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2話目 アルト・レイヴァーン


貴族の暮らし、といえば普通ならどんなのを想像するだろう。

 ――豪華なドレスや、装束。ごつごつとした大きい指輪にゴテゴテのバッグ。素晴らしい見目の料理からデザート。

 ……そんなのを想像するんじゃないだろうか。僕もこの世界に来るまではそうだった。

 認識が甘かったのだ。謁見の間でガイアラルフさんが言ってた破滅、という単語の意味について深く考えていなかった。いや、その通りであるのもおそらく確か。でもそれが起こるのは本当にギリギリの200年後なんだろう。

 まさかこういう意味でも破滅に向かっているとは思っていなかった。


アルト・レイヴァーン。それが今世での僕の名前らしい。

つい半年ほど前に僕は生まれた。生まれた瞬間産声をあげたかと思えば雷に打たれたかのように黙りこくり、その場にいた母と父、乳母の3人に衝撃を与えた。

……しょうがないじゃないか!!いきなり記憶が蘇ったんだもの!!驚いて声が出なくなっても当然じゃ無いか!!


「アルト〜!お父様が帰ってきましたよ〜。」


 そう言い僕に手を振ってだらしない顔を見せるのはこの世界での僕の父、ハイネル・レイヴァーン。一応この屋敷の主人だ。



 ――プイッ!


 思わず顔を背けてしまう。決して嫌いだからじゃない。むしろたくさんの領務をこなした上で、疲れ切った体に鞭を打ってまで会いにきてくれるのは嬉しい。愛してくれているのが伝わってきてすごく嬉しい。――しかし。しかしだ。


「アルト〜…どうしたんだい、顔を背けて…ご機嫌斜めかい?」


 ――違う!あんたが臭いんだよ!!

 なんとこの世界。お風呂に入る、という当たり前のことをする習慣がないのだ。

 ヒョイ、とゆりかごから僕を抱っこする父。

 やめてくれ!近づいた事でますます匂う。この、なんだろう、普段生活してれば嗅ぐことのない匂い。


「だぁう!!」


 思わず顔を顰めて腕の中で精一杯距離を取れば、またも悲しそうな顔をする父。

 お風呂に入って洗った服を着たあとなら喜んで抱っこされるよ!


「ルミナ〜…アルトがご機嫌斜めだよ〜……。」

「あらあら。……本当だわ、眉間の皺がすごいわ。何が嫌なのかしら〜?」


 2人分の体臭によりさっきより一層辛くなってるだけです。

 そんなことを思い足と腕を目一杯使って2人から距離を取っていると、父が何かを思い出したかの様に口を開いた。


「あ!そうだった!部屋の外に新しいメイドを待たせているんだった!……おーい、入っておいで。」

「……??」


 顰めっ面のまま、父の腕の中で待っているとドアが開いて中に1人の女性が入ってくる。その女性は自分の足元に荷物を置き頭を下げた。

 あれ…?なんかどっかで見たことがあるような、ない様な。どこだっけ、あの黒の三つ編みを両耳の下で結んでるのって………ハッ!!?


「失礼致します。……初めまして、奥様。私はセラヴィーナ・ララクロワと申します。本日よりアルト・レイヴァーン様の専属メイドをさせていただきます。よろしくお願いいたします。」

「貴方が旦那の言っていたメイドのセラヴィーナさんなのね!こちらこそよろしくお願いしますわ。」


 やっぱり!セラヴィさんだ!まさかこんなところで出会えるとは…!もしかして、セラヴィさんが言ってたやらなきゃいけないことって、こういうことだったの!?


「アルト様も、よろしくお願いいたします。」


 セラヴィさんが近付いてきてお辞儀をする。その時に、フワ、と優しいリネンの匂いがして目を見開く。

 そのまま手を伸ばしセラヴィさんに近付こうと必死にもがいた。


「おぉ!アルトもセラヴィーナさんが来てくれて嬉しいんだな〜!そしたら、セラヴィーナさん。君の部屋の用意はメイド長にしておく様に言ってあるから落ち着いたら早速今日からアルトの世話をしてくれ。よろしく頼むよ。」

「かしこまりました、旦那様。」


 その後すぐに部屋を出ていったセラヴィさん。顔見知りがいて本当によかった。最高神様たちの前であんな啖呵を切ったけれど1人でやるには限界があると思っていたところだったから。

 1人じゃない、と安心したからなのか、それともこの身体が限界なのか分からないけどいきなり睡魔が襲ってきた。


「ん?どうした、眠くなってきたか?…よく眠りなさい、アルト。大きくなるためにはやはり睡眠が一番だからな。」

「もしかしてさっきも眠かったからグズってたのかしら?おやすみなさい、アルト。」

 父と母に頭を撫でられて意識が落ちかける。

 ダメだ、これから僕は……セラヴィさんと………。






「ウ…。」


 パチ、と目を開ける。今は昼過ぎ位らしく、窓から見える太陽が真上にいた。

 どうもこの身体は睡眠が必要な様ですぐに眠くなって困る。それはそうと寝る前に僕は何をしていたんだっけ?父と母のバッドスメルから逃げるために足掻いていた時に、セラヴィさんと会って――そうだ!セラヴィさん!!セラヴィさんはどこだろう。

 まだ、ハイハイは出来ないので目だけキョロキョロ動かして部屋の中を探す。

 窓際!――いない!ドアの近く!――いない!机の近く!?――いない!――いないじゃないか!おかしい。僕が見たのは僕の願望が現れた夢の中のセラヴィさんだった…?

