第11話 緊急招集
アヤメのジョブは侍だった。これは俺のスキルが間違っているのか?それともあのジョブ判定で使った水晶球が間違っていたのか?分からない。こういう時は誰かに相談するのが一番だ。でも、誰に?アヤメに相談しても解決しなさそうだ。一緒に考えてはくれるだろうけど、そこまでだろう。なにより自分のジョブが間違っているかもしれないなんて言えるわけがない。ましてや勝手に人の情報を盗み見たような状態なのだ。気分のいい話ではないはずだ。
では、ハジメか?ハジメなら何か方針を出してくれるかもしれない。でも、ハジメはダメだ。あいつは異世界ものの創作物が好きだからこの手のスキルを聞いたら相談どころではなくなる。たぶん一番面倒くさい人物だ。あいつにはまだ教えたくない。
じゃあ他の人、たとえばエイムズ教官とかはどうだ?いや、無理だろ。あの判定機で判定されたジョブで全てを判断してるってことは、あの判定結果が全てなんだから。分かるわけがない。ただ、【見抜く】以外にも他の人のジョブが分かるようなスキルがあるかもしれない。もしそれがあるならどんなものか訊いてみたい。よし、決めた。とりあえずギルドに行ってみよう。
そんなわけで、今日は1人で冒険者ギルドにやってきた。アヤメとハジメは今頃朝食を食べているだろう。集合時間までに宿に戻れれば問題ない。
ギルドに入るとまだ冒険者はまばらだった。好都合だ。受付に行ってエイムズ教官がいるか訊いてみる。
「すいません。エイムズ教官っていますか?」
「エイムズですか?まだですよ。もう少ししたら来ると思いますけど、今日は訓練の予定が無いんですよ」
「そうですか」
何か別の予定があって訓練はしないようだ。仕方がない。また今度にするか。でもせっかく来たんだ。ジョブのことでも訊いておこう。
「教官にジョブについて教えてもらいたかったんですけどねぇ。……あの、分かればでいいんですけど、ジョブってどのくらいの頻度で変わるものなんですか?」
「えぇ?……詳しくは分かりませんが、元々のジョブの習熟度によって変わるみたいですよ。新人ならしっかり訓練すればすぐ変わるんじゃないですか?」
なるほど。そうなるとアヤメのジョブが変わった線は薄いな。こっちに来てからも剣の練習はしているけど、それ以外の練習はしていないからな。
「ちなみに、ジョブに侍ってありますか?」
「サムライ?なんですかそれ?」
「あ、ごめんなさい。忘れてください」
「はぁ……」
この人は侍を知らない。ジョブを判定する球を扱う人でも知らないということは本当に存在しないのかもしれない。雑用兵みたいに忘れられている可能性はあるけど。
「あと、話は違うんですが、他の人のジョブとかスキルが見えるスキルってあるんですか?」
「無いですね。少なくとも私は聞いたことがありません」
人のジョブを知ることができるスキルは存在しないか。となるとやはりこの世界の人に【見抜く】について相談するのは危険だ。
質問に答えてもらったことに礼を言ってその場を後にする。スキルについては自分でなんとかするしかない。そのためには練習あるのみか。ジョブについても知りたいし、気は進まないけど人にも使って確かめていく必要がありそうだ。
そのままギルドを後にしようとしたとき、後ろから呼び止められた。
「待ってください!あなた、ハジメさんの所のシンさんですよね?ちょっと待ってもらっていいかしら」
振り返るとそこにはベニーさんがいた。何の用だろう?慌てて追いかけてきたのか肩で息をしている。
「そうですけど、どうしたんですか?」
「ちょっと、お願いしたいことがあって。他のお2人は今どこに?」
「まだ宿にいると思いますよ」
「じゃあ、開門の時間までに皆さんでここに来てもらえませんか。たしか今日は薬草採取でしたよね。それは報酬をお支払いするのでキャンセルしておきます」
よく俺たちの予定を知っていたな。ハジメがベニーさんにしか声をかけないからか?
