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4話目 両親の説得


「アルト様っ!屋敷内のみんなに言ってきました!」


 

 まず先に大きな小屋を作り、部屋を区切る。それぞれの部屋に人が何人も入れるくらいに大きな湯船を作成する。その直後に情報を流していたユーステスが息を切らしながら戻ってきた。


 

「ユーステス、ありがとう。皆の反応はどうだった?」

「えっと…父上と母上が真っ先に反応しておりました。それ以外ですと、メリルダメイド長様と、フレニ執事長様が興味を示しておられます。」

「まぁ!ユーステスさん、すごいですね!アルト様、四人も興味を持ってくださいましたよ!これは幸先がいいんじゃないでしょうか!」

「そうだね!そしたら僕はお父様とお母様に進言してみようかな。二人はその間に屋敷内に生えてるサポンの実とオレープの実を集めておいてくれる?お願いしてもいいかな?」

 そう言えばお互い顔を見合わせた後頷いた後、

 


「「はい!!」」


 

 と、大きな声で返事をしてくれた。

 この二人は根が明るくていい子(セラヴィさんは天使だけど……。)だから案外相性がいいかもしれないな。

 

 集めた実を小屋の中に入れておくようにお願いした後、二人に背を向け屋敷内にある父の執務室を目指す。おそらくお母様も普段から父の手伝いをしているからそこにいるはず。


「アルト様、こんにちは。」

「こんにちは、フェリルー。」


「アルト様っ、こんにちは!」

「こんにちは。今日も元気いっぱいだね、モントン」


「こんにちはアルト様。今日はアルト様の好きなカウジーのお肉だよ。」

「こんにちは。本当?ソルベルの作る料理大好きだからすごく楽しみだよ。」



 執務室に着くまでの間に屋敷内の執事だったり、メイドだったり、料理長だったり。

 皆が僕を見ると声をかけてくれる。この屋敷の人達は皆とっても優しい。お父様ととお母様が優しいからかな?

 なにはともあれ、そんな優しい皆には健康でいてもらいたい。その為にも今回の作戦は是非とも成功させたい所だ。

 そんな風に思っているといつの間にか執務室の前についていた。意を決して部屋の扉を叩く。



 ――コンコン



「お父様、僕です。アルトです。」

「アルトか!開いてるから入ってきなさい。」

「失礼します。」



「ぅ…。」


 中に入ってまず臭ってくるのが鼻をつまみたくなるような悪臭。

 どうしてこの匂いに周りのみんなは気付かないんだろう?



「アルトがここに来るなんて珍しいわね、なにかあったのかしら?」

「なにか欲しい物でもあるのか?末っ子の願いだ、なんでも聞いてやろう。」

「でしたら、お父様、お母様。僕が作ったお風呂に入っていただけませんか?」


 

一瞬の沈黙。二人とも目をパチパチさせながら固まってしまった。


 

「……アルトが、作った、お風呂??」

「はい。魔法で僕が作りました。」



 先に口を開いたのはお父様だった。どっちも頭の上に?を浮かべながらも、僕の言ってる事を理解しようとしてくれているらしく、言葉を続けた。



「それは、構わないのだけれど…。アルト、貴方いつの間に魔法でそんな物を作れるようになったの?それにお風呂なら一応、入ってるわよ?」

「お言葉ですが、お母様。今の回数では足りないのです。それに僕が作ったのは湯船、という物です。」


 

「「湯船…??」」



 二人の言葉がハモる。地球にいた頃なら信じられない反応だ。

 この世界は本当にチグハグだ。地球と同じ名前をしていても、実際のところはそれを満足に使いこなせていないところとか。



「アルト、その湯船とはなんなんだ?どうやって使うんだ?」

「湯船とは人の身体がすっぽり入るくらいに大きな桶のことです。その桶の中に人肌まで温めたお湯を入れて服を脱いでから入ります。」

「なんと。それをすることによってなにかあるのか?」

「はい。効果ですが、その日にかいた汗を落としやすくなるだけでなく、疲れを取る効果もあります。疲れを取った後に寝れば深く睡眠を取ることができ、次の日の動きやすさに繋がります。お父様とお母様は毎日激務でいらっしゃいますので、その湯船に浸かっていただければ疲労の軽減に繋がるかと思われます。」

