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18/22

18話 予定外の報酬

 森から出ると朝日が昇っていた。眩しさに目を細める。遠くに見える街の外壁や城の尖塔が朝日を浴びて輝いて見え、無事に帰ってこられたことを実感する。それによって、疲れきっていた俺たちは多少の元気を取り戻す。重い足を引きずるように歩いていたが、街を見て僅かに足が軽くなった気がした。もっとも、先輩方について行くのがやっとになった程度だが。

 俺たちは今、緊急依頼参加者の集団の最後尾を歩いている。行くときは別々だったが、帰ってくるときは全員が集っていた。皆一様に返り血や泥で汚れている。中には腕を吊っている者や体に包帯を巻いている者もいる。中央の辺りが激戦だったことが伺える。


「おい!遅ぇぞ新人ども!さっさと歩け!」


 ただ、苛立ちながら俺たちに指示を出してくるこの冒険者は随分と汚れが少ない。さっき聞こえてきた話ではゴブリンを倒した話しかしていなかった。どうもゴブリンしか相手にしていなかったようだ。そんな奴に偉そうにされても納得などできようわけがない。こちとら格上のオーガやらオーガロードとやり合ってんだよ。疲労度が違うのよ疲労度が。ってよく見りゃ会議の時に俺たちの参加に文句言ってた奴か。面倒臭ぇ奴だなぁ。

 正直言って不快だ。ただ、内心では酷く毒づくがそれを口に出す気力は無い。俺たちはその冒険者を無視するように無言のまま歩き続ける。舌打ちが聞こえてきたが知ったことではない。こっちは疲れてるんだ。

 オーガロードと戦ったのもそうだが、イゴールと合流してからも大変だった。細かく話を聞かれ、説明し終えたと思ったら討伐証明の切り取りをさせられた。さすがにゴブリンのものまでやらされると量が多すぎる。肉体的にも精神的にもキツかった。おかげで今は腰袋がパンパンだ。

 皆がそのようにして荷物を膨らませている中、アヤメは折れた刀を布に包んで手に持っている。戦利品、というわけではないだろう。さすがに折れてるからな。


「ところでアヤメ。それ、どうするんだ?」


 布に包まれた刀、紫月を指さして訊いてみる。


「う~ん……どうしよう?なんとなく持ってきちゃったけど」

「決めてなかったんかい」

「あのまま捨てるのは忍びなくって。どうしたらいいと思う?」

「どうしたらって……。持って帰るなら打ち直してもらえるか訊いてみるしかないだろうな」

「やっぱりそうだよね。……うん。じゃあ探してみよっか、鍛冶屋さん」

「そうだな。直るといいな」


 たぶん無理だ。アヤメには言っていないけどこれを打ったのは古代の刀匠だ。それも侍専用武器ときている。侍が知られていないのに、侍専用武器を打てる刀匠がいるとは思えない。きっと、その技術はとうの昔に廃れてしまっているに違いない。とはいえ、それも憶測に過ぎない。何かいい方法があるかもしれない。今はそれに賭けよう。

 街の門に着くと門番が外に出ていた。どうやら帰還を待ってくれていたようだ。門番の笑顔が見える。


「おぅイゴール!首尾は上々だったようだな!」

「まぁな。しっかり潰してきたぜ」

「ありがとよ。俺らは街から離れらんねぇからな。助かるぜ。それにしても、なんかご機嫌そうだな?」

「分かるか?思わぬ収穫があったもんでよ。これからギルドに報告だ」

「なにか分からんけど、依頼の完遂以外にもいいことがあったんだな」

「若手が育ってるってことさ。じゃ、先を急ぐんでな。またな」

「なるほど。それは嬉しいな。またな」


 イゴールはここの門兵とかなり仲が良いようで楽しそうに話していた。若手が育っていることが嬉しそうだったということは、今回はかなり成功したということか。怪我人もいるけど、想定より少なかったんだろうな。

 街に入って歩いていると、すれ違う人たちが皆ギョッとした顔をして見てくる。早朝とはいえ少なくない人が歩いている。その人たちに何度もそんな目を向けられると恥ずかしくなる。いくら汚れや怪我が酷くても俺たちは冒険者なのだから気にしないでもらいたい。

