20話
酒や肉を焼く匂いが漂い、冒険者たちが自分の冒険譚を大声で話している。そしてどちらがより凄いかをかけて飲み比べや腕相撲といったもので勝負を始める。最早見慣れた光景だ。お前らの自慢話なんか耳にたこができるくらい聞こえている。何度同じやり取りをすれば気が済むのかと不思議になる。
俺たちは今日も今日とて仕事を終えて、宿屋の食堂の一角で食事を摂っていた。
緊急依頼から2週間。あの集落が形成された原因を探る調査を受けつつ、同時並行で薬草採取や魔物討伐といった仕事を請けている。原因となる何かを見つけられはしないかと森の中へ行くような依頼を中心に請けてはいるが、これといった成果は無い。
ただ、原因調査以外では進展があった。例えばアヤメの刀だ。持って帰ってきた紫月を鍛冶屋に持ち込んでみたが修理を断られてしまった。その鍛冶士が言うには、あまりにも特殊な作りで初めて見る物だそうだ。どうやってこの強度を作り出すのか分からないため打ち直すようなことはできないと言われた。案の状、刀の修理は行えなかった。だが、それは同時に刀がここにあることが不自然であり、魔物どもがどこからか持ってきたことを示唆しているようでもあった。
そして昇級して数日後、アヤメの怪我が治った頃に討伐依頼を受けて森へ行ったときのことだ。緊急依頼の時に貰った刀の性能を試してみた。
「そういえば、アヤメの刀って結局どんな能力なんだ?」
森の中を歩きながら何気なく訊いてみた。自分で選んでおいてなんだが、あの刀についてはよく知らない。妖刀の失敗作だけど、侍なら“使える”ってことくらいしか情報が無い。使えるってことはきっと【解放】することができるのだろうけど、失敗作なんだよなぁ。
「う~ん……。実はまだ試してないんだ。でも、この子も妖刀なんでしょ?」
「それなんだけど、実はそれ、妖刀じゃないんだ」
「違うの?」
「妖刀を打とうとして妖刀にできなかったやつらしい。だから【見抜く】では刀ってなってた」
「じゃあ【解放】はできないんだ」
「そこが不思議なんだけど、【解放】できるっぽいんだよな」
「どういうこと?」
「さぁ……どういうことなんだろ?」
それは俺に訊かれても分からない。俺が知りたいくらいなんだ。
「じゃあさ、アヤメさん。この先の休憩場所に着いたら試しにやってみたら?」
「そうですね。みんないるし、ちょうどいいかも」
ハジメの提案によって休憩場所で【解放】してみることになった。
休憩場所に着くとちょうどいい具合に誰もいなかった。アヤメの【解放】だとか妖刀だとかは他の冒険者たちからすれば明らかに異質だから知られない方がいい。
アヤメがその場で刀を抜いて構える。
「それじゃ、やるよ」
アヤメは少し緊張しているようだ。刀を持つ手に力が入っているのが分かる。【解放】が使えると言ってもまだ2回目だから不安なのかもしれない。
刀が輝き始めた。元々透き通るように美しかった刀身が輝くことで更に美しさを増した気がする。そしてその刀身の先に光の粒子が流れているのが見える。
「どうだ、アヤメ?」
「うん。たしかに【解放】はできたみたい。でも、これは少し……辛いかも――!」
アヤメはそう言うなり【解放】を止めて膝に手を当て呼吸を荒くした。額には大粒の汗が見える。かなり疲れたようだ。
「この子、すっごい魔力使う。【解放】してる間、ずっと魔力が流れてた」
「マジかよ。じゃああの刀の先に流れて行ってた光は魔力だったのか?」
「そうみたい。紫月は【解放】した時と刃を飛ばしたときしか魔力を使わなかったのに」
「なるほど、そいうことか。たぶん、妖刀は魔力を定着させることができるんだ。だから妖刀として完成していた紫月は魔力を垂れ流すことはなかった。でも、そいつは魔力を定着できてないから魔力を放出し続けるってわけか」
「そういうことなのかな?でも、あの状態で斬れば何かできそうな気がしたんだよね」
「やめとけよ。すぐ魔力がなくなって戦えなくなるぞ」
「それは……そうかもしれないけど」
「とにかく、勧めておいて悪いけど、それは使おうとしない方がいいだろうな」
