


「せっかく祭に来てるんだからさ、カキ氷でもどうだ?」


「い、いいですね。私は、んー……いちごミルクがいいです」


「あいよ。フェンはどうする?」


「オレはこのブルーハワイってのにするかァ」


「そっか。分かった」


2人から注文を聞いたアルフレドがカキ氷屋の店主に3人分の注文をしようと声を掛けようとして。


「「すいません」」


声が重なった。

その声に横を見れば、同じようにこちらを見ている赤髪の青年が立っていた。

炎を連想させるような特徴的な髪色に緑の目の青年。そして何より目を引くのは腰に携えた、鉈を連想させる無骨な形状の深紅の剣。


……どこかで会ったような?

街に立ち寄ったばかりの時にも感じた既視感。

しかも視線はじっと自分に注がれている。しかも2つ。


……2つ?

見られている気がして、その方向を探せば、今度は金髪の少女が立っていた。

金髪の少女もその空色の目でアルフレドの事を見ていた。


「……すみませんが」


青年の方が口を開く。


「あなたはアルフレドさんですか?」


突然名を言われて、アルフレドは視線を鋭くする。


「……君達は何者だ?」


アルフレドの雰囲気の変化を感じ取ったのか、フェンとシャルロットもアルフレドの後ろに立ち、赤髪の青年と金髪の少女に警戒心を高める。

その反応に赤髪の青年が目を丸くする。

まるで、そんな反応は予想外だとでも言うような。


しかし、すぐに腰の剣に手を伸ばし、アルフレドを睨む。

その場に緊張が走り、5人を避けるように人だかりが出来ていく。

カキ氷屋の店主はそんな中でも構わず、注文を待っている。


「ま、待って下さい!」


突然、金髪の少女が声を張り上げる。


「私達は決して怪しい者ではありません!

私はノエル・ルミナ・エヴァンスです。彼はアルフェイト・フラム・エントレートです。アルフレドさん、お忘れですか?」


少女が名乗りを上げる。


……ノエルに、アルフェイト?

その後にルミナとフラムとも言っていた。

まさか……。


「アルトに、ノエル……なのか?」


アルフレドは半信半疑になりながら、名前を尋ねる。

最後に会った時にはまだまだ子どもだと思っていたのに。


「はい、そうです。アルフレドさん」


ノエルがふわりと微笑む。

その微笑みにアルフレドは剣に掛けていた手を離し、警戒心を解く。

それを見てアルフェイトも深紅の剣から手を離す。

事態を飲み込めていないフェンとシャルロットも警戒心を解く。


それを見て、集まっていた人達もまた歩き始める。

そこでアルフレドはお詫びの意味を込めて、アルフェイトとノエルの分のカキ氷も購入する。アルフェイトはイチゴを、ノエルはレモンを頼み、それぞれがカキ氷を食べながら、話をすることになった。


「アルト、すまなかったな。忘れていたとは言え、殺気をぶつけてしまって」


「少し驚きましたが、大丈夫です」


「そうか。それにしても、随分と鍛えているみたいだな。見違えたよ」


「あなたにそう言ってもらえるなんて、光栄です」


「いやいや、そんな事はないって」


アルフレドの記憶にあるアルフェイトは小さく可愛らしい姿だったのだが。

今目の前にいる青年は自分とそう変わらない目線の位置に、細身とは言え、しっかりとした筋肉もついているようだった。


「そう言えば、アルトとノエルは幾つになったんだ?」


「俺は今年で18になりました」


「私は17です」


「……10年も会わないと違うもんだな」


「10年ぶりですか。そんなに前なら分からないのも仕方ないですよね」


ノエルが感慨深そうに、しみじみと呟く。


「あ、あのー」


3人で話をしていると、シャルロットが遠慮がちに会話に入ってくる。


「3人は顔馴染みなのですか?」


「ああ、親同士が知り合いでな。昔はよく会っていた。

……そう言えば、紹介してなかったな。アルト、ノエル。この2人は俺と旅をしているシャルロットとフェンだ」


「あ、よろしくお願いします」


「……よろしくなァ」


アルフレドが言うのに合わせて、シャルロットは頭を下げ、フェンは食べるのを止めて片手を上げる。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


「よろしくお願いします」


ノエルとアルフェイトが微笑みながら、頭を下げる。


「そう言えば、アルフレドさんはセレンさんにはもう会いましたか?」


「……セレン? ああ、セレン・オーシニカか。いや、会ってないな」


そう答えたアルフレドをシャルロットがすごい顔をして見上げる。

何か言いたげな顔であったが、アルフレドは取り敢えず無視した。

アルフェイトはそれを聞いて、目を丸くしていた。


「おかしいな。昨日セレンさんと会った時にはアルフレドさんと会ったと言っていたんですが……」


「うーん、会ったか?」


アルフレドは街に着いてからの記憶を探ってみる。


そう言えば、街に着いたばかりの時に変な女がいたな。

こっちをじっと見つめてきた綺麗な女性。青い長髪に海のような深い青の目。

記憶の中のセレンも青い髪に青い目だった。

まさかとは思うが……。


「思い出しました?」


「……ああ。変わりすぎてて、気付かなかった」


落ち込んだように、アルフレドが答える。

アルフェイトもノエルもこれには苦笑いを浮かべる。

そこで、シャルロットが何かを思い出したかのように「あ!」と声を上げる。


「急がないと『水舞』が始まってしまいます!」


「ああ、そうだな。お前達も来るか?」


「はい!」


「是非、ご一緒させて下さい」


アルフレドの提案に2人が頷く。

シャルロットは笑みを浮かべて喜び、フェンは微妙そうな顔をしていた。


「どうしたんだ?」


「……いや、なんでもねェ。行こうぜェ」


先行く3人の後を追いかけて、フェンが歩き出す。


「……?」


いまいち、フェンの機嫌が悪い理由が分からないアルフレドも逸れてはならないと、4人の後を追って歩き始めた。




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