 ギルドに入ると街の人たちとは違う視線を向けられた。驚く者はいない。というかほぼ無関心だ。またかといった目で見てくる。荒事に慣れている冒険者らしい反応だ。それらを横目にイゴールが受付で二言三言言葉を交わすと奥へ通された。昨日の会議で使った部屋だ。

 中に入るとイゴールたちや他の冒険者が持っていたオーガの武器が机の上に乱雑に置かれる。


「俺はこれからギルドマスターに今回の件を報告する。だからお前らは各自で報酬を受け取ったら先に帰って貰って構わねぇ。報酬に関しては担当者から聞いてくれ」


 助かる。もう疲れてヘトヘトだ。これ以上何かをするのは無理だ。


「あぁ、それと、新人の嬢ちゃん。こっちきな」

「……え!?私ですか?」


 突然の指名でアヤメが驚いている。俺も驚いた。なぜ呼んだんだ?まさかギルドマスターの所へ連れて行く気か?


「嬢ちゃん、たしか剣が折れていたよな。気になるのがあったら持っていっていいぞ」


 会議室がザワつく。それはそうだ。今回の戦利品として拾ってきたオーガの武器を優先的に与えようというのだから。そこにあるのはスキルを使わなくても分かるくらい上等な武器だ。こんなことをすれば当然異論が出る。


「ちょっと待てよイゴールさん!それはオーガを倒した奴が貰うもんだろ!実力不足で剣を折った奴にくれてやる必要なんかねぇ!」

「そうだそうだ!剣もろくに使えねぇヒヨッコが持っていいもんじゃねぇ!」

「お前もさっさと断れよ!」


 イゴールに対する反論の声が上がる中、アヤメへの批判も出始める。今回の顛末はまだ説明がされていないからある程度は仕方がない。とはいえ、アヤメに矛先を向けるのはおかしいだろ。アヤメも困ってしまっている。どうするつもりなんだイゴールは。


「黙りやがれぇぇぇ!!!」


 イゴールの太く低い声が会議室内に響く。あまりにもうるさくて思わず耳を塞いでしまった。今まで文句を言っていた冒険者たちもその迫力に気圧されたのか静かになった。


「こいつはなぁ!オーガ3匹とオーガロード1匹を殺している!剣が折れたのもオーガロードに斬りかかったからだ!」


 会議室が静まりかえる。イゴールの言った戦果が俄かに信じがたいようだ。


「うそだろ……?」

「いや、でもイゴールさんが……」

「う、嘘だ!新人にそんな力があるわけがねぇ!だいたいなんで新人がオーガやオーガロードと戦うんだよ!おかしいじゃねぇか!」


 もっともな疑問だ。力があるかどうかは別として、なんでアヤメがオーガロードと戦うことになったのか。これは俺も気になる。


「うるせぇ!俺が取り逃がした!」


 あ、やっぱりか。まぁそれしかないよな。あのオーガロード、腕折れてたし。イゴールたちが追いかけてきたし。

 再び静まりかえる。ただ、さっきとは様相が違う。なぜアヤメに戦利品を優先的に渡すのかということは後回しとなる。


「作戦失敗しかけてんじゃねぇか!」

「どおりでイゴールさんがいねぇと思ったぜ!」

「新人に尻拭ってもらってんじゃねぇよ!」


 そりゃ、こうなるよな。アヤメそっちのけでイゴールへの批難の声が上がる。もはや誰もアヤメを見ていない。


「俺の失敗を取り返したうえに親玉を討ち取ったんだ。これ以上ない成果だろ」

「なに開き直ってんだ!ちゃんと説明しやがれ!」


 最早何を言ってもイゴールは批難されてしまうようだ。それにもかかわらず本人は堂々としているから凄い。アヤメはというとイゴールの横で静かに見守っている。まぁ、あの状況じゃ何もできないもんな。俺も近くに行けないし。話がつくのを待つしかないか。

