第4話 スキルと魔法
受付前になんとも言えない空気が漂う。雑用兵という聞き慣れないジョブ判定が出たことにより面白がるハジメ、どうしたらいいか分からずオロオロするアヤメ、そしてただ困惑するだけのシン。三者三様の反応であり、一種異様な雰囲気だ。
「あの……。ギルドの説明に移ってもいいですか?」
受付の女の人が話を進めようとする。空気の悪さを感じて申し訳なさそうにしている。この人が悪いわけではないので気にしなくてもいいのだけど。
皆それぞれに思うところはあるが話を先に進めてもらうことになる。
「まず、冒険者にはA~Fのランクと特殊ランクのSがあります。皆さんはFランクからのスタートとなります」
新人だからな。当たり前だ。Sランクは最高ランクなのかな。特殊ランクとは言われたけど、どこら辺が特殊なんだろうか。ま、自分には関係ない。そのうち分かるだろ。
「受注できる仕事は基本的には自分のランク以下の仕事だけです。後ろにあります掲示板にランク毎の依頼票貼り出されますので、そこから依頼票を持ってきてください。受付での確認が終わったら受注完了です。そして仕事が終わったらまた受付に来てください。完了確認をしたら報酬のお支払いになります」
後ろを見て掲示板を見る。依頼票と思しき紙が貼り出され、その前にいる冒険者がその紙をじっと見ている。
この掲示板の上部にはアルファベットが書かれていて、そこで区分けがされているようだ。A~Fまであるが、Aの辺りはスペースが狭くなっているうえ、依頼票は貼り出されていなさそうだ。
先程から掲示板を見ている冒険者は“D”と書かれた場所の依頼票を見ていることから、Dランク冒険者の可能性が高いということか。
「以上となります。質問はございますか?」
2人を見ると、アヤメは初めて聞くことが多くて理解がまだ追いついていないようだ。そしてハジメはウンウンと頷いて対照的な反応を見せている。しかし、ここで1番理解してそうなハジメが手を挙げた。
「一つ質問なんですが、ランクはどうやれば上がりますか?」
「ランクは主に活動実績と貢献度で判断します。自分と同じランクの依頼を何件こなしたか、その達成率、仕事内容、出来栄えなんかが評価ポイントですね。それぞれのランクで条件を満たせば自動的に上がります。一応、他の方法として実技試験に合格すれば昇級できます」
「なるほど。ありがとうございます」
「他になければ、訓練場へ案内します。ついてきてください」
受付の女の人がカウンターから出て奥の方へ歩き出した。それについて行き、ドアを抜けるとその先には大きな空間が広がっていた。体育館みたいだ。そこに剣道の試合場のようなものが2面、的らしきものが置いてある射場がある。
俺たちが訓練場に入ると、その場で訓練をしていた冒険者たちがこちらを見てくるがすぐに自分の訓練に戻る。
「ここが訓練場になります。皆さんはスキルや魔法がまだ使えないと思います。その辺りのことをギルドの教官に教えてもらってください。エイムズさん!新人さんです!よろしくお願いします!」
受付の女の人が大きな声でエイムズという人を呼んだ。すると、奥の方からガタイのいい中年の男の人が気怠そうに歩いてきた。
「そう大きな声を出さなくても分かってるよ。頭に響く」
「もう。また飲み過ぎたんですか?仕事に影響が出るような飲み方はしないでって何度言えば分かるんですか!」
「やめてくれベニーちゃん。本当に頭に響くから」
「まったくもう。そんな状態で新人さんの指導できますか?」
「あ~それはやる。仕事だからな。スキルの使い方だろ?」
「今回は魔法使いもいるので魔法の使い方もです」
「なんだぁ?面倒臭ぇなぁ。まぁいい。ちゃちゃっとやっちまうか」
「じゃああとはお願いしますね。その間にギルド証の準備をしてますので」
ベニーさんがいなくなるとエイムズ教官はおもむろに椅子を持ってきてそこに座った。随分と酒臭いうえにやる気の無い教官だ。こんな人に教わるのか。大丈夫なんだろうか。
そんなことを思っていると、エイムズが説明を始めた。
「お前ら、まずは武器を持ってこい。あそこに置いてある物の中から選べ。魔法使いは杖を持ってこい」
エイムズの指さす方向には訓練用の木剣や槍が突っ込まれている樽がある。杖もそこに置かれているが、奥の方にある。使う人が少ないのだろうか。