それにしても、仕事をキャンセルしてもいいからギルドに来いとはどういうことだ?しかもキャンセルした仕事の報酬まで払ってくれるなんて、どう考えてもただ事ではない。嫌な予感しかしない。
「あの……俺たち何かしました?」
「あ、誤解しないでください。お願いしたいことがあるだけなので」
それはそれで怖い。何をさせる気なんだ。先に金を払うから言うことを聞けと言われているようだ。だが断れる類いのものではないだろう。大人しく従うしかない。
「分かりました。これから宿に戻るので伝えておきます」
「ありがとうございます。こちらに着いたら私に声をかけてください」
ベニーさんはまた駆け足で受付へ戻っていった。その受付の奥では何人かの職員が慌ただしく動いているのが見える。さっきまでいなかった人たちだ。聞こえてくる声に意識を集中すると、どうやら俺たち以外のパーティーも呼ぼうとしているようだ。宿に出向こうとしている。何かがあったようだ。
職員たちの声を背にギルドを出る。【見抜く】のことについて知ろうと思って軽い気持ちでギルドに行ったらとんでもないことに巻き込まれた。あの様子、絶対面倒ごとだ。本音を言うと行きたくない。俺が伝えなければそれで終わりだ。でも、それをしたらアヤメに失望されそうだ。ハジメは怒るだろう。やれやれ。仕方ない。伝令役、任されようじゃないか。雑用ならお手の物だ。
宿に着くなりハジメの部屋に行く。支度中だったらしく上半身裸で出てきた。誰かに見られたらマズくないかと思うが、とりあえずベニーさんに言われたこと、ベニーさんの様子、ギルドの様子を伝えた。途端に顔が明るくなる。何があるのか察したようだ。「すぐ支度する」と言ってドアを閉められた。なんで楽しそうなんだこいつは。
アヤメにも伝えに行くと、アヤメは既に支度を終えていた。こういうところはさすがだ。いつものように長い髪を後ろで束ねてポニーテールにし、革鎧も装着している。ハジメとは大違いだ。その反応も対照的だった。同じ内容を伝えたらアヤメは顔を曇らせた。俺と同じ考えに至ったようだ。ただ、すぐに目が鋭くなった。どうやら覚悟を決めたようだ。こういうところもさすがだ。
2人で宿の入口に行くと、すぐにハジメもやってきた。やる気に満ちた顔をしている。ここだけ見ると頼もしいのだが……いや、やめよう。こいつはこういう人なんだと諦めよう。
妙に足取りの軽いハジメを先頭に冒険者ギルドに行くと、さっきとは違い人で溢れかえっていた。受付にも受注の列ができている。ただ、その中で列のできていない受付がある。ベニーさんのいる場所だ。ベニーさんに話しかけたパーティーが奥の方へ案内されている。
ハジメは意気揚々とベニーさんの所へ行った。二言三言話して奥へ案内される。通されたのは教室くらいの大きさの会議室だった。そこには既に30人くらいの冒険者が集まっていた。彼らの着ている革鎧は戦いの記憶がしみこんでいるかのように使い込まれており、服や鎧の上からでも筋肉の盛り上がりが分かる。俺たちみたいに綺麗な革鎧にヒョロッとしたやつは場違いとしか思えない。俺たちの存在に気がついた何人かの冒険者に上から下まで見たうえで舌打ちをされた。怖い。
身を縮こまらせて空いている席に座る。こんな所に集めたからには誰かが来て何かを話すんだろう。ならば早く始めてもらいたい。非常に居心地が悪い。
それから何組か入ってきたところで入口のドアが閉められ、ドアの近くにギルド職員が立った。いよいよ始まるようだ。
しばらくして1人の男が入ってきた。会議室内の空気が変わる。それまではざわついていたのに一瞬にして静かになった。それだけの人物のようだ。緊張が走る。
「あー、ギルドマスターのヒメネスだ。予定があった者もいると思う。急に呼び出してすまない。まずは謝罪する」
深々と頭を下げているヒメネスを見て驚く。まさかギルドマスターだったとは。しかもギルドのトップが冒険者たちに謝罪している。こういう偉い人はもっと傲慢な感じかと思っていた。意外だ。
「それで、お前らを呼んだのは緊急依頼のためだ」
会議室内がざわつく。だが、それは驚きではない。報酬に対する期待、緊急依頼に呼ばれた喜び、戦闘に向けた高揚が混じっている。予感が的中して嫌な気分になっているのは俺くらいなものだ。
「静かに。最近、ゴブリンが街の周辺に現れなくなったのは気がついていたと思うが、原因が判明した。森の奥にオーガの群れがゴブリンどもを従えて集落を形成した。幸い、あの付近に人里は無い。だが、このまま放置していると確実に被害が出る。そうなる前に叩く」
ヒメネスが拳で手を叩くと冒険者たちが湧き上がる。
「集落を急襲するのは明日。闇夜に乗じて侵攻する。その指揮を執るのはBランクパーティーのオセロットだ。よろしく頼む」
オセロットという名前が出ると、会議室の前の方に座っていた男が立ち上がった。オセロット、山猫という名前のわりにはしなやかさが無さそうな大男だ。その男は会議室全体を見渡すように向き直ると口を開いた。
「知ってるやつもいると思うが、パーティーリーダーのイゴールだ。今回の作戦のリーダーを務めることになった。よろしく」
短く挨拶をすると、すぐに座ってヒメネスに続きを促した。
「ここにいるメンバーは今回の作戦遂行にあたって俺とイゴールが選んだ。今集められる最善のメンバーだと思っている。作戦内容はイゴールから聞いてくれ。俺からは以上だ。街の平和のために、よろしく頼む」
冒険者たちへの説明を終えたヒメネスはそのまま会議室を出て行った。残された冒険者たちがざわつき始めるが、イゴールがそれを制した。
「じゃあこれから作戦内容を話すぞ。静かにしろ」
ここから、各パーティーの役割と配置が説明されていった。




