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3話目 ユーステス・カデイル


「アルト・レイヴァーンどの!御覚悟ォッ!!」



 ――ブスリ!



 鋭い刃は柔らかいソレを切り裂きながら深くに刺さる。ソレはと言えば刃を抜かれる際に中の()()をボタボタと落としながら最終的に地に崩れ落ちた。



 ――アイツ、本当飽きないでよくやるなぁ。



 ん??今刺されたのはお前じゃ無いのかって?なんでそんなピンピンしてるのかって?……残念。今刺されたのは僕じゃ無いんだな。じゃ、なんなんだよ?って?……それはね、



「ユ〜ステスッ!!」

「うわああっ!アルトさまっ!!?」

「ん〜??今後ろに隠したのは何かな〜??」

「ダメですっ!!見ないでくださいっ!」

「僕に隠し事は無駄だよ!とりゃあ!!《影の盗人(シャドウシーフ)》!!」

「アアッ!!!」



 ……ほらね!やっぱりそうだ!

 7歳に成長した僕が新しく習得した技、《影の盗人(シャドウシーフ)》。影属性の魔法で魔法ランクは初級。本来の用途としては、陰からそっと自分の影を使い相手から物を奪ったり、取り返したり。そんな用途があるのだが、今のところはこの目の前の少年にしか使われていない。



 僕は視線をユーステスと呼んだ目の前でペタン、としゃがみ、両腕で木刀を抱き、涙目で僕を見上げる少年へと向ける。



「ユーステス、また僕の藁人形相手にひとり稽古してたの?」

「アッ、アルト様には関係ないでしょうっ!?」



 目の前の少年の名前は、ユーステス・カデイル。年齢は僕と同じ。7歳。なんと生まれた日も偶然一緒だ。僕の父であるハイネル・レイヴァーンお抱えの専属騎士団の騎士団長こと、ユーデウス・カデイルの息子だ。

初めて挨拶をした2年前、模擬戦をしたのだがコテンパンにしてしまったその日から今日まで、何かと目の敵にされているらしく、よくこうやって僕や周りの目を盗んで、屋敷の裏で僕に見立てた藁人形相手に稽古をしている。

 ……それ以外は断じて僕はなにもしていない。レイヴァーンの名にかけたっていいくらいだ。

 ユーステスに手を差しだし立たせながら少し意地悪したくなって、



「せっかくだから僕とも稽古しようよ。」

「いやです!!アルト様手加減してくれませんし!」

「してちゃ稽古にならないだろ〜?」

「負けたら父上に笑われるのはおれなんですからね!!?」



 と揶揄えば、ムキーーッ!!と地団駄を踏みながら手を解かれる。

 そのまま僕をキッ!と睨んだ後ユーステスは木刀を拾いながら騎士団の稽古場の方へと帰っていった。

 うーん、7歳児難しいな…。(※アルトもです。)



「アルトさまー!……こちらにいらっしゃったんですね!」

「やぁセラヴィさん。どうしたの?」



 僕が考え事をしているとセラヴィさんが近くにやってきた。



「お願いされていた今月の屋敷内の皆様の入浴頻度と洗濯回数の報告書をお持ちしました。ところでしゅ…アルトさま。これは何に使用するんですか?」



 ……おっと危なかったな…!

 セラヴィさんから報告書をもらいながらふと、数年前の出来事を思い出す。


 セラヴィさんは今でこそアルトさま呼びだけど、僕が一才になるまでは二人きりの時は前世の名前の柊二さま、と呼んでいて、それでちょっとした事件があったのだ。

 というのも、二人して部屋の中で今後のことを話し合ってる時、突然部屋の扉が開きメイド長が入ってきたのだ。



 『……??セラヴィ、貴女今誰と話してたの?なんか、シュージ様とかなんとか……。』

 『メリンダメイド長…!?あああああのそれはですね、わ、私の!!……? そう!私の作った物語を!アルトさまに聞いていただいていたのです!!』

 『そうなの?でも二人分声が聞こえた気がしたのだけれど…。』

 『それも私ですっ!!ほら、こうやってゴホン!……『こうしてシュージ様は悪いドラゴンを倒してその国の王様になりました。そんなシュージ様を見て国の民は名前を呼びながらみんな喜びました。…――シュージさまー!シュージさま!』……とこんな感じです!』