言われた通り武器を見繕うがアヤメは早かった。何本か手に取っては構え、首を傾げつつも自分の体にあった長さの剣を選んでいた。さすがに普段から竹刀や木刀を振り回しているだけある。
ハジメも早かった。なにせ迷うほど数もないし、選ぶ基準も分からないのだ。目についたものを手に取ったような状態だ。
この2人に対して、俺は時間がかかってしまった。どの武器もしっくりこないのだ。剣も、槍も、弓も、ナイフも違和感がある。武器など持ったことが無いのだから当たり前なのだが、それだけでは説明のつかない違和感がある。
あまりに長く迷っていたせいでエイムズ教官がイライラし始めた。
「おい!いつまでやってんだ!どうせどれを選んでも同じなんだからさっさとしやがれ!」
酷い言いようだ。何もそこまで言わなくてもいいじゃないか。たしかにそうなんだけど、やっぱりちゃんと選びたい。
焦る気持ちを抑えつつ樽の中の剣を物色していると、他の剣に埋もれている短い剣を見つけた。これはまだ試していない。とりあえず手に取ってみると、今までの中で一番しっくりくる。ただ、少し短すぎて心許ない気がする。
「早くしろ!始めちまうぞ!」
「すいません!今行きます!」
仕方ない。今はとりあえずこれでいこう。これ以上待たせたら本当に先に始められそうだ。
短めの木剣を手にエイムズ教官の元へ走る。
「やっと来たか。で、散々迷って持ってきたのはショートソードか」
「すいません」
「別に謝るこたぁない。ジョブの影響もあるんだからな。さて、じゃあスキルなんだが、まずは自分の使えるスキルを知ってもらう。頭の中で“スキャン”と念じてみろ」
え?スキャン?何を見るんだ?って使えるスキルか。ステータスみたいに表示でもされるのか?さっきハジメが「ステータスオープン!」とか言っていたけど何も起こらなかったみたいなんだが、それは言葉が違っていたってことか?
とりあえず言われたとおり念じてみる。すると、目の前に文字が現れた。
―――――――――――――――
・名 前:吉村 槇
・年 齢:17
・ジョブ:雑用兵
・スキル:【スキャン】
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スキルは……【スキャン】だけか。これってスキルだったのか。他に何も無いのは初日だし仕方ない。ジョブも改めて見ると悲しくなるな。
それにしても、これはどういうことなんだ?なんで自分の能力が文字で出てくるんだ?意味が分からない。気持ち悪い。
「今のは自分の能力を確認できるスキャンというスキルだ。理屈は知らんがジョブ判定後から全員が使えるようになる。それで、他のスキルを使える奴はいるか?」
俺は使えない。きっとアヤメもハジメも使えないだろう。そう思ったから首を振ったのだが、エイムズ教官から出た言葉は意外なものだった。
「おっ。お前は使えるのか。何を使えそうだ?」
驚いてエイムズ教官を見ると、その視線の先にはアヤメがいた。
アヤメは控えめに手を挙げ、俺とハジメが驚いているのを見て申し訳なさそうにする。
だが、アヤメなら納得である。昔から剣道をやっているのだから、その経験がもとになってスキルが身についていてもおかしくない。
少し緊張した様子のアヤメがエイムズ教官に答える。
「【強擊】と【威圧】です」
なるほど。アヤメの試合は何度か見たことがあるが、竹刀を振る速度、相手に当たった時の音は他の選手と比べて群を抜いていた。試合中の声もどこから出しているのかと疑問になるくらいだった。それを考えると納得だ。
「【強擊】は物理戦闘職の基本だから分かるが、嬢ちゃんが【威圧】?そんな大人しそうなのに?実は怒らせると怖いってやつか?」
エイムズ教官はアヤメの見た目や雰囲気と釣り合わないスキルに驚きつつも豪快に笑っている。
「いや、悪い。思わずおかしくなっちまってな。じゃあ嬢ちゃん。とりあえず【強擊】を念じて木剣を振ってみてくれ」
「分かりました。素振りでいいんですよね?」
「あぁ」
指示を受けてアヤメはゆっくりと木剣を構える。普段使う竹刀や木刀と感覚が違うのだろうがその構えは美しい。
アヤメの目つきが変わる。深く大きく息を吸い、剣をゆっくりと上げる。真っ直ぐ前を見て、大上段に構えたところで動きが止まる。
