1話目 最高神との対面
1話
「……ん…。あれ…。」
意識が覚醒して目を開ける。視界に広がる白。身体を起こして周りを見る。
――何も、無い。
見渡す全部が白い。
なんだここ、なにか無いのか!?てかここどこだよ!
ベットに寝ていたんだと思っていたけれど、僕は何も無い真っ白な空間に横たわっていたみたいだ。
立ち上がってその場を探索してみたけど何も無い。
その後も歩き回ったけど何もなかった。
ここは本当に何処なんだろう?手掛かりになりそうな物も見つからないな…。まぁ、このまま見つからないものを探しても体力がもったいない。
とりあえずその場に座り、ここに至るまでの経緯を整理してみた。
1個目のバイト終わり、次のバイト先に向かう途中、ゴミ捨て場で変な小烏に会う。
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その変な小烏にパンの耳をあげた後に、小烏に額を嘴で突かれる。
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小烏は飛び去り、僕だけが取り残されるも、特大花火の音で我に帰り、次のバイト先に急いで向かう。
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バイト先についた時、事件が起きる。
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その事件を引き起こした犯人が、地上のもつれの延長線上で、勘違いして赤の他人の僕を刺す。
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その際、意識を失い、その後目を覚ます。
↓
今ここ。よく分からない真っ白でだだっ広い場所にひとりぼっち。
……うん!整理しても全く分からん!一体全体どうなっているのか。むしろ整理したせいで余計にややこしくなった気さえする。ここが病院でないことは分かった。
「うーん…病院でないとしたらここは一体どこなんだろう?……まさか死後の世界とか!?」
「せいかーい!正しくは神界の謁見の間、だな!」
「ぎゃああああっ!?」
なっなんだ!?びっくりして変な声出しちゃったじゃないか!
声のした後ろを振り向けば白い布を纏い、背中に大きな翼を携えたイケメンがいた。
そのイケメンは僕を見るなり、イタズラが成功した子供のように笑いながら、
「なかなか起きないから何も説明しないで異世界に転生させようか悩んでたとこだったんだ。運いいな、お前!」
と僕の肩をバシバシ叩いた。
なんか今聞き慣れない単語が聞こえたような。
ちょっ、この人力強いな!!
「いたっ!やめてくださいよ。貴方誰なんですか!?それより異世界転生ってどう言うことですか!?」
「ん?言葉のまんまだぜ?俺は神様で、お前を転生させてやろうって言ってんだ。」
だからそれの意味が分からないって言ってるんですけど!?神様ってのは話通じないんですかねぇ!!?
僕の肩を叩く神様の攻撃をかわしていると突然、
「やめないかラグナルド。お前はその面倒くさがりを直せ。普段ならまだしも、今回は仮にもこちらがお願いする側だろう。説明できないと言うのなら話は別だがな。」
と、どこからともなく声がしたかと思うと頭上にフ、と影が落ちて、気づいた時には目の前に美しい青の長髪のイケメンと二つの黒い三つ編みを両耳の下辺りで輪っかに結んだ、可愛らしい女の子がいた。
……この人たちもまた美形なのか…。別に羨ましくなんてない、決して。断じて。
「お初にお目にかかる。私はガイアラルフ。そこのラグナルドと同じく神だ。こちらは天使のセラヴィーナ。」
「初めまして、黒川柊二様。セラヴィーナ、と申します。気軽にセラヴィ、とお呼びください。」
最高神?天使??さっきの説明も理解していないのにそんなこと言われて理解できる訳がない。まずはさっきの異世界転生、そっちを解説してください!
1人で困惑しているのが伝わったのか、青髪のガイアラルフ、と呼ばれた男性が深いため息を吐いた。
「ラグナルド…貴様、私たちが来るまでの間何をしていたんだ?」
「んだよ、うっせーな。ちゃんと説明したっつーの!な?」
してないしてない。思いきり肩を叩きながら自分は神だーだとか、異世界だとか、転生させてやるだとか言われたのは覚えてるけど、それしか言われてない。
思い切り顔を横に振り、縋るように前方の2人に目をやれば青髪の男性は呆れたように額に手を当て、女の子はオロオロと困ったようにこちらと自分の隣を交互に見ていた。
「……私が説明しよう。早速だが黒川柊二くん。君は――…」
「死んでいる。」
……やっ、ぱり…、か…。こんな所にいて、目の前に神様がいるなんて、普通じゃないもんな…。薄々勘付いてはいたけど、少し…堪えるな…。
「…私が、あそこにいたから、こんなことになって、しまったんです…申し訳ございませんでした…っ!!」
……セラヴィ、さんがいたから?セラヴィさんとは初対面なはず。天使の知り合いなんていたことないんだけど。
「失礼ですが、僕たち何処かでお会いしたことありましたっけ…?」
そう僕が恐る恐る聞けば、セラヴィさんが隣のガイアラルフさんを見上げ、頷いたのを確認した後、意を決したようにこちらを見た。不思議に思い首を傾げていると、
――ポン!