「まぁまぁまぁ…!アルトったらそんなに私達の事を想ってくれていただなんて…アナタ、早速使わせて貰いましょうよ。」

「そうだな。今は急な執務とかもないし…アルト、そこまで案内してもらえるかい?」

「是非!!」



 ……よしっ!やったぞ、思いの外すんなりお風呂に入ってくれることになったな。

 見えない位置で思わずガッツポーズを取ってしまった。これで第一関門は突破したような物だ。

 このまたと無さそうな機会を無駄にするわけには行かない。





「なっ、なんだ、この小屋は…!?いつの間にこんな大きな小屋を作ったんだ!?」

「昔から魔法が得意な子だとは思っていたけれどここまで立派な物が使えるとは思わなかったわ…!流石私と貴方の子ね!」

「そうでございましょう、旦那様、奥様。アルト様はすごいのです!!」


 フフン!と鼻息荒く話しだすセラヴィさん。

 ……どうしてセラヴィさんが得意げなんだろ?嬉しそうだから別にいいけど。


「お父様、お母様。そうしましたら、先にあちらにある二つのテントの中でそれぞれ服を脱いでいただいて中にある大判のタオルを身体に巻きつけてきてください。」


 本当は男性用の風呂場、女性用の風呂場と分けているけど、今回は二人でお風呂に入ってもらおう。その方が説明しやすいし。


 

「わかった。」

「ええ、分かったわ。」

「セラヴィさんはお母様のテントを、ユーステスはお父様のテントの取手の開け閉めをお願いしてもいいかな?」


 

 二人が頷いたのを確認した後、僕は一足先に小屋の中に入り、魔法でお湯を張り、取ってきてもらった実を使い、()()()()を作った。



「アルトさま、御二方の準備が整いました。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「うん!こっちも準備は出来たよ、入ってもらって。」

「かしこまりました。――旦那様、奥様、お入りください。」

「おぉ…!アルトが言っていた人肌に温めたお湯を入れた大きな風呂桶――湯船とはこれのことか?」

「すごいわ!人が何人も入りそうなくらい大きいわ…!これに入ればいいのね?ね、アルト、本当に熱くないの?湯気がすごいわよ?」

「はい、大丈夫です。火傷もするような温度ではありませんし、――なにより本当に気持ちいんですよ。」


 

 そう言って隣で待機してるユーステスに目を向ければそれに気付いたユーステスが左右に目線を動かした後、オズオズ、と言った形で口を開いた。


 

「あの、旦那様、奥様…アルト様が作ったこのお風呂は、とっても気持ちよかった、です…!」

「ユーステスが言うなら間違いないな。こういうのは大人よりも子供が言ってることの方が信じられる。」

「そうね。ユーステスは素直な子だもの。そしたら、入るわね……!」



 ゆっくりと二人がつま先からお風呂の中に入る。そのまま肩までお湯に浸かると普段の両親からは聞いたこともない声を出した。



「「あぁ〜………。」」



 そのまま目を瞑りユーステス同様にトロトロとした顔をしたかと思えばそのまま話さなくなった。



「お父様、お母様、どうでしょうか?熱くはないと思うのですが。」

「…………はっ、危ない、あまりの気持ちよさにこのまま寝てしまうところだった。」

「…………………………。」

「お母様??……お母様っ!?」

「…………る。」

「気持ちよすぎる。気持ちよすぎるわ。なんなの、これは。」



 ……ビビらせないでくれ!!一瞬良くない想像が脳をよぎったじゃないか!!

 ふぅ、と胸を撫で下ろしポッケに入れていた()()()()を取り出した。後ろからそれを見ていたセラヴィさんとユーステスも不思議そうに僕の手を覗き込んでいた。

 


「アルトさま、それは?」

「これ?これは石鹸だよ。」

「なるほど、石鹸でしたか!もしかして、さっき私とユーステスさんが取ってきたサポンの実ですか?」

「そうなんだ!それを魔法で加工したんだ。お父様はこっちで、お母様のはこっちです。お母様のにはオレープの実から絞った油脂が入っているのでお肌がモチモチするハズです。」

 


 そう言って二人の手のひらに石鹸を乗せたその時だった。二人に両腕を掴まれビックリして顔を上げればそこには大きく目を見開いた二人がいて。



「アルトにセラヴィ、二人してなに当たり前のように石鹸の話をしているんだ…??」

「「えっ??」」

「そうよ、石鹸なんて……!貴方達、貴方達…!!」


え!?なんかマズいことをしてしまったのか!?もしかしてこの世界では石鹸の作成が禁止されているのか……!?