 ハジメと2人で成り行きを見守っていると、1人の冒険者が近づいてきた。なんとなく見覚えがある。誰だったか。


「やぁ。君たち凄いね。オーガロード倒したんだ」

「あ、ジョンソンさん。ご無事だったんですね」


 ハジメはすぐわかったようだ。俺は名前を聞くまで思い出せなかった。昨夜、ゴブリンに見つからないようにしていた人だな。近接特化のパーティーだからゴブリンに見つからずに倒すのが難しいとか言っていた。


「ひょっとして、君たちもオーガを?」

「いえ、僕らはアヤメさんの援護をしていただけです。僕の魔法も効かなかったですから」

「魔法が効かないって、魔法無効化(アンチマジック)のスキルでも使われたのか?」

「そういうのではなくて、僕の魔法の威力が弱かっただけみたいです」

「そういうことか。まぁあいつら、実際硬いからな。新人の魔法使いならそんなもんかもな」

「まったく、情けない限りです。もっと精進しないと」


 そう言ってハジメは頭を掻いた。思うところがあるようだ。たしかに、俺たちの攻撃は効かなかった。オーガには俺は攻撃していないが、オーガロードには何もできなかった。攻撃力が足りない。いかんともしがたい事実だ。アヤメの笑顔を守ると決めておきながら、その実なにもできていない。俺もこの課題を早く克服しないとアヤメの足を引っ張ってしまう。


「そう肩肘張っても仕方ねぇぞ。まだまだこれからなんだ」

「まぁ、そうなんですけどね」

「分かればいいさ。ところで、打ち上げやるから来いよ」

「打ち上げですか!?是非!」


 打ち上げと聞いてハジメが目を輝かせて食いついた。その勢いにジョンソンも驚いている。が、すぐにニヤリとして具体的な話を始めた。ハジメは実に楽しそうだ。そんなに宴会が好きだったなんて意外だ。いや、まさかこれは異世界の……いや、皆まで言うまい。理由はどうであれ、こうやって縁を作ってくれるのはありがたいじゃないか。この件はハジメに任せよう。

 楽しそうに話を始めた2人から目を離してアヤメの方を見ると、どうやらこっちは話がまとまったようだ。落ち着いたと言うべきか?


「アヤメちゃんに武器を譲って、イゴールの報酬を打ち上げに使わせることに異議のある奴はいるかぁ?」

「異議あり!」

「おめぇの意見は聞いてねぇぞイゴール!」


 少し見ていないうちにおかしなことになっている。イゴールって俺たちの中で一番上の階級だったよな?それがここまで言われるって、オーガロードを取り逃がしたのはそれ程までの失敗なのか?まぁ死ぬかと思ったけども。

 とりあえず、アヤメが武器を貰うことは納得してもらえたらしい。『アヤメちゃん』と呼ばれているのが少し引っかかるが。なんでそんなに親しげになってんだ?

 こうして見ている間にも話は進んでいく。そしてイゴールが冒険者たちから集中砲火を浴びて何も言えなくなり、先ほどの内容で話がまとまりそうになったところでアヤメが口を開いた。


「皆さん、落ち着いてください。イゴールさんがオーガロードの腕を折ってくれていたおかげで私も勝てたんです。だからイゴールさんをそんなに責めないであげてください」

「ちっ。優しすぎるぜ、アヤメちゃんは。仕方ねぇ。アヤメちゃんに免じて今回は許してやる。お前らもいいか!?」


 野太い歓声が上がる。その歓声にイゴールまで混ざっている。なにやってんだあの人。パーティーメンバーの女性陣が呆れてるじゃないか。


「じゃあアヤメちゃん。どれか好きな武器を選んでくれ」


 アヤメが礼を言って机の上に並んでいる武器を見る。剣と刀を見比べるが、やはり刀の方が気になるらしい。数本の刀を見て、持って確かめるが決め手に欠けるのか迷っている。顎を手で触りながら考え込んでしまった。