 そう思って半分諦めた時だった。


 ――ガチャ


 と部屋が空き誰かが入ってきた。


「柊二さま…!起きてらっしゃったのですね…!お久しぶりです、セラヴィです。」

「だ、う!(セラヴィさん!よかった!セラヴィさんだ!)」

「あまり時間差なくこっちに来れた様でよかったです!柊二さまに会えてよかった…!」

「あ〜う〜!!(僕も会えてよかったよ!)」


 セラヴィさんが僕の手を優しく握る。夢だったらどうしようかと思ったよ。

 あうあう言いながら笑っていると何かを思い出したかの様にセラヴィさんが話しだした。


「そうでした!こっちにくる前にガイアラルフ様に伝言を伝える様言われておりました。僭越ながら、失礼します。あー、あー…コホン。」


「拝啓、黒川柊二くん。そちらの世界にはもう慣れましたか?こっちの世界ではラグナルドが周りの最高神達につめられたあと、唯一神にこっぴどく怒られていました。それは重畳。して、本題ですが今頃はどうしたらいいのか…など迷っているころだろうと思います。まずは一つ、ステータスを見てみてください。貴方の使える魔法など、ありとあらゆる全てが見れると思います。」


「だぁう…?(ステータス?)」


 ステータスを見ると言っても見方が分からないんじゃどうしようも……。そう思っていると、セラヴィさんが「ステータスオープン!で大丈夫ですよ!」と教えてくれた。

 なるほど、そうやるのか。それでは、早速…。


「だやーやゆ、よーゆゅ!("ステータスオープン"!)」



 アルト・レイヴァーン

 【種族:ヒューマン】

 【年齢:0才】

 【性別:男】

 【Lv.0】

 【HP:2600000/2600000】

 【MP:50000000/50000000】

 【使用可能魔法:多種のため表示不可。現在簡易的に表示しております。各種初期魔法、中級魔法、上級魔法、???、その他(※レベルアップに応じ使えるものが増えます。※レベルアップに応じステータス画面のサイズ調節も可能になります。)】

 


「「………。」」


 ――は?なに?この馬鹿げたステータスは。そりゃガイアラルフさんも怒るわけだ。最高神様のステータスをまるまる渡してるのだから。


「話は伺っておりましたが、まさか、ここまでとは…。」


 だよね!?僕の反応間違ってないよね!?思わず2人で顔を見合わせる。

 まぁ、これからしようとしていることを考えれば、ちょうどいいのかな?……ちょうど…いいのか?これ…?




 


「やっぱり、これ、ついてしまいましたよね…。」

「う…??」

「額のアザです。前世の時烏になった私がつついた跡です。」


 そういい悲しそうな顔でセラヴィさんが僕の額を触った。


「あぅ……。(セラヴィさん…。)」

「あの時、私が…舞い上がってなければっ…!」


 ――気にしないで。


 そう言いたいのに今の僕ではどうすることも、できない。一言だけ。気にしないで。そう言えれば。

 ……言葉を、伝えられる方法があれば、いいのに。


 ――ん??()()()()()()()()()()?()


 ……そうか!僕は赤ちゃんで喋れないけど、この口で喋るんじゃなくて、()()()話しかければいいのか…!!そうと決まれば…!

 僕は自分の前に手を伸ばしながら唱えた。


「あぅういう!(ボイスリンク!)」

「柊二さま!?どうなさったんですか?」

「………!」


 身体の中に何かが巡るのが分かる。血管の中を行き来する様に全身を巡ってお腹の中に溜まっていく。それが落ち着いた後に大きく息を吸った。そして、僕は()()()()()


「……セラヴィさん。」

「………………ええええええっ!!!!???」


 でっか!!!?セラヴィさん声が大きすぎるよ!?それにその顔!!!驚きすぎて目ん玉落ちそうになってるよ!!?


