↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/22

第5話 初めての武器

 訓練場を出た俺たちは、1度受付に寄った。講習が終わったのでそれを報告するのと、ギルド証を受け取るためだ。

 受付に行くとベニーさんがギルド証を準備して待っていた。案外簡単に作れるものなんだな。


「お疲れさまです。どうでしたか?スキルや魔法は使えましたか?」


 俺たちに気がついたベニーさんが笑顔で迎えてくれた。さっきまで酒臭いムキムキのおっさんといたからこの笑顔は素晴らしい清涼剤だ。癒される。

 それはハジメも同じだったようだ。いや、むしろハジメの方がその思いが強かったのかもしれない。誰よりも早くベニーさんの所へ行って話し始める。


「魔法、使えました!感激です!まさか自分が魔法を使う日が来るとは……。早く仕事を受けて試してみたいですね」

「ふふっ。あまり焦らないでくださいね。やる気を出しすぎて大怪我する人もいますから」


 ベニーさんは笑顔でハジメをいなす。この手の新人はたまにいるのだろうか。手慣れた感じだ。


「それでは皆さん、ギルド証をお渡ししますね」


 カウンターの中から木製の小さな札を取り出した。そこには冒険者ランクと名前が書かれている。


「このギルド証はなくさないように首から提げていてください。今は木札ですがDランクに昇進すると金属製になります。そうなると身分証としても使えます。それがあれば他の街に行くときの入市税も減額されますよ」


 簡単な説明を受けて木札を受け取る。名字も書かれていない素っ気ない木札。だが、それはたしかにこの世界に自分が存在していることを現すものであり、否が応でも別の世界に来たということを認識せざるを得ない物だった。

 俺とアヤメは黙って受け取り、手の中の木札をじっと見つめた。


「これで登録は完了です。今から仕事を受けていただいてもかまいません。頑張ってくださいね」


 笑顔で送り出された。なんだか最後の方は事務的だったような気もするけど、こういうものなんだろうか。

 俺たちは一旦ギルド内のテーブルに移って今日これからのことについて相談することにした。事前に話し合った“今日やること”の再確認なのだが、多少見直す必要が出てきた。

 ハジメが切り出す。


「無事、街に入って冒険者登録までできた。服を売って金銭も得た。後は今日の宿を探すだけなんだけど、1つやることができた。仕事道具の調達だ」


 仕事道具。つまりは鞄や武器防具のことだ。Fランクの仕事内容には薬草採取やゴブリン討伐が含まれているので、それらを揃えたいようだ。

 ただ、いきなりそのような危険な仕事を受ける必要は無いように思える。そもそも生活をするだけなら必要無い。


「ハジメさん。鞄とかは必要だと思うけど、別に武器防具はいらないんじゃないかな?」

「そんなことはないさ。ここから見える依頼内容には市街清掃や建設作業の手伝いというのがあるけど、報酬が少ない。入市税を払いつつ、宿にも泊まるとなるとかなり生活が苦しくなると思う。それに対して街の外で行う薬草採取は割高だ。ゴブリン討伐は更に高額だ」

「そうだけどさぁ。俺ら、生き物を殺したことが無いんだぜ?いきなり討伐だと言われても無理だろ」

「俺はある。狩猟をやっていたからな」

「え?ハジメさんってマタギだったの?」


 意外だ。もっと知的な感じかと思っていた。


「そんなわけないだろ。マタギだったらスーツなんか着てないっての。趣味だよ。鹿とか鳥とか撃ってた。熊も仕留めたことがある」

「マジかよ。猟友会ってやつか。それならたしかに討伐に抵抗は無さそうだな」


 こいつは異世界転生ものファンタジーファンの痛い奴という印象だったけど、改める必要があるな。


「そういうこと。それにランクが上がるにつれ討伐系の依頼が増えるみたいだ。だから早いうちにその手の仕事はクリアしないといけない」

「なるほど」

「あと、武器防具に関してはお金のあるときに買った方がいい。後で買おうと思ったらお金がありませんでしたではたまらないからね」


 言っていることは理解できる。凄くまともな意見だ。ただ、討伐となるともっとも負担が大きくなるのはアヤメだ。剣士であるアヤメは前面に出て戦う必要がある以上は、本人の意思の確認が重要だ。


「アヤメはどう思う?」

「私は……正直に言うと嫌だよ。生き物を殺すために剣道をやっていたわけじゃないから。でも、いずれは通る道なら早いにこしたことはないと思う。だから、ハジメさんの意見に賛成する」