「う~ん……どうしよ。――あっ!そうだ!シン!こっち来て!」

「えぇ?なんでよ?」

「いいから!早く来て!」


 うわぁ~……。嫌だなぁ。あの空間、凄く嫌だ。中学の時にアヤメと一緒にいる時によく感じた視線を感じるよ。周りの男たち視線が刺さるようだ。気が重い。


「で、なんで呼んだんだ?」

「ねぇシン。どれが私に合いそうかな?」

「いや、俺に訊くなよ」

「シンだから訊いてるんだよ」

「……あ、そういうこと?」


 つまり、【見抜く】でいいものを探せというのか。人使いの荒い奴だ。森から帰ってくる間に魔力は回復してきているけどそんなに見れないぞ。まぁアヤメの願いならやるけどさ。さて、この刀たちは見た目は吸い込まれるようにキレイだけど、実際はどうなんだろうな。1本だけ変な感じがするし。


 〈刀〉古代の刀匠が打った刀。侍なら使いこなせるが、強度は期待できない。

 〈刀〉古代の刀匠が打った刀。一般的な侍が使用する。特筆するものは無い。

 〈刀〉古代の刀匠が魔力を封じ込めようとして打った刀。しかし魔力が封じ込められず妖刀としては失敗作。侍なら使用可能。


 あ、やばい。気持ち悪くなってきた。最後ので魔力が持ってかれた。限界だ。他は見てないけど、まぁ見なくていいだろ。刃毀れとか錆が酷いし。


「そうだな。お前に合いそうなのはこいつだな。」


 見抜く前から変な感じのした刀を選ぶ。他の刀よりも透き通った美しさがあり、冷たいような雰囲気を感じる。紫月ほどではないが、一種の妖しさがあった。妖刀の失敗作というのだからある意味当然か。ただ、失敗作で使用可能ってどういうことなんだ?妖刀でもないみたいだし。


「やっぱりそれかぁ。綺麗だもんねぇ。ちなみに理由を聞いても?」

「お前なら使えそう」

「使えそうって……。あ、そういうこと?」


 言いたいことが通じたようだ。ニヤリとしながら無言で頷くと、アヤメもニヤリとする。


「なんだ?お前、目利きできんのか?」


 おっと。危ない危ない。スキルのことをバレないようにあんまり多くは言わなかったんだけどな。さすがにあの状況で呼ばれたらそう思うか。適当に話を合わせとこう。


「なんとなくいいものかどうかが分かる程度ですけどね」

「それでもたいしたもんだろ。でも、どうしてアヤメちゃんがこの曲剣を使えると思ったんだ?」

「幼馴染みなんで。なんとなくです」

「なるほど。癖を知ってるからこそってやつか」

「そんな感じです」


 よし。納得してくれた。それにしても、『曲剣』か。刀でも曲刀でもないんだな。本当に刀自体が知られてなさそうだ。

 アヤメが刀を受け取ったので、2人でその場を離れる。ハジメは既にジョンソンとの話が終わって俺たちを待っていた。どうやら打ち上げは明後日やることになったらしい。前に会った冒険者と食事に行けるということでアヤメも喜んでいる。

 会議室の前の方では再びイゴールが話し始めた。とりあえず今日のところは討伐証明をギルドに出したパーティーから解散していいらしい。それだけ言って部屋を出て行った。これからギルドマスターに報告をするのだろう。今のように怒られなければいいのだが。

 しばらくするとギルド職員が入ってきた。順番に討伐証明を回収していくたび、会議室から人が減っていく。そして、階級の一番低い俺たちは最後に渡すことになった。誰もいない会議室は酷く寂しく感じた。この寂しさがあの激闘を終えたことを伝えてきているようだった。

 ギルドを出ると外はすっかり明るくなっていた。街ゆく人の数も増えている。街の人は皆、今日という日はこれから始まるのだ。でも俺たちは違う。これから宿に戻って寝る。もう疲れた。魔力も無いし。ただ、寝過ぎないようにしよう。夜が眠れなくなる。


「さて、宿に帰る前にご飯を食べに行こうか。そこでこれからの予定を決めよう」


 ハジメの提案に俺たちは賛同した。思えば昨日の昼から何も食べてない。思い出したら腹が減った。でも、今後の予定って言ったって決まっているようなものだ。明日はオフで、明後日は打ち上げ。どこかのタイミングでアヤメのジョブを再判定する。ギルドに追加報酬を貰いに行く。これだけだ。

 まぁいいか。未定のものを今決めたいのだろう。さっさとご飯を食べに行こう。先に行ってしまった2人を追いかけるようにして歩き出した。

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