と、小さな音を立てて、煙が上がった後、足元に既視感のある小鴉がいた。
「あっ…!キミは、あの時の…!」
「そう。あの時君が餌をあげた烏はセラヴィだったんだ。セラヴィはそのせいで君が亡くなってしまった、とあの場にいた自分を責めているんだ。」
…それは違う。仮に小鴉になったセラヴィさんがいてもいなくても、僕はきっとこうなっていた。
フルフルと小さい身体を震わせているセラヴィさんの前にしゃがんでその背中を優しく撫でる。
「気にしないでくださいね。確かに死んじゃったのは辛いけど、貴女があそこにいなくても僕はあそこのゴミを片付けててきっと同じ時間でした。…だから、死んじゃったのは貴女のせいじゃない。」
「…黒川、さま…!うぅ、グス…!」
セラヴィさんの目から大粒の涙がポロポロ落ちる。……こんなに泣くくらい悩んでくれてたのか…。誤解が解けてよかった。
そう思いながらセラヴィさんの背中を撫で続けていると、ガイアラルフさんが話し出した。
「…君は本当に優しいんだな。」
「…はい?」
「そうなんです!ガイアラルフ様もそう思われますか!?」
うわっ、びっくりした!
思わず手を離せば、また音を立てて煙が上がり、元の姿になり目をやたらとキラキラさせるセラヴィさんがいた。
「ふ…そうだね。セラヴィ、君の言葉にどうやら偽りはないようだね。地球での善行も見たが、こんなに心が広いとは思わなかったよ。」
「だ〜っ!!お前らいつまでこんな茶番やってんだ?人が黙って見てりゃチンタラチンタラしやがっ…でっ!!?」
ドゴッ!プシュウウウ…
「誰の尻拭いをしてやってると思ってるんだ!だいたいラグナルド、貴様がちゃんとしていればこのようなことにはなっておらんのだぞ!!」
「だからって殴る馬鹿がどこにいるんだ!!そんなだから神界でも堅物なんて言われんだぞ!!やーいやーい!堅物ー!石頭〜!朴念仁!!」
子供だ…!叱られて火に油を注いで更に怒られる子供だ…!
そんなことを叫ぶラグナルドさんを無視したガイアラルフさんが話しだした。
「そこで本題なんだが、黒川くん。君にはこの馬鹿の創造した世界に転生してもらいたいんだ。」
「それ、さっきから言ってるんですけど転生って…いや、言葉の意味は分かるんですけど…仰ってることの意味がよく分からなくて…。」
「それも無理はない。というのも、私とコイツは神界でも上の役職で、一応最高神、というものをしているんだ。」
最高神…神様の中にもランクとか、そういうのあるのかな…?
など呑気に考えていたが次の一言で僕は凍りついた。
「その最高神は一柱につき一つ、自分が治める世界を作るんだ。私が作ったのが地球。そしてコイツが作ったのが、ハーミルトン。そんなハーミルトンだが今現在、コイツが管理を怠ったせいで……」
「――破滅に向かっているんだ。」
「は、めつ…ですか…?」
ガイアラルフさんとセラヴィさんが目を伏せながら頷く。当のラグナルド本人はというとこちらもまた、気まずそうにそっぽをむき口笛を吹いていた。そんな態度にムカつき、思わずラグナルドさんに詰め寄る。
「破滅まで、どれくらい――いや、破滅まで何年残ってるんですか……!?破滅すると、その世界の人たちはどうなるんですか…?」
「落ち着いてくれ、黒川くん。幸いまだ向こう200年は安心できる。ただ、このまま何もしなければ、ゆっくり破滅に向かってしまうんだ。」
それを聞いて胸を撫でる。今すぐではないのであれば、まだ挽回の余地があるかもしれない。
「ガイアラルフさん、破滅してしまうとその世界の人たちはどうなってしまうんですか?」
「……このまま破滅に向かえば、ハーミルトンの者たちは対立の上お互いに殺戮の果てに絶滅してしまう。本来はそうなる前に預言としてその世界の伝道者に伝えるんだがな。」
「……。」
言葉が見つからない。最悪なことを考えて頭がクラクラする。
このラグナルドとかいう神、人のことをなんだと、思ってるんだ。ガイアラルフさんが僕のいた地球を治めている、ということはそのハーミルトンにだって、僕と同じように自分の意思や感情のある人たちがいるってことなんだぞ。アニメや漫画みたいに、バッドエンドです。で済む訳じゃないんだ。
「……す。」
「こんなことを頼めるのは、君しか…――黒川くん?」
「僕が!ハーミルトンを変えます!!変えてみせます!!」
思わず口からその言葉が出ていた。考え無し、と言われてもしょうがないと思う。……でも、その世界の人たちのことを考えたら迷っている暇はなかった。
「黒川様…!!」
「黒川くん……!君なら、そう言ってくれると思っていたんだ…!」