「悪いだなんてそんな……。選ぶのをお願いしたのは私だし、普通に使う分には問題ないんだから気にしないで」
失敗作というのは知っていたけど、まさかここまで中途半端な状態だったとは。こんなのを【解放】し続けたら魔力切れになって最悪死んでしまう。なんだか申し訳なくなってしまった。
結局、この日の検証はこれで終わった。それ以降は刀を【解放】してみるようなこともなく、普通の刀として使っている。ただ、それでも十分なのだ。刀を持ったアヤメの技のキレは以前とまるで違う。まず刀を振った瞬間に刀身が見えなくなって音だけが聞こえてくる。【強擊】を使うとその剣風で斬られてしまうんじゃないかと思うほどだ。実際、斬撃を飛ばす【飛刃】というスキルを憶えていた。まぁ劣化版紫月だ。ゴブリンの体に傷を付ける程度の威力しかないから使う意味が無いのだが。
肝心の俺のジョブについては手がかりが何も見つからない。アヤメのジョブが侍だということについても同じだ。唯一の手がかりと思える『あの時のオーガたちがどこであの刀を見つけたのか』ということについても何もわかっていない。他の冒険者たちも集落形成に関する有力な情報を見つけられていないようだ。俺たちは何か見落としているのだろうか?不安になる。
アヤメとハジメが話しているのを見ながらそんなことを考えていたら、遠くの方で話している冒険者の声が聞こえてきた。
「なぁ、聞いたか?土砂崩れで通れなくなってた道が開通したんだってよ」
「へぇ~。でも、あの道の先って何も無かったよな」
「そうなんだけどよ。なんか開通した先にゴブリンがたくさんいたらしいぞ」
「ゴブリンが?集落を作ってたっていうのか?」
「いや、集落は見つかってないみたいだな。あの先でゴブリン以外の魔物が出ないだけらしい」
「なんだよそれ。旨味のねぇ場所だな。そんな所行っても時間の無駄じゃねぇか」
「ホントそれな。ゴブリンなんか新人どもに任せとけばいいだろ。ま、そのぶん人が減って他の討伐がやりやすくなるから俺らにも悪い話じゃないんだがな」
「ちげぇねぇ」
ふ~ん。地震で土砂崩れが発生したって道、通れるようになったんだ。随分時間かかったな。たしか俺たちがこっちに来た頃に崩れたんだよな?随分のんびり復旧させてたから本当に使い道なかったんだ。でもそうか。今まで行けなかったってことは、未調査区域ってことか。
「なぁハジメさん。明日、ちょっと行ってみたい場所ができた」
「ん?なんだい急に」
「実は今、土砂崩れから復旧した道の話が聞こえてさ。まだ行ったことがないから調べてみる価値あるかなって」
「そういうことね。でも、大丈夫なのかい?そういう所って強い魔物がいそうだけど」
「大丈夫。ゴブリンばっかりっぽい。集落も無いらしいからなんとかなるはず」
「ゴブリンか。なら問題ないね。それにしても、ゴブリンばかりってのは妙だね」
「だろ?この前の緊急依頼の時、ゴブリンが一時的にいなくなってたじゃん?だから、通れなくなっていた道の向こう側に堰き止められていたんじゃないかなって思うんだ」
「ん~……それだとその向こうでゴブリンが発生してきてることになるから違うと思うけど、向こうに集まっていた可能性は捨てきれないね。分かった。じゃあ明日はそっちに行ってみよう。アヤメさんもそれでいいかな?」
話の流れを見守っていたアヤメは特に嫌な顔をすることもなかった。
「構いませんよ。そこなら私たちも普通に行けそうですし、まだたいした情報が無いなら行ってみるべきじゃないかと思います」
「決まりだね。まだ誰も行っていないエリアかぁ。未知のダンジョン発生とかありそうだなぁ」
またこいつは変なことを言ってる。そんなわけないだろ。
「ハジメさん。言っとくけど、ダンジョンってのは俺が適当に言っただけだからそんなもの無いと思うぞ」
「い、いいだろ夢見たって」
ハジメは恥ずかしそうに否定しているが、きっと諦めていないだろう。変なこと言っちゃったなぁ。まぁいいか。放っておこう。とりあえず、明日は初めて行く場所だ。どんな所だろ?ちょっと楽しみだ。




