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第12話 作戦準備

 明日の夜、オーガ討伐に行く。そのことが決まってから不安で仕方がない。端的に言うと怖い。ゴブリンなら大丈夫だ。見たことがあるし、アヤメとハジメが勝てるのも分かっている。でも、オーガは見たことが無い。どんなの姿なのか、どんな強さなのか、どんな戦い方をするのかを知らない。さっきの作戦会議で聞いた程度の話しか分からないのだ。そもそもイゴールの話していた作戦は大丈夫なのか?大雑把すぎやしないか?しかも俺たち、この世界に来てから、冒険者になってからまだ1ヶ月だぞ。周りの冒険者の反応も頷ける。あれは、酷かった。



「お前ら、作戦を説明するぞ。まず、相手はオーガとゴブリンだ。森の奥に集落のようなものを作っている。数の詳細は不明だが、分かっているだけでも集落の中心部にオーガが10匹程度、その周囲にゴブリン100匹程度ってとこだな。ここにいる冒険者は40人だ。数の上では問題ない。」


 数は問題ないとか言ってるけど、完全に劣ってるじゃないか。どうやってひっくり返すつもりなんだ。


「まず、中心にいるオーガには俺たちオセロットとCランクのツェーゾォレが叩く。ただ、そのためには周りのゴブリンをどうにかしないといけない。そこで、残るメンバーはゴブリンを潰してくれ。包囲殲滅だ」


 うん。なるほど。囲んで一気に攻めるということか。そしてゴブリンの注意を引いた場所、もしくは数の少ない場所から侵入してオーガを仕留める。シンプルだ。でもな、どこに包囲するだけの人員がいるんだよ!2パーティーがいない以上、こっちは30人くらいで100匹のゴブリンを相手にすんだぞ。逆に包囲されるわ!

 説明内容に不信感しか感じないが、俺たちは新人だ。ベテラン冒険者に意見などできるわけがない。ゴブリンのことをよく知らないだけで、本当にその作戦でどうにかできるのかもしれない。周りを見ると、俺たち以外は完全に納得している。「いい考えだ」「それしか無いな」などと言っている人もいる。頭おかしくないか?

 ただ、1人だけ異論を唱える者がいた。さっき、俺たちが会議室に入ったときに舌打ちをしてきた冒険者だ。


「作戦はそれでもいいけどよぉ、イゴールの旦那。メンバーについて説明してくれや。どう見てもド新人がいるんだけど、どういうなんだ?」


 その場にいる全員の視線が俺たちに集まる。そりゃそうだ。これから命をかけた戦いに行くっていうのに、俺たちみたいのがいたら納得いかないよな。俺もそう思う。なんで呼ばれたんだ?


「それはな、簡単な話だ。そいつらは冒険者になって1ヶ月なんだが、魔物の討伐数が多い。ゴブリンがいない今の時期でホーンボアやジャイアントディアをかなり狩っているそうだ。でもどうだ、それにしてはそいつらの鎧は綺麗だろ?」


 冒険者たちが俺たちを上から下まで舐め回すように見てくる。さすがに恥ずかしい。


「お前は自分が冒険者になった頃、こんなに鎧が綺麗だったか?」

「いや、傷だらけだった」

「そういうことだよ。1ヶ月間、ほぼ無傷で戦えている。怪我の報告は無いそうだ。つまり、そいつららはFランクよりも遙かにレベルが高い。期待の新人なんだ」

「つまり、俺たちに期待の新人のお守りをしろってことか?」

「たしかに経験を積ませる目的はある。でも、それは関係ない。実力はある。ゴブリン程度なら問題ない。だから通常戦力として使っていい。これはギルドマスターが言っていたことだ」

「ちっ。分かったよ」


 マジかよ。俺たちそんな評価されていたのか。やめてくれ。期待が重すぎる。まだこの世界のことを何も知らない、文字通りの世間知らずなんだよ。

 そんな俺の気持ちなど知らないイゴールは、その後も作戦について説明をした。それに対する異論は出てこなかった。そこには冒険者たちがイゴールに寄せる信頼があったように思えた。