 驚いてユーステスの方を見れば何故かユーステスもアワアワしていて話にならなそうだったので、僕は意を決して二人に声をかけた。



「……僕、もしかして、いけない事をしてしまったのでしょうか……??」



 そういえば僕がビビっていることに気付いたのかハッとした顔をしたのちに普段の優しい顔になりながら話し始めた。



「あぁ、別に怒っているんじゃないんだ。そうじゃなくて、石鹸は生産できるのがユーデリアン魔法国だけで、その希少性から値段がとんでもなく高いんだ。だからそれを作ったなんて言うから、驚いてしまったんだよ…。」

「そうなのよ。貴族の女性の間では石鹸は憧れのものなの。それを使えば、なんでも手が光るほどに美しくなるとかそういうので。」

「魔法が使えれば誰でも作れますが…?」

「「エッ????」」

「ですので、お父様、お母様でも作ることができます。」



 二人がポカーンと口を開けていた。それに笑いながらも石鹸の使い方を説明する。



「ハハッ…お父様、お母様、風呂桶から出ていただいてよろしいですか?……はい、そうです。そうしたら、その石鹸に水をつけて、それを両手で落とさないように擦ってください。次にその出来た泡を頭に乗せて、泡を頭皮と髪全体になじませて…あとは泡をタオルにつけて、それで身体を擦ってください。」

「こっ、こうか…?」

「こう、かしら?」


 次第に全身が泡まみれになる両親。

 はは、アルパカみたいだ。お父様なんて口の中に入って苦くてペッペってしてる姿もそっくりだ。そんな二人を見てセラヴィさんとユーステスもクスクス笑っていた。



「頭はもっと、泡がよく立つまで揉み込んでくださいね、頭皮の汚れは厄介ですから。」


 コクコク、と頷く二人。

 ……うん、そろそろいいだろう。



「はい、そうしたら、この小さい風呂桶で湯船の中のお湯をすくって頭からかけてください。この時、泡が目や口に入らないように閉じていてくださいね。」



そういえば二人は強く目と口を閉じてゆっくり頭からお湯を流した。

 流し終わった後、何回かそれを繰り返させる。

 ……よし、泡のヌルヌルも取れた頃だろう。


「どうですか?身体がサッパリとしていませんか?お湯を浸したタオルで擦るのとは比較にならないくらいだと思います。」

「すごい…!こんなお風呂の仕方があったなんて!アルト、お前はすごいなぁ!!なあ、ルミナ!」

「えぇ、本当に、ほんっとうに凄いわ!貴方、見て、お肌が本当に光るくらいピカピカよ!!」

「すごい…!石鹸って、こう使うものなんだ…!」



 両親とユーステスがキラキラした顔で感心している中、僕とセラヴィさんは計画がうまくいって二人でハイタッチした。



「そうしたら、最後はもう一度湯船に浸かってください。」

「え、また入っていいのか?」

「もちろんです。是非気の済むまで入ってください。……といってものぼせてしまうので100数えたら上がってくださいね。」

「「「のぼ……??」」」


 しまった、のぼせる、って言葉は無いのか…うーん、なんて説明すれば………あっ、そうか。



「茹でられた魚みたくなってしまうので、長くは入らないでくださいね。」


 そういえば三人とも驚いた顔をしながらも納得していた。

 その後、お風呂から上がった二人にフカフカなタオルを渡せば、それに顔を埋めながら「「フワフワだ…。」」と呟いていたのは少し面白かった。



 セラヴィさんとユーステスにまたテントまで案内してもらって清潔な服に着替えてもらう。

 出てきた二人はホカホカしたどこか恍惚そうな顔をしていた。



「あれは、すごいな…これは、屋敷内の者にも使ってもらいたいな…アルト、構わないか??」

「特に、石鹸はすごかったわね…!お肌がすごくモチモチしてるわ。」

「もしよろしければ、こちらもお使いください。オレープの実の油です。普段は料理などにしか使っていませんが、手のひらに数滴垂らしてそれを薄く肌に伸ばすと、肌に蓋をしてくれて、水分を逃さず更にモチモチになります。」

「アルトッ…!貴方って子は本当に天才ねっ…!」

「わわっ!!?」



 ギュウ、とお母様に抱き締められる。サポンの実の爽やかな匂いがしてすごく、安心した。お父様も優しく抱き締めてくれて、ふと、赤子の頃を思い出した。

 あの時は二人に失礼だ、と承知の上でその腕から逃げていてまともに抱っこされたことがなかった。

 流石に今は大きくなって抱っこは難しくなってしまったけれど、いい匂いになった今、二人を抱きしめることができる。

 一人一人、背中に腕を回して抱き締めれば目からポロ、と涙が溢れた。

 ……中身は大人だから、と思って抱き締められなくても悲しくなんて無い、と思っていたけれど、そうではなかったらしい。

 セラヴィさんとユーステスに気付かれないように泣いたつもりだけどもしかしたら気付かれていたかもしれない。



 ――それでも、今だけは。今日だけは。



 二人に甘えよう。そう思ってしまったんだ。



 


 

お読みいただきありがとうございます!


語彙が変なところがあるかと存じます。作者が気付いた場合は直しておりますが、変なところがありましたら申し訳ございません。

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