ガイアラルフさんとセラヴィさんが泣き始める。ワァ!と泣き出すセラヴィさんとは対照的に静かに声を押し殺すように泣くガイアラルフさんに少しだけ苦笑してしまう。ラグナルドさんはと言うと僕が了承すると思っていなかったのか鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「――え?このままの転生ではないんですか?」
「そのままだと魂が地球と繋がったままだからね。一から転生させて君の魂をハーミルトンに順応させなきゃならないんだ。」
そうなんだ。その世界に応じた魂ってのがあるんだな。世界ってよくできてる。
1人で感心していると、空中で何か書類らしきものを書いていたセラヴィさんが顔を上げて、
「ハーミルトンはガイアラルフ様に負けるまいとラグナルド様が色んな種族を作りましたからね。魔法とかもあるので地球の方の魂は負荷に耐えられないのです。」
とラグナルドさんの方を意味ありげに見ながら言った。
へー!理由がわかるとなんかスッキリするな。
「そういうことだ。だけど、安心してくれ、地球の頃の記憶は生まれた瞬間に思い出す様にしてあるから。それにセラヴィ。」
「はい、ラグナルド様。」
「今日で君はラグナルドの補佐を解消する。本来は他の最高神の使いを勝手に解消することは許されないのだが――唯一神や他の最高神からも許可は得ている。君は今日から黒川くんとハーミルトンの世界復興に勤めなさい。」
「御意。拝命いたします。」
その言葉の後セラヴィさんが書類らしきものをガイアラルフさんに渡す。
「なんですか?それ。」
「あぁ、これは契約書だな。今日からセラヴィは君の下につくからな。ラグナルドとの契約解消書とこっちは君との契約書。神界と天界では場所も違えば制約も違うんだ。いざこざにならないためには必須なんだ。」
「なるほど…なんか地球の会社みたいですね。」
「そうするように進言したのは私だ。そこら辺のバランスがしっかりしてるのは日本だったのでな、参考にしたぞ。」
そういい少し自慢げな顔をするラグナルドさん。
はえ〜。初めて会った時にすごく厳格な方だとは思ったけどまさかここまでとは。僕も見習わないと。
「そうしたら黒川くん、ここにサインを頼む。……おい、ラグナルド。お前もだ。」
「はい!――黒川、柊二、っと。セラヴィさん、よろしくお願いしますね。」
「チッ…わぁったよ…。……すまねぇが、よろしく頼む。」
「……!言われなくても。貴方はラグナルドさんの所で少しでも良くなる様に勉強してくださいね。」
「……完璧だな。そしたら次は黒川くんの能力値だが。ここはお願いしてやってもらう手前、ある程度のステータスは必要だろう。一度与えたら死ぬまで変更は不可だからな、よく吟味する必要がある。」
「――皆様、私は一旦ここで。やらなければならないことがありますので。」
そういいセラヴィさんがこちらの返事を待たず目の前で姿を消す。
やらなきゃいけないことってなんだろ?まぁ、転生したら天界から指示出ししてくれるんだろうし、その準備とかなんだろう。すごく気合いが入ってるみたいだし、僕も頑張るぞ!
「私からは病気になりにくい身体と怪我の治るスピードが常人より少し早くなる治癒促進の加護をあげよう。ラグナルド、貴様からもなにか授けてあげるんだ。」
身体がピカ、と淡く光る。
おお…!なんかよく分からないけど、少し身体が軽い気がする!
「転生したらすぐ発動する様にかけておいたから君は病気とかには滅法強いぞ!」
……勘違いの様で恥ずかしいな…。
「ん。おらよ。」
「どれどれ…って貴様!!!なんだこの阿呆みたいな能力値と加護は!!こんなの神レベルではないか!!変えられん、と言ったろうが!このたわけ!!」
「うっせぇな!!……悪いとは思ってんだよ、これでも…。」
そう言い顔を背けるラグナルドさん。
……なんだ。この神様。頼り方が分からなかっただけで悪いって自覚はあったのか。
少し見直していると僕の身体が淡く光り透けだした。
「どうするんだ!こんな能力値と加護の量見たら唯一神様が泡吹いて倒れるぞ!?」
「あのじーさんのそんな姿見れたらおもしれーな。悔いはねーよ。」
「そう言う話ではない!!貴様、もしかしなくても自分が少しでも楽したいからこんな馬鹿げた数字にしたな…!?」
……はっ?え?まさか、そんなはずは。だっていまさっきあんなに自分のしたことに悔いてたじゃないか。
そんなことを思っているとますます薄くなる僕の身体。
こちらを向いたラグナルドさんはと言うと、おちゃらけていた。
「……バレた?」
「「ラグナルドオオオオオオオッ!!!!」」




