手掛かり
「「一泊銀貨20枚!?」」
宿屋に着いた3人は宿代のあまりの高さに目を見張る。
グラスの宿代が1週間で銀貨10枚だった。その2倍の金額を一泊で使うというのだ。
ヴェニスの方が街であるし、宿屋の設備も冒険者向けとは思えないほどいいが、これはいくらなんでも酷すぎる。
「少しぼったくりすぎじゃないですか?」
あまりの値段の高さにアルフレドが苦言を呈する。
しかし、その言葉に宿屋の店主は苦笑を顔に浮かべる。
「今の時期はこれくらいでも商売になるんですよ」
「? どういう意味ですか?」
宿屋の店主の言葉にシャルロットが首を傾げる。
店主の言葉から察するに、割高になっていたとしても泊まる人間が多くいるということなのだが、どういうことだろうか。
「いえね、2日後にヴェニスで『水霊祭』と呼ばれる祭りが開催されるんですよ」
「『水霊祭』、ですか」
「ええ。1年に1回、この時期になると、この街を守護している精霊に感謝をする祭りをやるんですがね……」
「精霊!?」
店主の言葉にシャルロットが反応する。
「え、ええ。皆さんは精霊の研究をなさっているのですか?」
「まあ、そんなところです。もう少し詳しくお聞きしてもよろしいですか?」
店主の問いに、アルフレドが答える。
何もないと思っていた手掛かりが降って湧いたのだ。逃すわけにはいかない。
店主の話によると、この街は水の精霊を祀っており、年に一度その精霊に海の幸や舞を奉納する神事が行われるらしく、それが『水霊祭』と呼ばれるらしい。
精霊について詳しいことは分からないが、この街ではある種神のように扱われ、街の人々からの信仰も厚いようだ。
更に詳しいことを聞きたければ、第1人工島にある『水霊教会』に行くと良いらしい。なんでも、そこにいる巫女が代々精霊を祀ってきた一族の現当主であり、今回舞を奉納する者でもあるらしい。
「まあ、この季節になると、巫女様も忙しくなるからね。会いに行くなら、『水霊祭』が終わってからだろうね」
「そうなんですね。教えていただき、ありがとうございます」
シャルロットが店主の男性に頭を下げる。
「それで? 部屋はどうします?」
「1週間でお願いします」
店主の問いにアルフレドが答える。
金銭的に高いなと思ったのは事実だが、どこも似たようなものだと言うなら、ある程度は妥協せねばならない。
これで別の観光客に部屋を取られてしまうようなことがあれば、野宿コース一直線である。それだけはなんとしても避けたい。
グラスで稼いだ分があるので、懐事情的にはまだ余裕があった。
「承りました。一部屋でよろしいですね?」
「はい」
「こちらが部屋の鍵になります」
そう言って手渡された鍵には304と書かれている。
アルフレドは鍵をポケットに入れると、304号室に向けて歩き始める。
「お、あった、あった」
304号室の鍵を開け、部屋の中に入る。
部屋にはシングルサイズのベッドが2つとローテーブルにソファーがあるだけの、随分と簡素な部屋だった。
ただ、窓から海が見え、眼下には『ラピス海』が広がっている。
また、シャワーが部屋に備え付けられており、蛇口を捻れば水が出てきた。
「……なるほど。これが値段のわけか」
大体宿屋ではトイレと風呂は共用であるが、この宿屋ではそれぞれの部屋についているらしい。
トイレも水洗式らしく、流石は水の都と言うだけはある。
「アルさん! オーシャンビューですよ!」
「確かに、これはすごいな」
「……でェ? これはどうすンだァ?」
フェンがベッドを指差しながら尋ねる。
「……あー」
ベッドは2つしかない。
1つはシャルロットが使うとして、後の一つはじゃんけんか。
「……交代で使うか?」
その前に提案してみる。
すると、鼻で笑われた。
……上等だ。
フェンが拳を構える。
アルフレドも拳を構える。
シャルロットが唾を飲む。
もう、後にはひけない……ッ!
「「じゃんけん、ほい!」」