「いいのか?」

「うん。大丈夫」


 俺の目を見てアヤメが微笑む。この顔は不安を隠すときに使う笑顔だ。それが分かるだけに心苦しくもある。


「アヤメさんの了承ももらえたし、早いうちに討伐に行こう。とりあえず明日は薬草採取かな。討伐もいいけど、まずは慣れないとね。とはいえ、護身の道具は必要だから、このあと買いに行くってことでいいかな?」


 ハジメはそう提案して俺らを交互に見る。アヤメも納得しているのであれば俺もこれ以上何かを言うことはない。


「よし。それなら早速行こうか。あ、その前にベニーさんにお店と宿の場所を訊いてくるね」


 場所を訊くだけなら誰でもいいと思うのだが、なぜかベニーさんの所へ行った。1度話したから話しやすいということだろうか。それとも他の理由が?いやいや、さすがにそれは気持ち悪すぎるだろ。話しやすさからだな。

 店の場所を聞いたハジメが戻ってきた。武器防具の店はこの近くにあるらしい。宿屋に行く前にベニーさんお薦めの店に行くことにした。

 ギルドを出て少し歩くと武器防具の店が並んでいる区画に出た。さすがに道行く人は皆武装している。剣、槍、大剣、槌等の武器を持ち、革鎧、金属鎧、盾、といったもので身を固めている。

 その物々しさに目を奪われつつ通りを進み、目的の店に着いた。開け放たれたドアから中に入る。

 店内は革と木と油の匂いが漂っている。壁には剣や槍がかけられ、机の上に防具類が置かれており、いかにもという雰囲気だ。

 店の奥にはカウンターがあるが誰もいない。たまたま席を外しているのだろうか。

 ちょうどいいので気兼ねなく武器を見ていく。当然だがここにあるのは全て真剣だ。刃は光を反射して輝いている。

 俺はその中で長めの剣を手に持って構えてみるが、重さで剣先が下を向いてしまった。本物の剣とはここまで重いものだとは思わなかった。ジョブ云々関係なく向いていないようだ。

 そこで、ショートソードを手に取ってみる。やはり違和感はありつつも他の剣よりもしっくりくる。値段を見ながら剣を選ぶ。


「う~ん。やっぱこれかなぁ」


 手頃なショートソードを手に悩んでいると、アヤメが寄ってきた。


「シンはさっきもそういうのだったね。短い剣が好きだったんだっけ?」

「いや、俺はゲームでは専ら大剣だった。だからそっちの方が好きなんだけど、実際に持ってみると違和感はあるけど短い方がしっくりくるんだよ。これもジョブの影響なのかなぁ?」

「どうだろう?大剣なんて普段から運動してないシンが使えるわけないし、今の方が自然なんじゃない?」

「そんなもんか。そういえば、アヤメは決まったのか?」

「うん。とりあえずこれかな」


 アヤメの手には両刃の長剣が握られていた。騎士剣というものだろうか。ステレオタイプな西洋剣だ。


「やけにオーソドックスなものにしたな」

「そうなのかな?長さと重心を考えて1番振りやすそうな物を選んだんだけど。ただ、やっぱり変な感じがするんだよね。気持ち悪いというか“これじゃない”感じがするんだ」

「そういえばさっきも木剣を選んでるときにそんな顔してたな」

「分かっちゃった?あの時も変な感じがしてたんだ。いつもの木刀と違うからかなぁとか思ってたけど、そういうわけじゃなさそうなんだ。上手く言えないけど」

「なるほどな。それこそジョブの影響とか?」

「さぁ?でも、剣士が剣に違和感があるって変じゃない?」

「まぁたしかに。でもまぁ、初めて持つ物だから違和感が出るのは仕方ないんじゃないか?慣れていくしかないだろ」

「そうだね。慣れるしかないか」


 俺とアヤメは買う剣が決まり、ハジメを見る。ハジメは1人で杖を見ていた。何本も手に取っては元の場所に戻している。俺たちより悩んでいる。慣れない物を選ぶから困っているのか、それとも俺たちと同じように違和感があるのか。

 ハジメの近くに行くと、アヤメが話しかけた。


「ハジメさんはなにで悩んでいるんですか?」

「うわっ!」


 ハジメは肩を震わせて驚く。相当集中して選んでいたようだ。


「急に話しかけないでよ。びっくりしたじゃん」

「ごめんなさい。なんで悩んでるのか気になっちゃって」

「いや、たいしたことじゃないよ。もっとカッコいいデザインのはないかなぁと思ってただけ。でも、これにしたよ」


 そう言って陳列棚から手に取ったのは杖の上部がとぐろを巻いたような意匠のもので、これといった装飾もなくシンプルだ。今までのハジメの言動からすると如何にも異世界転生ものという派手な意匠のものを選んでもおかしくはない。それをしなかったということは、自分たちと同じように手にした時に違和感でもあったのだろうか。