 『ふーん?登場人物の声を一人一人変えながらやってるなんて…。貴女って面白いのね。でもほどほどになさいよ?ちゃんとアルト様のお世話をすること!』

 『は、はい!すみませんでした、気をつけます!!』




 ……とまぁ、こんな感じで危なく僕が魔法で話せる事がバレてしまうところだったのだ。

 この一件があってから小声で話すようになったし、セラヴィさんもアルトさま呼びを定着させたのだ。……たまに戻るときあるんだけどね。



「…アルトさま?」

「あっごめんね、セラヴィさん。これで屋敷内の皆の清潔度が分かるんだ。今の所毎日お風呂…と言ってもお湯とタオルで擦ってるだけだけど…に入ってるのは僕とセラヴィさんだけだね。次点でメリンダさん。回数は月に6回…まぁ…これくらいは前世でもいたな……つ、次は…4回!?こっちは2回!?……気が遠くなりそうだよ…。」

「アルトさまっ!?大丈夫ですか!?」

「うん…先が思いやられるよ…。セラヴィさん、今は僕達だけでも毎日お風呂に入って清潔な衣服を着ようね。」

「はい!私達だけでも模範になりましょう!」



 なんでこの世界の人にはお風呂に入る・・・沸かしたお湯に浸かるっていう概念がないんだろうか。おかげで毎日お風呂に入る僕達は変わり者扱いだし、お風呂に入るためのお湯は自分達で沸かさなければならない。ん?()()()…?



「そうか、ないなら作ればいいんだ!!」

「アルトさま、なにを作るんですか?」

「セラヴィさんよくぞ聞いてくれた!!みんなお風呂に入るのはすごく汚れてからだよね、でもそれだと遅いんだ。ならすごく汚れる前に入りたくなるようにすればいいんだ。」

「……お言葉ですがアルトさま…。この世界の人たちの意識は相当な物ですよ?そう簡単に入りたくなるでしょうか…?」

「フッフッフ…!セラヴィさんは地球に来た事があるから分かるよね…?こ!れ!!」



「《創造せし者(オムニウム・レールム)》!」




 ――ズズズズッ……ゴゴゴゴゴ…!




「アルトさま、これって…!!湯船ですか…!?すごいです…!もうこんな魔法が使えるだなんて…!」



 セラヴィさんが驚きながらも僕が魔法で作った湯船を触りながらどこか興奮したように話だす。その間にその後ろにも魔法で簡易テントを作っておく。



「足も伸ばせますし、広さも申し分ありません…。これでお湯に浸かれたらさぞ気持ちいいでしょう…ね……?――ハァッ!!!?」

「気付きましたか、セラヴィさん…!!」



 セラヴィさんがアワアワしながら僕と湯船を何度も交互に見る。

 僕の狙いに気付いたようだった。そう、僕の狙いはこうだ。



「この世界には湯船がないんだよね…もったいないよね〜、あっついけどホッカホカで、ポカポカで。肩まで使った時のあの心地よさ………沸かしたお湯の気持ちよさを知らないなんてさっ!」

「…………!」



 バチン!と音が鳴りそうなほど大袈裟にウィンクをすれば目の前でピタ、と固まるセラヴィさん。



 ――ゴクリ、



 とセラヴィさんが唾を飲み込む音がここまで聞こえてくる。そして、



「流石です、アルトさま…!!あの快感はそう味わえるものではないですものね…!その気持ちよさを味わうために皆がお風呂に入る…!結果それが毎日の入浴に繋がる…と、そういうわけですね!!!」



 と鼻息を荒く熱弁してくれる。

 セラヴィさんが説明してくれた通り、皆の入浴頻度と回数を上げるためにこの湯船を使ってお風呂に入ることの素晴らしさを伝えるのだ。



「……でも…。」

「セラヴィさん?」

「いえっ、あの…なんでもありません。」

「……ダメだよ。僕とセラヴィさんは仲間でしょ?この世界を救うためのさ。遠慮はしないでなんでも言ってほしいよ。」

「……!そう、ですよね…!仲間…!!フフッ!それではハッキリと言わせていただきます。おそらく、気持ちよさを知ったら私たちの思惑通り頻度や回数は上がると思います…。ですが、皆そう簡単に入ってくれるとは思えないのです。」