 こうして、作戦会議が終わって解散となった後、3人で相談をすることにした。この緊急依頼はまだ一般には伏せられているらしいのでギルド内やカフェで話すわけにもいかない。一旦宿に帰って俺の部屋に集まった。机を囲んで2人の顔を見る。2人とも真剣な面持ちだ。ハジメですら真面目な顔をしていると調子が狂う。

 誰も話そうとしないので俺から切り出す。


「なぁ、あの作戦、どう思う?」

「あれは、無いな。1人で何匹倒さないといけないんだよ。戦い方も数で上回ってるときのやり方だ。下策中の下策だよ。ただ、この世界の戦い方を知らない以上、下手なことも言えなかった」

「私も同じ。いくらゴブリンが強くなかったとしても、囲まれたら勝てないと思う。でも、そんなことをあの人たちが知らないわけが無いはずなの。だからあえて何も訊かなかった。いえ、訊けなかったわ」


 やはり同じことを考え、感じていた。作戦そのものが信用できていない。それでも他の冒険者の自信を感じて何も言えなくなっていた。いかにも日本人らしい。

 だが、3人ともが作戦に不安を感じているなら、俺たち自身で生存率を上げる努力をして不安を軽くしなくてはならない。


「やっぱ皆同じ考えか。……それじゃあ、提案なんだけど、今の俺たちの戦力を確認しないか?」

「どういうことだい?」

「たいしたことじゃないよ。俺たちが死なないために、お互いのできること、つまりスキルを知っておこうって話だよ。その上で俺たちなりの戦い方を考えよう」

「なるほど。今できることを考えたら、たしかにそれが良さそうだ」


 ハジメの了解は得た。アヤメはどうだろうか。アヤメの方に視線を送る。


「私もいいよ。隠すようなものでもないし」


 よし。これで対策を立てられる。ただ、申し訳ないがハジメには【見抜く】を使わせてもらう。信用してないわけではないけど、情報は多い方がいい。アヤメみたいにジョブが違う可能性がある。スキルの練習とか言っていられない状況になってきた。


「じゃあ、まずは言い出しっぺの俺から。俺の今のスキルは【警戒】、【投擲】、【忍び足】の3つだね」


【見抜く】は敢えて言わなかった。まだ教えなれないし、教える必要が無い。このスキルが戦闘中に必要になるとは思えない。言わなくても問題にはならないはずだ。


「シンくん、意外と多いね。僕なんか【魔力操作】だけだよ」

「でもハジメさんは魔法があるじゃん。昨日だって魔法の練習のためにギルドに行ったんだよな?」

「まぁね。でもそんなに強力な魔法は使えないよ。今は火球と風刃くらいしか使えないね」


 少し残念そうな顔で視線を下に落とした。どうやら納得できていないようだ。でも、これだけ使えれば今は十分だと思う。

 念のために【見抜く】を使ってみる。


 〈田中 一〉異世界から転生した冒険者。ジョブは魔法使い。火と風の魔法が得意。


 また知っている情報しか出ない。少し情報量が増えた程度だ。ただ、ハジメのジョブは魔法使いと出た。アヤメと違いジョブ判定の時と同じジョブだ。やっぱりアヤメが特別なのか?

 まぁいい。得るものは無かったが情報の裏取りはできた。今はそれでよしとしよう。


「アヤメはどうだ?」

「私は【強擊】、【威圧】、【抜刀】だね」

「ありがとう。じゃあどうやって戦うか考えよう」


 おそらく、ゴブリンは数を頼みに襲いかかってくるだろうから、囲まれないように立ち回る必要がある。3人で意見を出し合う。互いの得手不得手を考えながら対策を講じるが、俺は戦い始めるとできることがなくなる。3人しかいないのに1人がいなくなったら戦闘にならなくなりそうだ。それはマズい。どうにかしてその欠点を補わねば。そのためにも、1度街に出る必要がある。買い出しだ。

 俺たちは話し合いを終えると、それぞれが必要とする道具を買いに出かけた。ハジメは魔道具屋へ魔力回復薬を、アヤメは武器屋へ剣の調整を、俺は道具屋へ回復薬やその他備品を探しに行く。戦いは明日の夜だ。今日中に揃えて明日は体を休めておかねばならない。やることは山積みだ。

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