「かなりシンプルだね。なんでそれにしたの?」

「なんとなく魔法使いっぽいからかな」

「ふ~ん。他のは変な感じがするからかと思った」

「いや、そんなことはないよ。どれも使いやすそうだった。ただ、性能は分からないから、決め手は見た目だけだよ」


 違った。ハジメにはこれといった違和感は無かったようだ。今の杖を選んだ理由もハジメらしかった。

 それぞれが購入する武器と防具を決めたので会計をしようとしたが、依然として店員は出てこない。こんなに長時間店を開けていていいのだろうか。盗り放題ではないか。

 とりあえず店の奥に向かって声をかけてみる。返事は無いが物音がし始めた。誰かいるようだ。

 少し待っていると、奥の方から足音が聞こえてきた。足音からして背の高い若い男のようだ。


「意外だな。店員さんは背が高いんだ」

「え?シン、分かるの?」

「え?あ、うん。なんとなく」

「へぇ~。シンにそんな特技があるの知らなかった」


 アヤメに指摘されて気がついた。俺にそんな特技は無い。ただ、今はなんとなく分かる。そんな気がする。妙な感覚だ。

 やがて、店員が姿を現した。予想通り背が高い。2mはあるだろうか。引き締まった体の若い男だ。予想が当たってちょっと嬉しい。アヤメから肘でつつきながら小声で「やるぅ~」と言われて更にちょっと嬉しくなる。


「悪い悪い。昼飯食ったら寝ちまってた。待たせちまったか?」


 店員は頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。そんなだから身長のわりに小さく見える。

 そんな店員さんをなだめるようにハジメが対応する。


「いえ、待ってないですよ。ちょうど決まったところです。こちらをお願いします」


 カウンターに置いた3人分の武器と革鎧の会計をお願いする。


「お、君たち新人冒険者かな?」

「はい。さっき登録してきたところです」

「なるほど。それならこのナイフもおまけするよ。昼寝しちまってた詫びと、今後もご贔屓にってことで」

「ありがとうございます。では、またお世話になりますね」

「おう。待ってるぜ」


 会計を済ませて俺たちは店を出た。今買ったばかりの剣は腰に提げることにした。こうすることで冒険者の仲間入りをしたような気分だ。とはいえ、歩くたびに足に当たり邪魔くさい。アヤメは俺よりも長い剣を提げているから尚更だろう。

 ハジメの杖が石畳を叩く音を聞きながら宿屋を目指す。ベニーさんの紹介してくれた宿はギルドのある区画とは違うが、そう遠くない場所にあるらしい。

 ハジメが貰った手書きのメモに従って歩くこと10数分。落ち着いた外観の宿屋に着いた。壁の看板には『狼たちの寝床』と書かれている。どうやら宿の名前らしい。

 中に入るとカウンターに1人だけ女の人がいた。この宿の女将だろうか。あまり若くは見えない。

 ハジメが部屋取りを始める。


「すいません。宿泊はできますか?」


 女の人はチラリと俺たちを見る。人数を確認したようだ。


「そうさね。3人なら問題ないよ。何部屋がいい?」

「どうする?」


 ハジメが俺たちの方に振り返って訊いてきた。だが、そんなのは聞くまでも無いことだ。各々別の部屋にしてもらうことにした。


「では、3部屋を2週間分でお願いします」

「あいよ。14泊ね。奥に酒場があるから、朝夕の食事はそこを使ってくれると嬉しいね」

「分かりました」

「じゃ、これが鍵さね。階段上がってすぐの部屋だよ。くれぐれもうるさくするんじゃないよ」


 お世辞にも愛想のいい対応とはいえないが、不思議と嫌な感じはしない。あまり気を遣われても面倒だからこのくらいの距離感の方が楽だ。

 鍵を受け取り自分の部屋へ行く。部屋に入るなり荷物を置いてベッドに倒れ込む。

 とにかく疲れた。信じられないことの連続だった。今でも自分の置かれている状況が理解できていない。昨日まではいつものように夏期講習に行って友だちと馬鹿な話をして過ごすだけの日々だったというのに。とにかく今は頭の整理をしたい。

 仰向けになって目を閉じる。明日は薬草採取だ。大丈夫だろうか。薬草なんて見たことないぞ。ちゃんと間違えずに採れるかな?採ってるときに魔物に襲われたりしないよな?不安だ。

 そのようなことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。