「ありがとう、セラヴィさん。…その通りだよ。僕のいた世界でもお風呂に入らない、入りたくない人はたくさんいたんだ。それこそ、メンタルのせいでとか、病気のせいで、とかやむを得ない理由の人も沢山いた。」

「なら、どうやって…??」

「お風呂の良さを広めてくれる人が一人いるだけでいいんだ。」



 セラヴィさんが首を傾げる。それもそうだ。この世界の固定概念を変えよう、というのにお風呂に入る人が一人だけでいい、なんて。僕だって最初は悩むと思う。



「その人が一人、お風呂はすごいものなんだ、と別の人に言うだけでそこから芋づる方式で広がっていくと思うんだ。ましてや、お風呂に()()なんて経験をしたことのない人たちだ、気になるに決まってるよね!」

「……!確かに…!お風呂に入る、なんて一体どういうこと?って思って気になります!!でも、誰に広めてもらうんですか?」

「流石セラヴィさんだ。理解が早くて助かるよ。それなら問題無いよ。あてがあるんだ。さっきからそこの木の裏でコソコソ僕達の話を聞いてる悪い子がいるからね。――ユーステス!出ておいで!」



 そういいセラヴィさんの後ろにある少し離れた木に声をかければガサガサ…と音を立てながらバツの悪そうな顔をしたユーステスが出てきた。



「なぜおれがいることが分かったんですか!!」

「ちらちらこっち見てるのバレてたよ〜。」



 ガーーン!!



 とショックを受けた顔をしながら萎んでいくユーステス。

 うんうん。こういうところは子供っぽくてかわいいんだよなぁ。



「アルトさまのいうあてってユーステスさんのことだったんですね!」

「そう!ユーステスがいつも僕のことを見にきてるのは知ってたからね!」

「バレないようにしてたのに……!それまでバレてるなんて…!そんなのって…。」

「さぁユーステス、ここまで気付かないフリをしてあげていたお礼に言うことを一個だけ聞いてもらうからね〜!!」

「うわあああああああっ!!!!?」



 ガァッと両手をワキワキしながらジリジリとユーステスに近寄れば腰を抜かしてへたりこみ目をギュッとつむるユーステス。そんなユーステスの肩をポンと叩けば、想像すらしていなかったのかおそるおそる目を開けてこちらを見上げてきた。



「……??」

「あのテントの中で裸になってきて。」

「!!?!?!?!??」

「あっごめんごめん、腰にはこれを巻いてきてね。」

「〜〜!?!?!????!!!!??」

「さっ、ユーステス、GO〜!!」



 目の前で物が突然出てきたことに驚きすぎて声も出なくなってるユーステスの背中をグイグイ押しながらテントの中に押し込む。テントのジッパーを閉めながら、



「僕は準備があるから、出来たらこの取手を下に引っ張って出てきてね。さっきの所で待ってるから!逃げたら…分かってるもんね??」

「いっ、嫌だあああああっ!!!」



 なんだ、声出るじゃないか。元気でよしよし。

 そんなユーステスを無視して作った風呂桶のところに行く。



「いっ、いいのでしょうか…?ユーステスさん、泣いてましたよ?」

「ユーステスなら大丈夫。負けず嫌いだから僕に負けてたまるか!!ってなって出てくると思うよ。」

「なら、大丈夫ですね。」

「そうそう。えーっと、まずは…《水のせせらぎ(ウォーターボール)》……うん、いい感じ。後は…《小さな炎の咆哮(リトルファイヤボール)》……これを、この水の中に……出来た!!お風呂の完成だ!!」

「おお〜っ!!」



 パチパチパチパチ。キラキラした目でセラヴィさんが拍手をしてくれる。

 よ、よせやい…照れるじゃないか〜!