次の瞬間、アヤメが一歩踏み込みながら剣を振り下ろした。木剣が空を切る低い音が響く。その音に続いて顔に風が当たる。剣風だ。木剣を思い切り振っただけで剣風が巻き起こった。およそ人のなせる技ではない。少なくとも、自分の知っている物理法則ではあり得ないことだ。
これについてはアヤメの方が驚いているようだ。自分の手を見て唖然としている。
「うむ。初めてにしては上出来だ。それを戦闘中に出せるようになれ」
「はい!ありがとうございました!」
アヤメは木剣を腰に差すようにして持つと、その場で深々と礼をした。部活後の監督と部員のようだ。
「なるほど。その動き、嬢ちゃんは剣術の心得があったんだな。それならその力は納得だ。ショートソードのお前はどうだ?」
「俺すか?」
突然話を振られた。ただ、俺にアヤメのような力を期待されちゃ困る。俺は普通の高校生だったんだ。
「俺は特に何も無いですよ」
「そうか。まぁ気にすることは無い。最初はそんなもんだ。スキルは魔力の使い方次第でいくらでも使えるようになる。だから色々試してみるといい。すぐに使えるようになるさ」
慰めとも取れるようなアドバイスを受ける。でも、魔力ってなんだよ。魔力を使えばって言うけど、魔力を知らないから使い方なんか分かるわけがない。やっていくうちに分かるのだろうか。
「お前は今ショートソードを選んだ。ということはショートソードに関するスキルを憶えられるはずだ。それが分かればどうとでもなる。ま、気長にやっていけばいいさ」
せっかくショートソードを持ってきたのに意味が無かったかと思ったが、剣を選ぶことに意味があったらしい。たしかに、武器なんか今まで触ったことすら無かったのだから一定の意義はあったわけだ。
「スキルについては以上だ。次は魔法だ。魔法はスキルと違って魔力の操作が必要になるが、細かいことは気にするな。使いたい魔法をイメージして詠唱することになる。とりあえず今回は火球だ。あの的に向かって手を向けて『火よ。小さきその身を駆り眼前の敵を焼き払え』と言ってみろ」
これを聞いてハジメが嬉々として的の前まで歩いていく。魔力の使い方だとか魔力操作だとかはどうでもいいらしい。とにかく今は魔法を使ってみたいという気持ちが勝っているようだ。
的の前まで行くとその場で目を閉じて呼吸を整える。そして杖を前に突き出す。真剣な目で的を見据えている。そして詠唱を始めた。
「火よ。小さきその身を駆り眼前の敵を焼き払え。火球!」
詠唱を終える直前、手の中に火の玉が浮かび上がった。豆粒ほどの火が徐々に膨れ上がりソフトボールくらいの大きさになったところで詠唱が終わった。すると、火球は勢いよく前方へ飛び出し、的に直撃して火に包まれる。
ハジメは目の前の光景を見て目を輝かせている。よっぽど魔法を使ってみたかったようだ。だが、すぐに顔を曇らせた。
「う~ん。魔法が使えたのは嬉しいけど、的を壊す気でやったのになぁ」
壊す気だったのかよ。入市税も払えてないのに的の弁償までさせられるのは御免だ。壊せなくてよかった。
「壊せなくて当たり前ぇだろ。あれには耐魔法術式が刻まれてんだ。初心者ごときの魔法で壊されてたまるかってんだ。とにかく、これでお前も魔法が使えるようになったわけだ。他の魔法を使いたければ、今みたいな感じで詠唱すればいい。ただ、属性の得手不得手やイメージの鮮明度で威力は左右されるから、どんな魔法でも使えるわけじゃねぇ。あと、魔力量にも注意しろ。使いすぎると死ぬぞ。これはスキルでも同じだ。魔力切れは死を招く。よく憶えておけ」
なるほど。スキルも魔法も魔力を使うから魔力を大切に使えと。魔力が無くなると戦闘手段が限られるとか体調が悪くなって戦えなくなるとかで危険だってことか。
「最後に、今日は講習だからスキルを言ってもらったが、本来は簡単に教えるものではない。自分の身を守るためだ。よく気をつけるように」
そう言うとエイムズ教官は訓練場の奥へと下がっていった。足取りが重そうなのでまだ二日酔いなのかもしれない。
こうしてスキルと魔法の使い方を教えてもらった俺たちは、手に持っている武器を片付けて訓練場を出ることにした。あとはギルド証を貰えば登録完了だ。