「しゅ、しゅしゅ、しゅうじ、さ、ま…??いっ、いいいいい今っ…!!??」

「……僕もびっくりしてるよ。まさかこうも上手くいくとは思わなかったけど。」

「ひゃああああああっ!!!?柊二さまがっ!!!話してるううううっ!!」

「!?セラヴィさん!?なんて声出すのさっ!!?シーーーっ!!!今騒いで他の人達が集まったらどうするのさっ!」

「っ!!!っっ!!!!!?」


 うん、ちょっと変だけどさっきよりはマシな驚き方になってる。

 それからセラヴィさんが落ち着くまで待った後、話をした。



「……なるほど!!流石柊二さまですね…!その様なことを思いつくとは…!」

「いやいや、僕はそんな大層なことしてないよ…地球の漫画の請け売りだし…。」

「それでも咄嗟に思いつくのがすごいんですよ…!」

「……ありがとう、セラヴィさん…。そう言ってもらえてすごく嬉しいや…。僕、周りの人より知識だけはあるんだ。でも実践レベルとかじゃなくて、あくまで物知り程度で…。だから嬉しいよ。」

「柊二さま…。」


 セラヴィさんが悲しそうな顔で僕を見る。

 ……あぁ、違う、違うんだ…。そう言う顔をさせたい訳じゃないんだ。

 僕が口を開こうとしたその時だった。いきなり、


 ――バンッ!!!!


 と大きな音を立てて部屋のドアが開き、人が入ってきた。


「アルトォーーーーッッ!!おにーーーちゃんだぞっ!!」

「アスタ兄さまっ!!!おとうさまとおかあさまにアルトは寝てるから静かに、といわれたじゃありませんか!!!!」

「アリルのがうるさいぞ!!!」


 どっちもうるさいんだけど!?

 部屋の中に入ってきたのはこの世界での僕の兄で、長男のアスタ・レイヴァーンとアリル・レイヴァーンだった。

 この2人もまた、お風呂にはあまり入らず、匂いが強かった。それでも末っ子の僕を可愛がってくれてるのは分かるので、抱っこしようと伸ばしてきた手に甘んじようと思ったその瞬間だった。


「う…!?」


 まさか…!まさかこの2人っ…!!


「だっ…だぁ、う…!?!?」


 ――手を洗っていないっ…!?!?遊んだ後に手を洗わないでここまでっ…!?やっ!やめてくれっ…!その手で触らないでくれっ…!。

 ギュ、と目を瞑って覚悟した瞬間だった。


 フワ、と身体が持ち上がり目を開けてみれば、セラヴィさんが目の前にいて、抱っこされたのだと知る。ちらり、と薄目で下を見れば、悲しそうな顔をした2人がいた。


「こーら、お兄様方。アルトさまは今先ほど眠りについたばかりですのよ?」

「ごめんなさい…。でっ、でも…!」

「どうなさいましたか?」

「ぼっ、僕たち、アルトにお花を摘んで来たんだ、見てほしくって…!」


 そう言ってアスタ兄様がズボンの中から綺麗な淡い紅色の花をを出す。それに併せてアリル兄様も後ろ手に持ってきていた黄色の花を差し出してきた。


「まぁ……!とても綺麗なお花ですね…!これをお二人が?」


 コクン、と頷く2人。

 そうか…花を探してくれてたから手が汚れていたのか…。


「アルトさまも、きっとお喜びになられますよ。起きたら、もう一度見せていただけますか?」

「!!うん!!アリル、行こう!枯れないように花瓶に差しておこう?」

「はい!アスタ兄さまっ!!」


 じゃーねぇ、アルトーー!!

 そう言いながら元気に走り去っていく二人。


「……セラヴィさん、ありがとう。」

「ふふ、いいお兄様方ですね。」

「…そうだね。」


 ……今はまだこんなに小さいけれど。やれることを精一杯やらなければ。強くそう思った。まずは、目の前のことを解決することから。


「……セラヴィさん。」

「はい?如何いたしましたか?柊二様?」

「……僕は、セラヴィさんとあの時あそこで会った事を後悔してないし、これから先も後悔することは絶対無いよ。むしろ、今は逢えてよかったとさえ思ってる。……だってこんなに素晴らしい家族に巡り逢えたんだもの。……だからさ。」

 

――私が、なんて後悔しないでよ。セラヴィさんの()()()、だからね。


 そう言えばセラヴィさんは目を見開いた後、優しく僕をベッドに下ろして顔を覆って泣き始めた。


「あの、時…私は舞い上がって天使の祝福を授けてしまったんです。その後に、あんなことがあって…。わたしっ…!どうしよう、って…!」


「ありがとう、ございますっ…!」


 顔を上げたセラヴィさんは泣きながら笑っていて。

 …あぁ、この人も優しい人なんだなぁ、と思った。

 その後もセラヴィさんは泣いていて、他のメイドさんがご飯を持ってくる直前に泣き止んだのだが、顔が真っ赤になっていて驚かれていた。


 


「……ちなみに、天使の祝福ってどんなのなんですか?」

「幸せな事が起こりますように、っていう願掛けみたいなものです。」

「……じゃ、今だ。」

「ま゙だそうや゙っ゙てな゙かせる゙ううう〜っ゙っ゙!」

「あははっ。」


 僕の人生はまだ始まったばかりだ。

ご覧いただきありがとうございます!

少し(いやかなり?)展開が早いかもなぁ、と思ったのですが書きたい欲が強いのでこのまま突っ走ります!

自分で読んでて???となった部分は随時直していきます!

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