 コホン、と咳払いをしながら腕捲りをして温度を確かめるために腕をお風呂の中に入れる。



「……!あぁ〜…これだよ、これ…!!ん〜!!気持ちいい〜!!」

「あのっ!アルトさまっ、私も!私もいいでしょうか!」

「もちろん!」



 パァ!とセラヴィさんの顔が明るくなる。いそいそ、と腕捲りをしてお湯の中に腕を入れた時セラヴィさんも僕と同じで顔を蕩けさせていた。



「おふろ…入りたいです…。」

「ユーステスの後にならいいよ…。」

「ありがとう、ございます…。」



 二人でフニャフニャしていたその時だった。



「アルト様、これでいいんですか…!」



 と後ろから声がかかり、振り返れば上半身を隠しながら恥ずかしそうにしているユーステスがいた。



「おぉ〜ユーステス!着替えてくれてありがとう。そうしたらこの中に入ってくれるかい?」



 そういえば訝しげな顔をしたユーステスが口を開いた。



「これはなんですか?」

「お湯。」

「お湯!?火傷するじゃないですか!!クッ…これが今までのおれに対する罰ということですか…!!」

「違うよ!?お湯だけど人肌と同じくらいの温度にしてあるんだ。」

「なんのために…!?」

「いいからいいから。入ったら分かるよ。」

「えっ!?ちょっ、まってくださいっ…うわっ…!!」



 背中を軽くトン、と押せばユーステスが体制を崩してそのまま湯船にダイブする。



 バッシャアアン!



「うっ!!?熱い、あち、あちちっ…あれ?熱く、ない…?それより、なんだこれ…きもちー…。」



 トロリ、と顔を蕩けさせてユーステスが気持ちよさそうに柔らかく微笑む。

 そんなユーステスを見て僕とセラヴィさんはお互いに顔を見合わせてハイタッチをした。



「「やった〜!!」」

「!???」



 ビクッと驚いてこちらを見るユーステスの肩をポンと叩きながら感謝を述べれば、戸惑いながらも、



「ど、どう、いたしまして…?」



 と言っていた。

 どこか不服そうな顔なのは見て見ぬフリしておくことにする。



「ユーステス。お風呂、気持ちいい?」

「えっ、はい…気持ちいいです。」

「よかった〜!毎日入りたいって思わない?」

「入れるなら入りたい、ですけど…。」

「だよね!お風呂っていいことが多いんだ。まず、汚れが取れるし、リラックスができる。このリラックスにはいろんな効果があるんだよ。例えば…。」

「例えば……?」

「睡眠が深くなるよ。睡眠が深くなればその日の疲れが取れる量が多くなるね。」

「………。」

「それに、疲れが取れるってことは、次の日もっと動けるってことだ。つまり…。」

「つまり…?」




 ――ユーステスが僕に勝てるかもしれないね。




 そういえば分かりやすく顔を明るくした。

 ……いや、本当に分かりやすくてちょっと傷付く。とほほ。

とまぁ、僕の悲しい気持ちは置いておいて。喜んでいるユーステスに僕は提案を持ちかけた。



「そこでね、ユーステス。君も強くなりたいよね。僕に勝つためには、毎日お風呂に入る理由がなきゃいけない。そこでなんだけど、屋敷内のいろんな人に、僕が屋敷裏にお風呂を作ったって言いふらしてきて欲しいんだ。」

「俺が…、ですか?」

「そう、ユーステス。唯一お風呂に入った君じゃなきゃ出来ないんだ。皆に、お風呂は汚れを取るためだけじゃなくて、気持ちいい物だって皆に教えてあげて欲しいんだ。……頼めるかな?」

「出来ます!毎日ちゃんと入れればアルト様に勝てる…!」



 うぉおおおおおおお!!とやる気にみなぎっているユーステス。

 ちょっと複雑だけどまぁいいか。



「じゃ、今日から早速お願いね!」

「はい!!早速言ってきます!!」

「そのまま行くなよ〜?」

「ハッ!!忘れてました!!」



 そういい雄叫びを上げながらテントに走るユーステス。僕はセラヴィさんと一緒にガッツポーズをして喜んだ。



 よーし!世界改良計画のまずは一歩!うまくいきますよーに!!

ご覧いただきありがとうございました!読んでもらえて嬉しいです!


変なところは後々変えたりします!


風呂桶とは湯船を勘違いしてました!直しました!

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